現在日本は、海外旅行出国者数が年間約1700万人と大変多く、海外旅行がとても身近なものになっています。旅行の開放的な気分から、見ず知らずの人と関係を持ってしまったという旅行者は後を絶ちません。海外では、どんな性感染症に注意が必要なのでしょう。
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)
HIV「ヒト免疫不全ウイルス」は、AIDS(エイズ)「後天性免疫不全症候群」の原因となるウイルスです。現代では抗HIV薬によって、HIVに感染してもAIDS(エイズ)を発症させずに長期のコントロールが可能になりました。とはいえ、完全にウイルスを排除できる治療法が確立されていない点で、やはり怖い病気です。HIVの感染初期には免疫機能の破壊に伴い、風邪のような症状がみられる場合があります。
UNAIDSレポートによると、HIV陽性者はサハラ以南のアフリカに特に多く、成人のおよそ20人に1人はHIVに感染しているといいます(世界中のHIV感染者のうち、7割程度がサハラ以南で生活しています)。加えて東南アジアなどの発展途上国でも、病気や予防方法についての教育が広まっていない低所得者を中心に、感染が未だに広がっています。感染力が弱いとはいえ、見知らぬ人と性的接触を持つ際には注意が必要です。
症状
感染から数週間後に
が現れます。
これらの症状に男女の差はありません。ただ、これらの症状はHIV感染だけに見られる症状ではなく、風邪や体調不良との鑑別が難しいです。感染したかもしれないと思ったら、医療機関にて検査を受けるとよいでしょう。
性器クラミジア感染症
性器クラミジアは、日本でも世界でも最も患者が多い性感染症です。そのため、渡航時にも十分に感染の危険の高い性感染症であると言えます。
性器クラミジア感染症は、一回での性交渉による感染率が30~50%といわれるほど感染力が強い割に、男女ともに多くは無症状のまま経過するともいわれ、気が付かずに他人にうつしてしまいます。
男性の症状
- 尿道炎による排尿時の痛みや違和感
- 尿道からの膿の流出など
女性の症状
- 子宮頸管への炎症によるおりものが増加
- 少量の出血など
どちらも感染から数週間で症状があらわれます。ただし、男女ともに無症状の場合も多くあります。
淋菌感染症
淋病は、日本でクラミジアに次いで感染者が多く、男性に多い性感染症です。一度の性行為で女性から男性に感染する確率はおよそ2割ですが、男性から女性への感染率はさらに高いといいます(MSDマニュアルより)。
男性の症状
感染後2~7日で
- 尿道からの膿
- 激しい排尿痛
- 勃起時の痛み
- 尿道のかゆみ
- 陰嚢の腫れ
- 発熱
治療せずに放置すると精巣上体炎・前立腺炎・尿道狭窄が起こり、不妊の原因にもなります。
女性の症状
- 軽い残尿感
- 排尿痛
- おりものの増加や異臭
- 発熱
ただし、症状が軽く無自覚の場合も多くあります。
また、治療せずに放置すると子宮内膜炎や卵管炎を起こし、子宮外妊娠の原因となることがあります。
軟性下疳(なんせいげかん)
抗生物質によりすぐに治る性感染症で、短期間で治療ができるため、日本では患者が減っており、日本国内での感染はほとんど見ることがありません。しかし、熱帯地方ではいまだに多発しており、アフリカ、東南アジア、南米に渡航の際に注意が必要な性感染症です。
また、軟性下疳は外陰部に潰瘍をつくります。そのため、HIVに感染している女性が軟性下疳の潰瘍を持っていると、性交渉でHIVを感染させる危険が大きくなります。
症状
感染後4~7日で
- 性器周辺に豆粒大のコブ
- 潰瘍
- 接触時の強い痛み
感染後1~2週間で
- 太もものリンパ節の腫れ・痛み
これらの症状に男女の差はありません。抗生物質での治療が可能な病気ですが、日本では珍しいため、日本での受診の際には性感染症の可能性があることや渡航場所を医師に伝えると良いでしょう。
性器ヘルペスウイルス感染症
