腎不全と診断されたら、経過観察や治療が必要です。慢性腎不全は進行するもので、良くなることはありません。徐々に進行して、食事や投薬だけでは腎臓の機能を補えなくなると、腎移植や透析による治療が必要になります。そのような状態まで症状が進んだものが、末期腎不全です。進行を少しでも遅らせて、末期腎不全になるのを遅らせることが治療の目標となります。

目次

安静と、薬物による治療

安静

腎臓は、体を横たえているときに血流量が最多になります。回復には一番よい状態ということです。また、活動の程度によっては腎臓に負担をかけてしまうことがあります。安静に、と言われたときは「これくらいなら大丈夫」と自己判断して身体に負担をかけることなく、しっかり安静にするようにしましょう。

薬物療法

進行を遅らせる目的で薬剤が使用されます。それぞれの薬剤の効果は、このあと説明する食事療法の補助をするようなものが多いです。

降圧薬

血圧を下げます。特に腎臓に負担の少ない降圧薬を選びます。

利尿薬

尿量を増やして、余分な水分や塩分の排泄を促します。

経口吸着炭素製剤

腸の中で、尿毒症の原因となる毒素とくっついて、便とともに排泄させる薬です。尿毒症の症状を改善します。

エリスロポエチン製剤

貧血がひどい場合、このホルモンの注射をすることがあります。貧血を改善することで、腎機能の低下を抑えます。

カリウム吸着薬

腸の中でカリウムとくっついて、カリウムを体外へ排出する薬です。高カリウム血症を防ぎます。

リン吸着薬

食べ物の中のリンを腸の中で吸着して、体に吸収させることなく体外へ便とともに排泄する薬を使って体内のリンを減らします。

活性型ビタミンD製剤

腎臓の働きが低下すると、活性型ビタミンDが低下し、カルシウムが吸収されなくなるため、骨が弱くなってしまいます。活性したビタミンDを補う薬で、骨がもろくなるのを防ぎます。

治療と生活の要、食事療法

身体の中の老廃物を作るものの第一は食事です。食事内容をコントロールすることで、老廃物のコントロールをすることができます。

たんぱく質

たんぱく質は筋肉や血液を作るのに大切な成分です。しかし、たんぱく質が多いと体の老廃物が多くなり、腎臓の仕事を増やしてしまいます。制限は体重やクレアチニンの値により設定します。

塩分

塩分を摂りすぎるとナトリウム(塩分)濃度を一定にするために水分が多く体に引き寄せられます。すると、むくんだり、血液量の増加により血圧が上昇したりします。腎機能が落ちているとナトリウムを排泄する機能も落ちているため、塩分負荷により高血圧むくみが現れやすくなります。

血圧上昇は腎臓の血管に障害を及ぼし、さらなる腎機能低下につながるという悪循環を引き起こします。状態により、塩分の摂取量を6g未満に制限します。

カリウム

腎臓の働きが低下すると、体の中の余分なカリウムを排泄できず、体に溜まってしまいます。カリウムには神経の伝達や心臓のリズムを整えるという働きがありますが、血液中に多くなりすぎると、高血圧や不整脈を引き起こすことがあります(高カリウム血症)。

野菜や果物、豆類に多く含まれているので、好んで食べる方は特に注意が必要です。

リン

腎機能の低下で、リンの排泄がうまくできなくなります。リンは骨や歯を作る成分のひとつで、カルシウムと結びついて仕事をします。リンが体内に増えると、副甲状腺ホルモンの産生が増加し、リンと結びついたカルシウムが骨から出てしまうため、骨がもろくなってしまいます。

多くなりすぎたリンは血管の平滑筋細胞を骨の細胞に変化させたり、カルシウムとともに血管に沈着したりして、動脈硬化の原因になることもあります(高リン血症)。乳製品に多く含まれ、また添加物としても使用されるため、外食や加工食品を好む方は注意が必要です。

カロリーは減らさない

制限がいろいろある中で、カロリーは制限されません肥満や糖尿病の方は別です。摂り過ぎはいけません)。必要なエネルギー量(だいたい理想体重あたり25-35kcal)はしっかり摂ることが大切です。エネルギーが足りないと、体内のたんぱく質が壊されて、老廃物が増えてしまうからです。これではせっかくたんぱく質を制限しても、努力が無駄になってしまうのです。制限する成分には気をつけながらも、食事の量が減ってしまわないように気を付けましょう。

計算例

身長160cmの人の場合
標準体重=1.6(m)×1.6(m)×22=56.3(kg)
56.3(kg)×25~35(kcal)=1407~1970(kcal)

透析になったら…血液透析と腹膜透析

ダイアライザ―機具-写真

血液透析

血液を一度体の外に出し、ダイアライザー(透析器)という機械に血液を通して、老廃物や不要な水分を取り除いて、血液をきれいにして体に戻す方法です。

血液の出し入れをするために、静脈と動脈をつなぎ合わせて太い静脈を作る(シャントといいます)手術が必要となります。

1日約4時間以上の透析を1週間に3回行います。通常は医療機関に通って行います。

医療機関での教育を受けることで、在宅での血液透析を行うことも可能です。在宅血液透析を行う患者さんはまだ全体の0.1%だけですが、少しずつ増えてきているようです。日本では透析患者さんの96.9%が血液透析を選択しています(全腎協より)。

腹膜透析

透析液をおなかに入れて、自分の腹膜を使って血液をきれいにする方法です。透析のためのカテーテルをおなかに埋め込む手術が必要です。日本での普及は透析患者さんの3.1%です(全腎協より)。1日に数回、自分で行う方法(CAPD:連続携行式腹膜透析)と、寝ている間に機械で行う方法(APD:自動腹膜透析)があります。

毎日透析ができるので、透析不均衡症候群(※)になりにくく、生活に合わせて透析ができます。ただし、5~10年という限られた期間しかおこなうことができません。

透析不均衡症候群

血液透析では、血管内の血液の老廃物はなくなりきれいになりますが、脳の老廃物は排泄されにくく、血液透析後は脳と血液の電解質などの濃度のバランスが悪くなります。そのため脳圧が亢進し、頭痛、吐き気、嘔吐などの症状が出ることがあります。

腎臓移植という方法

日本では数は少ないですが、腎臓移植という根治療法があります。腎不全の合併症や、透析、食事制限から開放されるという大きなメリットがあります。一方で、拒絶反応を防止するために免疫抑制剤を使用する必要があったり、その副作用が起こったり、移植した腎臓の機能がまた低下してしまったりすることもあります。良いタイミングで自分に合うドナーが見つかるという確率も低く、誰でも受けられる治療ではないというのが現状です。

何に気をつけて生活したらいい?

「腎臓に負担をかけないこと」に気をつけます。

食事制限がある方はそれを守ります。運動は腎機能悪化に関与する、高血圧、耐糖能異常、脂質異常症、肥満などを改善する効果があることから重要です。医師と相談しながら、自分のペースを見つけましょう。

過度な飲酒は腎機能障害につながる生活習慣病の発症につながるので適正飲酒を心がけましょう。また、喫煙は腎機能障害のリスク要因であるので、禁煙を心がけましょう。

まとめ

腎不全の進行度合いにより、いろいろな制限も治療も少しずつ変わってきます。その時々の身体の状態をよく理解して、治療・生活に臨みたいですね。