野ウサギがもつ菌によって発症する野兎病。日本では1995年以降の報告はありませんが、海外では現在でも流行しており、海外渡航者の方などは注意しておきたい感染症の1つです。ここでは野兎病とはどんな病気なのかをご紹介します。

目次

野兎病とは?

野兎病とは、動物から感染する最近のひとつである野兎病菌によって感染症状を起こす病気です。自然界では、野兎病菌は蚊やダニを介して野ウサギげっ歯類などが保菌しています。

日本では1924年に初めて感染例が報告されました。戦後は野兎を解体、捕食する機会が多かったため患者数が爆発的に増加しました。初めての感染例から1994年までの間で、特に東北地方・関東地方を中心に1,372件もの感染者が報告されました。

1995年の千葉県での報告を最後に、現在まで野兎病の感染例は報告されていません(国立感染症研究所より)。しかし、海外では北米、北アジア、ヨーロッパ、米国、スウェーデンでは感染例があるため、海外渡航者には注意が必要な感染症の1つです。

野兎病の症状

野兎病は初期では無症状であるため、診断がつけにくい疾患といえます。菌が体内に潜入してから3日後~1週間以内に突然38~40度の発熱、寒気、身体の震え、頭痛、筋肉痛、関節痛など風邪をひいたときと似たような症状が出ます。菌に感染してから2週間~1か月後に症状が出る人もいます。

野兎病菌は体内侵入後に増殖し、侵入部位から1番近いリンパ節で炎症を起こし、他のリンパ節へと炎症を広げていきます。そのため熱は上がったり下がったりを繰り返し、なかなか平熱に戻らずに経過します。治療を行わないと体力消耗、体重減少などを来し、重症化すると肺炎、敗血症、髄膜炎を起こす可能性もあります。

野兎病の感染経路

野兎病菌の感染経路は様々です。

特に多いのは野兎病菌を持った虫に刺される噛まれた場合や野兎病菌に汚染されている動物の血液に接触するといった直接感染です。スウェーデンやフィンランドでは2000年に、蚊によって野兎病が大流行しています。日本では動物への接触や捕食による感染者が多いようです。

また、野うさぎ以外でもリス、ネズミなどからの感染の可能性があります。アメリカではペットショップで購入し、飼育していたハムスターに手を噛まれた3歳の男の子が野兎病に感染した例も報告されています。

さらに直接感染に加え、菌が含まれている埃を吸い込んだり、生水を飲むんだりすることによる間接感染も報告されており、感染力の強い菌であることがわかります。

一方、人から人に感染することはないとされています。

野兎病の治療法

注射器-写真

野兎病は早期の治療開始が重要となる疾患です。治療は抗菌剤の注射とテトラサイクリン系抗菌薬の投与を行います。これを2週間続けて症状が軽快しなければさらに薬の量を減らしつつ1~2か月間の投与を行います。

また、リンパ節に菌が入り込み炎症を起こしている場合は3~4日おきにリンパ節に太めの直接針を刺して膿を取り出す排膿という処置を行います。この処置でも十分膿が取り出せなかった場合は、切開排膿といい、膿がたまった部分に麻酔をし、切開して膿を取り出す処置を行います。

野兎病の予防法

野兎病にはワクチンがあり、接種後約3週間で抗体を作ることができ、数か月から数年は免疫が持続します。ワクチンを打ったからといっても必ず野兎病を予防できるというわけではありませんが、野兎病の流行地への渡航前や野山での作業が多くなる時期では接種をしておくと良いでしょう。

また、野兎病の流行地へ渡航した際は肌の露出を避けダニや昆虫に噛まれないようにしましょう。野うさぎなどの野生動物との接触を避けることや生水を飲まないようにすることも推奨されます。

さらに、野兎病の病原菌は水や土、死体の皮の中では生き続けることができます。しかし熱には弱く55度で10分間加熱することで不活化します。他にも塩素殺菌や0.5%の次亜塩酸ナトリウムを噴霧し10分後に70%のアルコールを使用することで消毒ができます。

野兎病流行地でもしも土や水に衣服などが接触した場合は、このような方法で菌を不活化、消毒するのも野兎病の予防方法となります。

まとめ

かわいい野生動物を見たらついつい触りたくなってしまうかもしれませんが、野生動物は感染症の菌を持っている可能性があると見て十分注意しなければなりません。また、現在日本での感染例の報告がないとはいえ、野生のうさぎを食べる際やキャンプのため野外で過ごす際は予防を十分に行えると良いでしょう。