性器ヘルペス感染症の原因は単純ヘルペスウイルスです。このウイルスは死滅させる治療をすることはできず、一度感染すると神経の接続部分である神経節に潜伏して、何度も性器の皮膚や粘膜で再発を繰り返してしまう感染症です。一生に渡り付き合い続けなくてはならない病気のため、時に精神的な苦痛が大きい性感染症ともいえます。
症状
初めて感染した際は、
- 性器のムズ痒さやヒリつき
- 性器やおしり周辺の赤い約1mmの発疹
- 水ぶくれ
- 潰瘍(皮膚のただれ)
- 太もも周辺のリンパ節の腫れ
- 発熱
- 痛みによる歩行困難、排尿困難
などが見られます。
男性の場合、始めは軽いかゆみや痛みですが、どんどん強い痛みに変わります。
女性は急性型の場合、炎症症状が激しく、激痛を訴えることもあります。また、女性の場合、ヘルペスウイルスが広がる範囲は、外陰部だけでなく、膀胱や子宮などにも及びます。
梅毒
梅毒は、梅毒トレポネーマという病原菌によって起こる病気です。世界中に広く分布している疾患で、日本での患者数も近年は増加傾向にあります。
早期であれば薬による治療で完治させられるのですが、長い間放っておくと脳や心臓に合併症を起こすことがあります。無症状で進行する場合もあるほか、母親が感染していると胎児にも感染し(先天梅毒)、死産や早産、新生児死亡、奇形が起こる場合もあります。
症状
- 感染後約3週間
- 口・唇、陰部、肛門などにしこりができる
- 脚の付け根部分のリンパ節が腫れる
- 感染後数ヶ月
- 手のひら、足の裏、体全体に赤い発疹が出る(バラ疹)
- 感染後数年
- 皮膚・筋肉・骨にゴムのような腫瘍(ゴム腫)ができる
- 心臓・血管・脳などに病変が生じる
予防法、一番はコンドームの使用

国内外問わず、一人とでも性交渉を持てば、性感染症にかかる可能性はゼロではありません。そのため、不特定多数の相手と性行為を行うことは性感染症のリスクを高めます。当然、性風俗に従事している人はハイリスクであり、既に何らかの病気を持っている可能性があると考える方が無難です。
シンガポールのように国をあげて風俗業従事者に定期的な健診を義務付けていたとしても、リスクが全くないということはありえません。そのため、性感染症にかからないための一番の予防法は「性行為を行わない」ということになりますが、これは現実的ではありません。
その次に効果の高い予防法が、コンドームを正しく使用することです。注意点は以下の通りです。
- 行為の最初からコンドームを使用する
- どんな性行為であってもコンドームの使用がベター
- 品質の確保されたコンドームを使用する
- オイル等との併用を避ける
挿入前から、男性器から病原体を含む精液は出ています。膣に挿入しない、素股やオーラルセックスでも体液からの感染の可能性があるため、全ての行為で最初からコンドームを使用するのが理想的です。また、先進国以外で手に入るコンドームは品質が証明されていない物もあり、特に風俗従事者が持参するコンドームは確認がとれません。日本製などでJISマークのある品質の高いものを携帯することをお勧めします。
さらに海外で性行為の際、オイルが用いられることもあるかと思いますが、オイルにより皮膚がかぶれることもあるのと同時に、オイルによりコンドームが劣化し破損する事があります。注意すると良いでしょう。
また、キスをすると口から感染するのでキスはしないようにするとよいでしょう。
その他の予防方法としては、コンドームほど効果が高くないものの
- 相手の性器を確認し、相手を選ぶ
- 性行為をする場所は清潔な場所を選ぶ
- 体調不良時、生理中の性行為はしない
などが挙げられます。
まとめ
今回挙げた性感染症は6つですが、他にも可能性のある性感染症はたくさんあります。どの性感染症にとってもコンドームは有効な予防法ですので、性的な接触の可能性が高い旅行の際にはぜひ持参・携帯をしてください。
そして性感染症にかかった可能性のある場合には、早めに医療機関で検査を行いましょう。また、海外旅行保険でも保険適応となる場合もありますので、加入した保険会社に問い合わせるとよいでしょう。
現在、性感染症は珍しいものではありません。現在または未来のパートナーのためにも早期発見・早期治療を行ってください。