肝臓の中に膿が溜まってしまう病気を肝膿瘍といいます。膿瘍とは膿の塊のことで、肝臓内に膿瘍が出来る原因は細菌などの感染です。発熱などの症状は現れますが、特別変わった症状は出ないため気づきにくい疾患です。また、進行すると命に関わる場合があります。今回は肝膿瘍について、その原因や治療法などを紹介していきます。

目次

肝膿瘍は感染源によって2種類

肝膿瘍の症状は悪寒や震えを伴う38度以上の発熱です。この発熱は体温が常に37度以上あり、さらに1日の中で1度以上変動する弛張熱(しちょうねつ)と呼ばれるものです。

このほか右上腹部の叩打痛(叩くと痛みが生じる)肝腫大(肝臓が腫れる)がみられます。

進行した場合は、ショックを起こしたり、汎発性血管内凝固症候群(DIC、微小血管内で血栓が多くできて、全身の臓器障害や重篤な血圧低下をきたす)に移行したりして命に関わる恐れがあります。

肝膿瘍は原因となる病原体によって細菌性肝膿瘍アメーバ性肝膿瘍の2種類に分けられます。

細菌性肝膿瘍

大腸菌クレブシエラ菌(腸内にいる常在菌)、緑膿菌などの細菌が原因となるタイプです。感染経路は、胆道を通って肝臓に到達する経胆道感染、門脈を通って肝臓に到達する経門脈感染、隣接する臓器から直接炎症が広がる直達感染、動脈を通って肝臓に到達する経動脈感染と多岐に渡ります。

感染経路によってそれぞれ特徴がありますが、最も多い経路は経胆道です。肝臓と消化管をつなぐ胆道は胆汁などの消化酵素の通り道となっていますが、周辺の疾患(胆石症や胆管炎など)によってその流れが滞る場合があります。そうすると細菌が増殖しやすく、増えた細菌が胆道を逆流して肝臓に感染すると肝膿瘍を引き起こします。

このほか大腸の病気、糖尿病、敗血症などをきっかけに膿瘍を形成することがあります。日本では、肝膿瘍のうち95%が細菌性肝膿瘍に分類されるといいます(yearnoteより)。

アメーバ性肝膿瘍

原虫赤痢アメーバの感染によって起こる肝膿瘍です。赤痢アメーバは汚染された飲食物を介して消化管内に侵入し、大腸に感染します。大腸の粘膜に潰瘍ができ、大腸炎も引き起こします。そのときは腸の粘液と血液が混ざった便(粘血便)がみられます。その後は門脈を通じて肝臓に感染し、膿瘍の形成まで進みます。

アメーバ赤痢は発展途上国で流行している感染症です。国内で報告される感染者は海外渡航者が多いことが知られています。潜伏期間は2~3週間とされていますが、数年に及ぶこともあります。

肝膿瘍の治療

心臓を優しくケアする
治療方法は肝膿瘍のタイプによって異なります。

細菌性肝膿瘍の場合

細菌性肝膿瘍に対しては、抗生物質を服用していきます。ただ膿瘍の大きさが3cmを超えたり、重症だったりする場合には、ドレナージを行うこともあります。

ドレナージとは、身体の表面から膿瘍にチューブを挿入し、体外に膿を排出させる方法です。局所麻酔をしてエコーやCTで膿瘍の位置を確かめながら、ドレーン(ドレナージに用いるチューブ)を挿入します。

ちなみに、細菌性肝膿瘍では排泄された膿は黄色で腐った臭い(腐敗臭)を伴います。

アメーバ性肝膿瘍の場合

アメーバ性肝膿瘍には抗生物質の代わりに、抗原虫薬であるメトロニダゾールが使われます。薬では効果が得られなかったり、膿瘍が大きくなって破裂する恐れがあったりする場合には、細菌性肝膿瘍と同じくドレナージを行うこともあります。

アメーバ性肝膿瘍では排出された膿は茶色です。チョコレート状あるいはアンチョビペースト状と表現されます。

まとめ

肝膿瘍は肝臓の感染症です。その症状は発熱や腹痛倦怠感などで、特別目立った症状ではありません。そのため風邪や腸炎などと間違えやすい面があります。しかし病院でしっかりと検査を行えば肝臓に特徴的な変化が現れているため、診断が可能です。治療が遅れると命に関わることもあるため、気になった場合は早めに病院を訪れましょう。