「がん」は今や、すべての人にとって身近な病気といえます。厚生労働省の統計によると、日本人の2人に1人は生涯のうち一度はがんに罹患するといいます。この記事をお読みの皆さんの中にも、ご自身、あるいは周囲の方ががんになられた経験のある方がいらっしゃるのではないでしょうか。

がんについては、あちこちで様々な情報が流布しています。必要以上の不安を煽るもの、本当かどうか分からないものも多いのが事実です。そこで「いしゃまち」では、がんを専門にする腫瘍内科・緩和ケア科医師の後藤宏顕先生にお話を伺いました。がんの診断から治療・症状緩和、看取りに至るまで、現場でどのような医療が行われているのか、また私たちは何を知っておくべきなのか、連載でお送りします。

1回目となる今回は、がんを診る診療科目「腫瘍内科」とはどんな科目なのか、また「がん」という病名の告知はどのように行われるのかを見ていきましょう。

目次

お話を伺った先生の紹介

がんを専門にする「腫瘍内科」はどんな科目?

腫瘍内科は、そのまま「腫瘍」の「内科」です。良性腫瘍ではなく、悪性腫瘍を専門に診ます。悪性腫瘍を診る内科ですから、主に行う治療は抗がん剤治療です。

抗がん剤治療は従来、外科で行われてきました。例えば胃がんや大腸がんであれば、消化器外科でそのまま抗がん剤治療を行っていたわけです。

それが「腫瘍内科」と独立した理由としては、まずは薬がどんどん増えてきて、専門性が非常に高くなったことが挙げられます。がん剤には、多くの種類があります。私が普段、ルーチンで使用している薬だけで50-60種類くらいあるかもしれません。そして、それが年々増えています。使われなくなる抗がん剤もあるのですが、新しい薬も毎年のように出てくるので、その中から臨床試験の結果をもとに処方していきます。

それから、様々ながんを複数抱えていたり、色々な病気があって一つの科では対応が難しかったりという人たちを専門に診る科が求められてきました。その中でできてきたのが、腫瘍内科です。そのままだと手術できないがんを抗がん剤で小さくしてから手術したり手術後にできるだけ再発を抑えるための抗がん剤を使ったり、外科的治療とコラボレーションすることも増えています。

また、「転移した状態で見つかったけれど親玉となる原発巣がみつからない」状態を原発不明がんといいます。その場合、普通の科では太刀打ちができません。何を検査すれば良いのかも分からないので、そういった場合は診断をつけるところから担当します。診断がついているがんについても例えば、患者さんが専門の科での治療を希望した場合、診断の次の段階から治療を開始することもあります。おそらく、後者の方が多いです。

「がん」と診断されたら:告知ってどんな風に行われる?

告知を行う医師

時間をかけて、家族や看護師も同席してゆっくりと

悪性腫瘍疑いで紹介され、診断に至った場合、告知も私が行います。病気の状況にもよりますが、ある程度治療が可能・手術に持っていける場合には、モチベーションを上げられるような前向きな説明を心がけています。

一方、そうではない方もたくさんいます。その場合、外来の5分や10分では済ませません。家族も呼び、看護師も同席のもと、別の日に個室で30分から1時間くらいかけて説明をします。しかし、告知をすると頭の中が真っ白になってしまう方が多いです。ですからその後、看護師から「どれくらい理解できたか」を確認してもらいます。そのフィードバックを受けて、また後日説明を行います。

「どういうがんなのか」「どういう治療をしていくのか」は、その方の反応を診ながらその場で話す場合があります。ただ、頭が真っ白になってしまった方にあまり良くない情報だけを言い続けても意味がないので、少しでも前向きになれるようなポイントを簡潔にまとめて繰り返します。理解が進んだ患者さんの場合、治療の内容まで話を進めることもありますが、実際には、診断名とどんなタイプの治療があるかという説明で終わることが多いです。

合わせて、食事や痛みなど、日々の生活をどうしていくかも話し合います。患者さん自身も「まずは何をしたらいい?」と思うでしょう。ですから、今日からできることをお話しすることも心掛けています。

どんな風に受け止めれば良いの?

患者さんの受け止め方は、色々です。様々な人生経験を積み、年齢を重ねてきた方だと、ご自身の変化にも気づいていることが多いです。そういう方は、説明を受けると、静かに「やっぱり」という感じで言葉を発することもあります。

一方、全く想像していなかったであろう方の場合、表情を見ると明らかに固まっているのが分かります。自営業などで健康診断をあまり受けていない方だと、フリーズしてしまう患者さんが多いかもしれません。

自分の病気や治療について「どこまで理解したら合格点なのか」というのは、正直分かりません。ですから、治療を急がないとどんどん悪くなってしまうなどといった場合、患者さんが理解を進めていくのと並行して治療を開始するパターンもあります。必ずしも、こちらが望んでいる理解度へ到達してから治療を始めるわけではありません。

また、既にがんと分かっている患者さんの場合は治療の方針などについて話をします。診断を受けて間もない人は頭が真っ白の状態なので、「もう治せません」という話をすると治療の意欲をなくしてしまいますよね。そういった方には例えば、「治療によってできるだけ、病気の勢いを抑えていきましょう。すると日々の生活が良くなっていきますよ」と話します。まずは「良いポイントを中心に伝える」ということを心掛けています。

編集後記

がんというと、治療は「手術」というイメージが強いかもしれません。担当する診療科目も「外科」というイメージを持つ方が多いかもしれませんが、抗がん剤治療を中心に、がんを専門に診る「腫瘍内科」という科目があることを知っていただけたらと思います。

また、今回は「告知」についてお伝えしました。いきなり自分ががんだと言われたら、思考が止まってしまうのは当たり前のことだと思います。そこから医師と相談しながら治療を進めていくことになります。次回更新では、実際にどのように治療を行っていくのか、また同時に行う緩和ケアとはどういうものなのかを解説します。

※医師の肩書・記事内容は2017年9月8日時点の情報です。