クリプトスポリジウム病という感染症をご存知ですか?国内での大規模な感染が最後に起こったのは1996年ですが、ほぼ毎年、日本国内のどこかでクリプトスポリジウムが検出されており、実はとても身近な感染症といえます。塩素で死滅しないために水道水の中に混じる可能性があり、厚労省が給水施設への対策を講じています。

クリプトスポリジウム病の症状や治療法などについて解説しています。

目次

感染の原因を教えてください

クリプトスポリジウムという原虫が原因となる感染症です。原虫症と呼ばれる病気の仲間です(原虫症は有名なところでは、ほかに、アメーバ赤痢症やトキソプラズマ症があります)。哺乳類、爬虫類、鳥類などの消化管に幅広く寄生する原虫で、それらの糞尿に混じって排出されることで、水中や土壌を汚染します。1976年にヒトでの感染がはじめて報告されました国立感染症研究所より)。

感染経路には水→ヒト、家畜→ヒト、ヒト→ヒトの3つのパターンがあります。

  • 水→ヒト:放牧場、畜舎周辺、有機肥料の利用などにより土壌が汚染され、土壌にふれたり、その土壌から流れた水源からの水により感染します。
  • 家畜→ヒト:直接接触での感染、飲料水、汚染された食品を口にすることで感染します。
  • ヒト→ヒト:排泄物で汚染された手などで触れた食材・水を口にすることで感染します。

潜伏期間と症状

潜伏期間は3~10日程度で、下痢、腹痛、嘔吐、食欲不振、などの症状が出ます。下痢の症状は、1日20回以上になるような激しい場合もあれば、1日に数回程度で済む場合もあり多様です。

症状は数日~3週間程度続くこともありますが、通常は自然治癒します国立感染症研究所より)。

ただし、HIV・AIDSの患者さんでは重症度の高い下痢症を引き起こし、致命的になることもあるため注意が必要です。クリプトスポリジウムの原虫は健康な人では小腸付近にのみ寄生しますが、HIV・AIDS患者さんの場合には胆嚢、胆管、呼吸器への寄生も報告されています。

治療・予防について

手洗い

通常は自然治癒する病気のため、食事制限と水分摂取(経口補水液)を行います。痛みが強い場合は鎮痙剤、激しい下痢がみられる場合は止瀉剤を使用することもあります。一方、HIV・AIDSの患者さんの場合には、HIV・AIDSの進行にともない感染症の症状も重症化する傾向にありとても危険です。この場合、下痢の症状が長期化した場合には、抗原虫薬を内服します。

個人でできる予防としては、トイレのあと・動物に触れたあとの手洗いをしっかりすることです。プールなどで集団感染するケースもあるため、プールに入る前とあとにしっかりと身体を洗うこと、水泳中に水を飲まないようにすることも大切です。また、海外や畜舎周辺では生水は口にしないことも予防となります。

感染しやすい地域は?

世界中で感染する可能性がありますが、衛生環境が整っていない国や地域での感染例が特に多い傾向にあります。また、上下水道の整っている地域でも、不慮の水系汚染による大規模な感染もみられます。日本国内では1996年に埼玉県入間郡越生町で町営水道水を汚染源とする集団感染が発生しています。このときは8,800人の町民に被害が出ました(国立感染症研究所より)。

まとめ

国内では現在、そこまで感染の危険が高いとはいえませんが、感染源はとても身近にある病気です。病気などを理由に抵抗力が落ちているという方は、特に注意する必要があるでしょう。また、周囲の人に感染を拡大させない配慮も大切です。