腎臓は、身体にとって不必要な老廃物や余分な水分を取り除く臓器です。身体にとって欠かせない働きをする腎臓ですが、糖尿病などでその働きが低下してしまう(腎不全)と、元に戻すことはできません。腎臓の働きが通常の15%以下まで下がってしまった場合、生命に関わることも考えられるため腎代替療法を考えなくてはなりません。

本記事ではこの腎代替療法のうち、日本国内で最も選択されている血液透析(HD:Hemodialysisを受ける患者さんが知っておいてほしいことを解説します。透析治療では自己管理も非常に大切なので、その点を理解するためにも本記事を役立てていただければ幸いです。

目次

腎代替療法には3つの選択肢がある

腎代替療法として行われているのは、血液透析、腹膜透析、腎移植の3つの方法です。

人工透析」という治療法を耳にしたことがある方は多いと思います。人工透析には血液透析と腹膜透析の2種類があり、患者さんの腎臓の状態やライフスタイルなどを考慮して治療法を選びます。血液透析は、血液を一度体外に出し、そこから老廃物を取り去って体内に戻す方法で、日本では透析患者さんのうち96.9%がこの治療法を選択しています(全国腎臓病協議会より・2012年時点のデータ)。

血液透析のしくみ

透析を受ける男性-写真

まず、バスキュラーアクセス(後述)と呼ばれる血液の出入り口に、血液が出る用・入る用の針を刺します(穿刺)。どのくらいの血流量で血液を体外へ抜き出す(脱血)かは、患者さんそれぞれによって異なります。体外に出された血液は、血液ポンプを通り、ダイアライザーという機械に送られます。

ダイアライザーは透析器とも呼ばれ、数万本ものストロー状の細い糸が通った装置です。糸の外には電解質(ミネラル)とアルカリ剤が溶かされた透析液が入れられており、血液と反対方向に流されています。ストロー状の糸には、小さな分子のみを通す細かな孔が開けられており、そこから老廃物や余分な水分が透析液の中へと出ていきます。さらに、透析液からは重炭酸が血液中に補充され、血液を中性の状態へと調整しています。こうしてきれいになった血液を、静脈側の針から体内に戻します(返血)。

1回あたり4時間程度の血液透析を週に3行うのが一般的ですが、頻度や時間は患者さんに合わせて決められます。血液透析はしっかりと管理された状態で行う必要があり、専門の施設に通院することが多いです。

血液透析のためには「バスキュラーアクセス」の準備が必要

血液透析を受けるためには、バスキュラーアクセスと呼ばれる血液の出入り口を設ける必要があります。多くの場合、腕などの血管に「内シャント」を作成する手術を行います。

シャントは、動脈と静脈をつなぐ短絡路です。静脈により多くの血液が流れるようにすることで、太い針を刺し十分な血液を取り出すことができるようになります。通常、利き腕と反対側の腕の手首付近に作成します。

シャントを作る手術は、一般的には局所麻酔で1~2時間程度で終わります。

血液透析のいろいろ:こんな治療法もある!

上記では、一般的な例として「1回あたり4時間程度の血液透析を週に3回」「専門の施設に通院することが多い」と記載しました。しかし自宅で行う透析もあり、血液透析にも様々な形が登場しています。ここではその一部をご紹介します。自分に合った治療法について、医師とよく相談するようにしてください。

  • 長時間透析:1回6時間以上、週3回の透析を行う治療法です。本来24時間働いている腎臓の状態に近づけることで、より無理のない透析を行うことができます。一方で自由な時間を束縛するという欠点もあります。
  • 頻回透析:週5回以上の透析を行う治療法です。心機能改善効果が報告されています。
  • オーバーナイト透析:睡眠時間(7~8時間)を利用して行う透析方法です。体感時間が短いこと、日中の就業時間を確保しやすいことが特長です。
  • 在宅血液透析:施設と同じような機器を自宅に設置します。年々少しずつ増えてきている治療法です。透析中は、介助者が近くにいる必要があります。
  • オンライン血液透析濾過:透析液を血液に補充し、血液透析に加えてろ過を行う治療法です。血液透析だけでは除去しづらい低中分子蛋白領域の物質除去ができます。透析中の血圧の安定効果や合併症の減少などが報告されています。
  • 間歇補充型血液透析濾過:一定時間おきに透析膜を介して透析液を血液に補充する、新しいタイプの透析療法です。末梢循環改善ならびに、透析中の血圧の安定効果、毒素除去率の亢進が期待されています。

こんな症状には要注意!

