「がん」という病気が影響を及ぼすのは、患者さん本人だけではありません。ご家族にも、がんは強い影響やストレスを与えます。大事な人が苦しんでいるとなると周囲の家族も辛いものですし、小さなお子さんであれば、親御さんの病気を「自分のせい」と思ってしまうかもしれません。

腫瘍内科・緩和ケア科医師の後藤宏顕先生の取材連載、4回目となる今回は、がん患者さんのご家族にフォーカスを当てた内容をお届けします。現場で患者さんやご家族と向き合っている先生だからこそ話せる事柄ばかりです。

目次

お話を伺った先生の紹介

 

がんの告知、その時家族は

前々回の記事で「告知をした時の患者さんの反応」をお話ししましたが、家族の反応も同様に様々です。患者さんと同じように固まってしまう人、「本人には言わないで」と言う人もいる一方、あまり干渉しない人もいます。

本人だけでなく、家族への説明やサポートを行う目的でご家族だけで外来に来てもらうこともあります。患者さんの状態が悪ければ悪いほど、家族の方への説明が中心となってしまう場合があります。もちろん、本来であればまずは患者さん本人に説明し、それを家族に理解してもらうのがあるべき順番ですし、患者さんもそれを望んでいるという調査結果があります。ただ、その順に話した場合、家族から後で「どうして言ったのか」と言われることもありますので、柔軟な対応が必要と考えています。

実際、患者さんが亡くなってから、「あのとき言ったからとても落ち込んで、こういう風に亡くなったんだ」と言われることもあります。ですから、もちろん本人を中心に考えますが、厳しい内容に関しては家族に早めに伝えることが多いのが現状です。本来の望ましい流れをわかっていながら現場の状況を優先させるなど、経験を積んだ判断が求められると思います。

配偶者(パートナー)・お子さん…医師が行う家族のケア

子供の手をひくお母さん

患者さんだけでなく、家族や周りの方のケアも医療者の仕事の一つです。例えば、小さいお子さんがいるお母さんが患者さんの場合は、旦那さんのケアが大切になります。精神的な落ち込みに加え、お子さんや、おじいちゃん・おばあちゃんの対応もしなければいけないとなると、旦那さんに強い負担がかかることになります。特に、お母さんの病状を子供には伝えられていない、という状況は少なくありません。前もって伝えておくことがとても大切ですが、病状がかなり深刻になってからようやく伝えることも多いのが現状です。とはいえ、確かに子供に伝えるのはとても難しいことなので、私の場合、お子さんには私からお伝えすることもしています。

大人のケアには「協力者」が大事

大人の方へのケアとしては、いかに孤独な状態に追いやられているかを確認します。そして、まずは協力者を探します。例えば上記の場合、患者である配偶者には相談しづらいので両親でも兄弟でも、すぐに相談できる方というのは非常に大事になってきます。そういった方と一緒に大事な話を伝えたりします。何事も「独り」はよくありません。

家族は第二の患者ともいわれるぐらいケアの大切な対象です。患者さんと同じように辛さ(とくに精神面や社会的背景)に着目して対応していくことが大事です。

子供に伝えたい2つのポイント

お子さんに伝える際に大事なポイントは、「君は悪くない」と伝えることです。親ががんになった時にそれを伝えていないと、会話や行動から不自然さを感じ取り、子供は親との関係に溝を感じてしまいます。すると、それが自分のせいだと思ってしまうんです。「自分のせいで病気になってしまった」「自分のせいで亡くなってしまった」と思ってしまわないように、まずは「君のせいじゃない」ということを伝えます。「お父さんもお母さんも別に悪くない、君も悪くない。悪いのは病気だ」と保証してあげます。

それから、がんは感染しないということも保証します。見た目が変わってきたり、乳がんなどが外に出てきてしまったりすると、近寄りづらくなってしまいます。でも「病気がうつらない」と分かれば、近くに寄って触れることができます。それは患者さんにとっても、お子さんにとっても良いことなので、以上の2つは必ず伝えるようにしています。

あとは、その子の反応を見ながらです。高校生・大学生くらいなら大人と同じような表現をしても良いのですが、小学生や幼稚園児ではそうはいきません。「お星様になっちゃうよ」「ずっとサヨナラになっちゃうよ」など、その場の反応を見つつ話していきます。丁寧に説明しても、説明したときは固まってしまうお子さんが多いです。親御さんのそばに行って目の当たりにすると、少しずつ泣いてきます。その段階が大切だと思っています。お子さんの抱え込んでいた感情を素直にださせてあげることが第一歩だと思います。

子供は、子供なりに理解しようとしますし、実際に理解ができます。変にごまかすと後の大人との関係に響くこともあるので、専門職として正確に伝えることが大切だと考えています。

編集後記

がんによって辛さを感じるのは、患者さんだけではないということを分かっていただけたでしょうか。

患者さんのことを思うあまり、自身のことは後回しにしてしまいがちな方もいることでしょう。しかし「第二の患者」というキーワードも出てきたように、患者さんのご家族もきちんとしたケアを受ける必要があるのです。必要に応じて、医療従事者や周りの人をうまく頼ってみてください。

最終回となる次回は、「看取り」と、現在のがん治療が抱える課題についてお伝えします。

※医師の肩書・記事内容は2017年9月29日時点の情報です。