がんについて調べていると、「手術ができないと言われたら」「再発したら」といった疑問が出てきます。これらの言葉は、ある種絶望的な響きとともに患者さんに覆いかぶさるものかもしれません。しかし、こういった状況でできることは本当に何もないのでしょうか?

腫瘍内科・緩和ケア科医師の後藤宏顕先生と共にがんを考える連載、3回目となる今回は「切除不能」「再発」、それから「余命宣告」について見ていきます。

目次

お話を伺った先生の紹介

 

「切除不能」「再発」はどんな状態?

手術による治療ができない状態を「切除不能」、切除などで消失したがんが再び出現したり、別の場所に出現することを「再発」といいます。

切除不能という状態になると、根治は難しいことが多いです。抗がん剤が非常に効いて手術に持ち込める人も増えてきてはいますが、がんが多発しているような状況ではやはり難しく、そこからがんが消えるような状況にはなりにくいのが現状です。少し小さくなって症状が良くなっても、時間とともにまた悪くなる。すると治療を変える、というのが現実的には多いと思います。再発も同じで、切除可能な場合もありますが、多発していると抗がん剤治療などによって病気の勢いを抑えることが目標となります。

こういう状態では、完全にがんを治していくというよりは、がんの活動を抑えることによって症状を和らげていく目的で抗がん剤を用います。ただ、治療自体は可能であっても、しばらく様々な抗がん剤治療を続けていくと投与可能な薬剤がなくなり、それ以上の治療継続が困難になってしまうケースや、病気の広がり・薬剤の影響によって肝臓や腎臓の機能が悪くなってしまって治療ができなくなる可能性もあります。

「切除困難」その時患者さんは

これらの状況は、患者さんにもわかりやすく丁寧に伝えるようにしています。患者さんが聞いたときの落ち込みが強いことが予想されるので、最初の告知と同じように、できるだけ一度の外来で済ませないように気をつけています。とはいえ、状況を受け入れるまで治療をしないとなるとどんどん悪化してしまうので、実際には次の治療の提案をしつつ、理解が進むようにサポートすることが多いです。

家族の反応も色々です。あまり干渉しない方も、本人のことを思うあまり「本人には言わないようにしてほしい」と願う方もいます(家族の方への告知については、次回の記事でお伝えします)。

本人には伝えないこともある?

できる限り本人に伝えることによって意思決定のサポートをしたいと思ってはいるのですが、実際の現場ではそうもいかず、本人よりも家族に厳しい内容を伝えてしまっているケースもあります。とくに、家族の方が「本人には絶対に言ってほしくない」と医療者に迫ってくるような場合です。

この場合、「言わない」ことのデメリットも、家族にはしっかり伝えます。病状を伝えなければ、患者さんは孤独になっていきます。誰も教えてくれないけれど、自分の具合は悪くなっていく…そうすると、医療者と患者さんとの関係も悪くなるし、患者さんと家族との関係も悪くなって、どんどん孤立してしまうんです。

ですから、切除不能などの状況はできるだけ早めに伝え、ちゃんと関係性を構築した上で「できることをやっていこう」という風に進めることが多いです。ただ、重度の認知症があって理解が難しい等のほか、「すごく落ち込んで自殺してしまうかもしれないから、言わないでほしい」などと家族の方が希望された場合、専門的なサポートを行うスタッフが不足していることもあり、少しモヤモヤしながらではありますが本人には正確に伝えない場合もあります。

その場合、患者さんから何か聞かれたら「嘘ではないこと」だけを伝えます。例えば「なぜ治療しないんですか」という質問があったとしたら、「今は体調が悪いし、栄養が摂れていなくて体力も落ちていますよね。こういう時に抗がん剤を打つと、かえって悪くなってしまうんです」「だから、今はまず体力回復に努めましょうね」と話し、別の目標を作るように心がけています。実際は難しいかもしれなくても、実現可能そうな目標を伝えます。間違ったことを言うわけではないので、我々も伝えやすいし、家族も「栄養をつけようね」と言いやすいと思います。患者さん自身としてもこのような流れがありえることを考慮し、前もって「自分に正確に話をしてほしい」と意思表示をしておくことも重要だと思います。

「治療不能」イコール「何もできない」ではない

治療不能となると、痛みをやわらげる緩和ケアがとても重要な治療の一つになります。結構しんどいので、薬物の痛み止めの調整をしっかり行いつつ、その都度評価をして調整を進めていきます。ときにはその痛み、もしくは痛み止めのせいで調子は悪くなってしまう可能性があるので、痛みの治療はしっかりと行います。

加えて、病気の認識を深めます。「最期を迎える」ということを理解して準備できる方もいれば、何かできないかと模索して怪しい治療を試そうとする方もいます。

とはいえ、できることがなくなるわけではありません。痛みを取ることでストレスが減ると長生きに繋がるというデータもあるため、そこは最後まで取り組んでいきます。

余命は、当たらないことも多い

カレンダー

あとどのくらい生きられるか、伝える?伝えない?

あとどの程度生きられると考えられるか、いわゆる「余命」は、ご本人には強い希望がある場合には幅のある数字を用いてお伝えすることもあります。聞かれた場合、まず「どうして知りたいのか」を確認します。例えば、「孫の結婚式まで頑張りたい」という方がいます。そういった目標がある場合は「それに向けて頑張りましょう」と繋げるわけです。

ご家族には、心の準備のために伝えることがあります。数字を聞いて、「家で看るのを頑張ってみよう」など、前向きになるために頑張れる指標になることもあるので、そう判断した場合には伝えます。あるいは、ご家族の思っている状況と医師の判断している状況との間に大きな差異がある場合にも、お伝えする場合があります。医師からしたら「あと数日かもしれない」と思うケースでも、ご家族からは「来年を迎えられますか?」という質問が出ることがあるんです。ご家族は医療者ではないので当然なのですが、このギャップがあまりに大きいと、本当に亡くなられた時に強いショックを受けてしまいます。それを避けるために、お伝えすることがあります。

いずれのケースも、決まったやり方ではなくその患者さん、家族の状況にあわせて現場で判断していかなくてはならず、苦慮することもしばしばあります。

余命の的中率は50%以下

ただし、余命は正確には当たりません。腫瘍内科以外も含め、医師の宣告する余命がどのくらい当たるかを調査したデータがあるのですが、その半分以上は当たっていません。楽観的に捉える医師が多いのです。緩和ケア科の医師に絞ったデータで見ても、半分以上が当たっておらず、長めに捉えています。これを考えた上で、少し厳しめに伝えるようにはしています。

医師はずっと患者さんを診ているので、「今までも頑張ってきたからもう少し大丈夫なんじゃないか」と思ってしまうんです。でも実際は、体内での変化が進んでいたり、合併症が重なったりしてしまうことがあります。本来は、客観性を持たなければいけないところなんですけどね。

編集後記

今回は、がんが進行し、徐々に治療の選択肢が減ってしまった状態で行う治療のことや、余命宣告のことをお伝えしました。ドラマ等では「あなたの余命はあと半年です」といったシーンはお馴染みですが、実際にはその的中率は高くないといいます。悲嘆しすぎず、前向きになりながらも、来たるべき最後にむけた準備を行っていくことが必要なのかもしれません。

これまでは医師と患者さんにフォーカスを置いてきましたが、次回更新では「家族」にスポットライトを当てます。ぜひお読みいただけたらと思います。

※医師の肩書・記事内容は2017年9月22日時点の情報です。