血液透析では、水分や老廃物の除去により血圧が下がることがあります突然気分が悪くなる、冷や汗めまい、発汗などの症状がみられたら医療スタッフに相談してください。

透析を開始した頃には、脳内の圧力が上がることにより頭痛吐き気がみられることがあります。これは不均衡症候群といい、次第になくなることが多いですが、症状がひどい場合には点滴で脳圧を下げる場合もあります。

加えて、透析後は疲れを感じる方が多いです。翌日までに回復することが大半ですが、気分が優れない状態が続くようであれば医師に相談してください。

 

あわせて、長期間に渡って血液透析を受けていると、動脈硬化による心合併症や骨の合併症などが起こることがあります。

血液透析患者さんに知ってほしい、4つの自己管理

血液透析は「透析を受けさえすれば良い」というものではありません。自己管理を適切に行わないと、合併症が生じる危険性を高めてしまいます。長年の生活習慣を変えることは大変ではありますが、自身の生命を守るためにも、医師のアドバイスに従って自己管理を行いましょう。

体重管理が何より大切

血液透析では、終了時の目標体重をドライウェイト(DWと定めています。透析が終わった段階での体重は機械的にこのDWになるため、透析患者さんは自身が太ったか痩せたかを把握することができません。そのため、適正なDWを決める必要があります。

また、尿の量の減少に伴い、透析と透析の間に体重が増加します。これは太ったわけではなく、尿として排出されなかった水分が体内に留まっているだけです。この体重分を透析で除去(除水)するのですが、あまりに体重が増加していると透析を行うことが困難になります。ですから、透析中は水分のとりすぎを防ぐため、できるだけ喉の渇きを防ぐことが大切になります。塩分を取りすぎると喉の渇きは増すため、塩分摂取量は1日6g程度に制限するようにしてください。

食生活にも注意が必要

血液透析を始めたらタンパク質の摂取を少し増やしてください(標準体重1kgあたり0.9〜1.2g)。一方、上述の塩分制限に加え、カリウムリンの摂取は制限する必要があります。リン吸着薬の服用なども必要に応じて医師の指示に従って行ってください。

カリウムの摂りすぎは高カリウム血症による突然死を、リンの摂りすぎは動脈硬化、骨の痛みや骨折を起こしやすくするおそれがあります。

シャントの管理はしっかりと

シャントは長く使っていると血流が悪くなり、作り直しが必要になることがあります。できるだけ長持ちさせるために、下記に気を配ってください。

  • シャント部分に耳を当ててザーザーという血液の流れを確認し、詰まりを早期に発見する
  • シャント部分を長時間圧迫しない(重いものをぶらさげない、腕時計や手さげかばんなどで絞めつけない、手枕をしない、血圧を測らない)
  • シャント部分を清潔にし、感染を防ぐ

抜歯や手術を行うときは、必ず伝えて

血液には、体外に出ると固まる性質があります。人工透析でも同様に、そのまま血液を抜き出すと固まってしまうため、抗凝固薬という薬品を用いて血液を固まらないようにしています。そのため、出血すると血が止まりにくくなります。

抜歯や手術は通常、透析を行わない日に行います。透析の日程や抗凝固剤の種類を変えることもあり、これらの予定がある場合、必ず医療スタッフに伝えてください。

さいごに

人工透析は、一度開始したら腎移植を受けない限りは生涯続ける必要があります。透析療法を始めることに抵抗がある方もいると思いますが、現在は個々の患者さんのライフスタイルに合わせて様々な透析療法が選択できるようになりつつあります。主治医とも相談しながら、自分にあった形の治療を受けましょう。また、透析治療を開始したら体重管理や食事管理をはじめとする自己管理も欠かせません。合併症を防ぐためにも、これらの項目をしっかり守ってくださいね。