自然界に生息するマダニは様々な疾患を引き起こす恐れがあり、その中の一つに「ダニ媒介脳炎」があります。日本ではあまり聞き慣れない病名ですが、海外、特に中央ヨーロッパや東ヨーロッパでは流行がみられます。マダニを媒介して感染するウイルスによって脳炎が起こる病気で、後遺症が残ったり、死亡したりすることもあります。今回はダニ媒介脳炎について説明していきます。

目次

ダニ媒介脳炎とは

マダニは普段、牧草地や森林など草の生い茂った場所に生息しています。そのマダニが保有するフラビウイルスは、日本脳炎を引き起こすウイルスとしても知られています。感染するルートは、直接ウイルスを持つマダニに咬まれること、もしくはウイルスに感染したヤギや羊の未殺菌の乳やチーズを摂取することです。

日本人では渡航先でダニ媒介脳炎を発症して死亡した例が報告されていたり、国内では北海道で発症した例が3件確認されたりしています(数字は2017年7月末時点)。世界的には毎年6,000人、多くて1万人前後の発症報告があります(厚生労働省より)。ロシアやバルト三国(リトアニア、エストニア、ラトビア)、スロベニア、オーストリア、ドイツ、スウェーデンなどで多くみられます。

屋内や管理が行き届いた場所には生息していません。

ダニ媒介脳炎の種類

ダニ媒介脳炎はいくつかの種類があり、主なものはロシア春夏脳炎中央ヨーロッパ脳炎の2つです。ダニ媒介脳炎はさらに細かく分類すると、ヨーロッパ亜型、シベリア亜型、極東亜型の3つの亜型(サブタイプ)に分けられます。

ロシア春夏脳炎は極東亜型によって起こり、ロシア東部や中国、日本(北海道)で発生がみられます。中央ヨーロッパ脳炎はヨーロッパ亜型によって起こり、その名の通り主にヨーロッパが発生の中心です。シベリア亜型はロシアやアジアでよくみられます。バルト三国、ロシアは3つすべての亜型が発生します。

ダニ媒介脳炎の症状

腕をダニらしきものに咬まれて当惑する親子

発生時期はマダニの活動が盛んになる4~11月です。感染ルートによって潜伏期間に差があり、マダニに咬まれて発症するときは7~14日間、乳やチーズを摂取して感染した場合は3~4日間です。

ダニ媒介脳炎ウイルスに人が感染した場合、三分の二は症状が出ません(不顕性感染)。しかし発症した場合は髄膜脳炎へと進行していきます。特徴的なのは子供が発症したときで、髄膜炎の症状で留まることが多く、脳炎まで進むケースは稀です。

ウイルスの亜型によって症状や致死率は異なります。

ロシア春夏型脳炎の症状

激しい頭痛、発熱、吐き気、嘔吐がみられた後、髄膜脳炎へと進むか、回復します。髄膜脳炎の症状は精神の錯乱や麻痺、痙攣などです。発症した場合の致死率は20%とされていて、中央ヨーロッパよりも高い数字です(厚生労働省より)。

中央ヨーロッパ脳炎の症状

中央ヨーロッパ脳炎は二相性と言われる経過を辿っていきます。

まず38度以上の高熱、頭痛、筋肉痛などインフルエンザに似た症状が1~10日間続きます(第一相)。その後、三分の一は髄膜脳炎へと進行し、痙攣めまい知覚の異常などがみられます(第二相)。第一相と第二相の間には、無症状の期間が8日間程度みられます。致死率は1~5%で、感覚障害難聴などの後遺症が35~60%にみられるといわれています(国立感染症研究所より)。

ダニ媒介脳炎の治療・予防は

ダニ媒介脳炎には特別な治療法がありません。そのため予防することが何よりです。もし咬まれた場合はすぐに皮膚科を受診し、マダニの頭が皮膚に残らないように除去する処置を受けましょう。海外の流行地域では不活化ワクチンの接種を行うこともありますが、残念ながら日本では未承認のワクチンです。

予防の基本は、ウイルスを保有するマダニに咬まれないことが重要です。流行地域に渡航予定で、特にマダニの生息する森林地帯に行く可能性があるヒトは、袖口や裾の絞られた長袖長ズボン足を覆う靴を着用して肌の露出をしないことが大切です。マダニを見つけやすくするためには、薄い色の服を身につけると良いでしょう。

ペルメトリンという虫よけと殺虫効果のある薬を服に染み込ませておくことも有効策の一つです。野外活動後は入浴して、マダニに咬まれていないかチェックしましょう。流行地域で未殺菌の乳やチーズなどの乳製品を口にしないようにすることも大切です。

また森林地で作業予定がある場合は、渡航前にの国内の検疫所で行っている健康相談を活用しましょう。

まとめ

マダニが持つウイルスによって感染するダニ媒介脳炎は、発症すると死に至ることもあります。ヨーロッパやロシア、北海道などの森林地帯に入る予定がある場合はこのような疾患があることを知り、予防しましょう。流行地の森林地での作業をする場合は、渡航前に検疫所で相談し、対策を取ることがお勧めです。