貧血といえば、鉄分の不足からなる「鉄欠乏性貧血」のイメージが強いかもしれませんが、病気が原因で起こる貧血もあります。そのひとつが、腎臓病が原因となる「腎性貧血」です。鉄欠乏性貧血とは原因も治療法も異なるので、腎臓病の方は特に注意が必要です。
腎臓から分泌されるホルモンが原因
そもそも、貧血とは、全身の血液(赤血球)が足りないことが原因で起こります。通常は、赤血球の中にある「ヘモグロビン」が酸素の運搬役として全身にくまなく酸素を届けていますが、何らかの原因でヘモグロビンが減少すると、貧血の症状が現れます。
貧血かどうかは、ヘモグロビン濃度(g/dL)で判定されます。日本臨床検査医学会によると、下記のような基準になります。
- 成人男子:13g/dL以下
- 成人女子:12g/dL以下
- 学童:12g/dL
- 高齢者・妊婦:11g/dL以下
鉄欠乏性貧血が、鉄分不足によってヘモグロビンが減少するのに対し、腎性貧血は「エリスロポエチン」の分泌量が関係しています。これは、腎臓から分泌されるホルモンで、赤血球をつくる働きを促しています。
通常、エリスロポエチンは必要な分だけつくられていますが、慢性腎臓病(CKD)の患者さんなど、腎機能が低下していると分泌量が少なくなります。すると、赤血球が足りない状態となり、貧血になってしまいます。
腎性貧血になるとどうなるの?
腎性貧血は、鉄欠乏性貧血と同様に下記のような症状が現れます。
- 疲れやすい
- 動悸
- 息切れ
- めまい
ただし、貧血の症状はゆっくり進行するため、貧血だと気がつかないうちに貧血が重くなってしまうケースもあります。このような症状が続くようでしたら、早めに医療機関を受診しましょう。
腎性貧血で注意したいのが、腎臓病との関連です。早期に貧血治療をすることにはCKDの進行を抑える効果が期待できるため、腎臓病についてもメリットがあるといえます。
腎臓だけでなく心臓に負担も

また、貧血になると、全身に十分な酸素が送られなくなることから、酸素不足を補おうとして心臓に掛かる負担が大きくなります。このような状態が続くと、心臓の病気につながるケースもあります。腎臓以外の臓器に影響を及ぼさないためにも、やはり、早めに適切な治療をすることが重要です。
鉄剤ではなく腎性貧血治療薬を使用
鉄欠乏性貧血の治療には、一般的に鉄剤が使われてますが、腎性貧血は鉄剤だけでは症状は改善されません。エリスロポエチンの分泌が減ることが腎性貧血の原因なので、分泌不足を補う効果がある腎性貧血治療薬を使います。
日本腎臓学会のCKD診療ガイド(2012年)によると、ヘモグロビン濃度が10g/dL以下で腎性貧血治療薬による治療が推奨されていますが、数値が上がれば良いというわけではありません。薬を減らしたり、休薬したりするなどして、10〜12g/dLの範囲内で数値をキープすることが望ましいとされています。
まとめ
腎性貧血は、鉄欠乏性貧血と症状にさほどの違いはないものの、根本的な原因が違うため、治療法が異なるということが重要なポイントです。慢性腎臓病の患者さんにとっては、腎臓病の進行にも関わる病態でもあります。気になる症状が現れたら、たかが貧血とあなどらず、早めに医療機関を受診しましょう。