もしも突然「がん」だと告知されたら、あなたはどうしますか?前回記事ではそんな問いかけをした上で、「腫瘍内科」とは何か、そして「告知」はどんな風に行われるかをお話ししました。

今回のテーマは「治療」そして「緩和ケア」です。自分ががんだと分かったら、患者さんは藁をもつかむ思いで様々な治療法を試したくなってしまうと思います。腫瘍内科・緩和ケア科の医師・後藤宏顕先生のインタビュー連載、2回目となる今回は、そんな中で医師がすすめる治療法と、診断された瞬間から行われるべき「緩和ケア」について解説します。

目次

お話を伺った先生の紹介

実際の治療の進め方

基本的には、診療ガイドラインに則って伝えます。ガイドラインに記された治療が絶対というわけではありませんが、スタンスとしては、標準的なおすすめすべき治療に持っていけるようにはします。

怪しいものも含めて、患者さんは色々調べてきていることが多いので、そこと折り合いをつけていくことになります。Webやテレビ、週刊誌でも、最近は様々な治療法が扱われていますよね。例えば漢方や高濃度ビタミンC点滴療法、お金をかけた免疫療法、温熱療法など、保険適用外のものです。これらの治療をどうしても希望する患者さんもいますが、その場合は、「おすすめすべき標準治療がなぜ標準化されているのか」というところから説明します。

ガイドラインに記されている標準治療は、「世界中の何千という患者さんに投与した結果、このくらい効く・このくらい副作用が出る」と分かっているから提供できるものです。一方、ガイドラインに記されていない、患者さん自身が調べてくる上記の治療はなぜ現在認められていないのかというと、どのくらい効くかが分からない一方、どのくらい悪さをするかも分からないということがあります。ですから、こちらからおすすめすることはできません。「どうしても」というのであれば併用することは可能かもしれませんが、副作用が強く出る可能性もあるので、慎重に考える必要があります。

まずは標準治療を受けていただいた上で、なかなか効かないけれど体力があり、金銭的にも問題ないということであれば、その時点で保険外診療について考えていくのが良いのではないか、という進め方をします。

がんの治療について気になる2つのこと

自分で治療について調べるときはどうすればいい?

患者さんが病気について調べるときには、例えば「胃がん」であれば「胃がん ガイドライン 治療」というような調べ方が良いと説明しています。「胃がん 治療」だけでは信憑性の低い情報が出てくる可能性がありますが、「ガイドライン」などという言葉を入れると比較的きちんとした情報を見つけることができます。

 「免疫治療」って有効なの?

「免疫治療」については実際に、患者さんからよく聞かれます。ニボルマブ(商品名:オプジーボ)などの「免疫チェックポイント阻害薬」という、きちんと効くと認められている方の免疫治療ですね。

例えばオプジーボの場合、肺がんなどでは投与が認められています。一方、「認められていないがんではどうなのか」ということを最近質問されます。自費であれば実は投与することは可能ですが、自費だと怪しい治療も含めて何でもできてしまうので、まずはしっかり効くというデータのある治療をやりましょう、という説明をします。

繰り返しになりますが、基本は標準治療をしっかりやっていきましょうということです。

治療と同時に始まる「緩和ケア」

患者さんの手をにぎる

最初に行う緩和ケアってどんなもの?

治療が始まると、同時に緩和ケアを行うことになります。痛みがあった場合、まずはそれを良くしないといけません。

一方、痛みがない方も当然たくさんいます。その場合でも、気持ちの落ち込みのサポートが重要です。精神的な影響を受けない人はいません。未来が見えなくなったと感じてしまう患者さんもいるので、そこに対してケアやサポートを行っていきます。

がん治療は、大掛かりなチームで進めていきます。まず、医師は診断と薬物の投与をします。ソーシャル・ワーカーは社会的な背景からアプローチを行い、治療において必ず生じるお金の問題についても相談を受けていきます。薬剤師は、抗がん剤とのつきあい方や副作用について専門的にみているので、患者さんの日頃の悩みも意外と受け取っています。看護師も同様に、日頃の悩みを受け取っています。これが全員揃わないと、医師一人だけではがん治療を行うことはできません。

私の勤務する江戸川病院には、残念ながら常勤の精神科医師がいません。そのため、医師自身が精神的なケアに当たることもあります。まずは悩み事を抽出することが大切です。患者さんは、医師に隠すつもりではないのでしょうけれど、つい「大丈夫です」と言いがちです。「夜眠れない」「お金のことで悩んでいる」など、言いづらくなってしまっていることもあります。そういった悩みを抽出し、解決可能であれば専門のスタッフに対応してもらいます。対応できないほどに気持ちの落ち込みが続いてしまったり、精神疾患のような状態になってしまったりした場合には、抗うつ薬や抗不安薬をガイドライン通りに使用し、都度評価して、増量や併用療法の必要性を判断していきます。

抗がん剤の副作用って辛いの?

抗がん剤治療の場合、副作用と治療効果とはリンクしていないことが多いです。副作用が強く出れば出るほど効くはず、自分は副作用が出てないから効いていないのではないか、と繫げて考えてしまう患者さんがいますが、そうではないということは最初に伝えます(一部の治療で、副作用と治療効果との関連が分かっているものもあります)。

加えて、日常生活の動作を具体的に例示して聞きます。「字を書くときに前より汚くなっていませんか」「ボタンを自由にかけられますか」と具体的に聞くと、「そういえば…」と答えてくれる患者さんがいます。そこで程度を判断しています。

抗がん剤の副作用で悩ましいものの一つに、しびれがあります。しびれは本当に生活に直結していて、箸を持てなくなるなどといった可能性も生じてしまいます。こういう場合、しびれに対する薬もある一方、それがものすごく効くわけではないので、抗がん剤の量を変えるなどの工夫も行います。

それから、抗がん剤での治療を行っていると食事量が減る場合があります。すると栄養状態が悪くなってしまうので、その場合、アミノ酸やビタミンの入った栄養剤で栄養状態を維持することもあります。

編集後記

今回の記事では、「ガイドライン」「免疫治療」「抗がん剤」「副作用」「緩和ケア」など様々なキーワードが出てきました。どれも、がんの治療の中ではしばしば用いられる言葉です。治療を受ける中で意味がよく分からないと感じたり、そのほか不安に思うことがあったりしたら、医師に聞いてみてください。

また、がんになると、誰しも痛みや不安を感じるものです。そして、それを和らげるのも大切な治療の一貫だということを覚えておいてください。我慢をせず、医療スタッフに相談しましょう。

次回記事では、「切除不能」「再発」といったキーワードを扱います。ネガティブに感じる言葉だとは思いますが、これらの状態からどんな治療が可能なのかを見ていきます。

※医師の肩書・記事内容は2017年9月15日時点の情報です。