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「ALSは多彩な症状・経過が表れる疾患」と理解を

医師と患者

ALSの正しい理解が疾患と向き合う上で重要です(写真はイメージです)

――患者さんにALSが疑われた場合、どのタイミングでお話されますか。

(自分の中で)候補に挙がった段階ではお伝えしないですね。ALSは最近、皆さんがご存知の病気になってきています。また、患者さんに病名を説明すると多くの方がインターネットで調べるようになっています。そうするとALSという病気がそれなりに重大な病気だけに、患者さんは非常に不安になります。結果的にそうでなかった場合も、ある期間不安になってしまう時期を作ることになるので、私は不確定な時点では話さないようにしています。

他に考えられる病気があるなら除外する検査を行い、慎重に鑑別診断を行った上で、臨床診断がALSとなると、そのときにお伝えしています。

――患者さんに告知される段階ではどのように、どういった内容をお伝えされていますか。

診断とその根拠をしっかり伝えています。その上で気を付けていることがいくつかあります。

まず、一度にたくさんの情報はお伝えせず、何回かに分けて説明しています。患者さんやご家族はALSだということで頭がいっぱいになり、場合によってはちょっと動揺しています。他の情報を受け入れる余裕がありません。そのため一度に全部でなく、何回かに分けて、段階的に説明することを心掛けています。

もう一点、最初の段階で伝えるのはこの病気が「多様であること」です。症状や経過は必ずしも典型的なものばかりではないからです

最も話さなければならない話題に、呼吸の問題があります。進行していった時、呼吸器を付けるかどうか。このことは呼吸機能が非常に落ちている場合は別にして、私は最初にお伝えはしませんが、重要かつ重大な問題なのでどこかのタイミングで必ず伝えます。お伝えした後でも、そのことに対してどのように向き合って選択していくのか、できるだけ患者さんの希望に寄り添って行くように心がけています。

――ALSは医師や患者さんにとっても、病気が確定した後が大事なのでしょうか。

そうですね。診断しておしまいではなく、定期的にフォローを受けていただいて、嚥下(飲み込み)や呼吸など大事な部分をチェックしていく必要があります。そうして誤嚥などリスクを減らしたり、未然に防いだりすることができます。

呼吸の問題で言えば、いきなり呼吸筋が弱くなって息ができなくなるわけではなく、息切れや一息で話す文が短くなる、途中で息をつく回数が増えたなど、少し分かりにくい特徴があります。患者さん自身呼吸機能が落ちてきても気づかない人はいるので、逆にこちら(医療者)側が気をつけてみていなければなりません。

――最後に、ALSを理解する上でどのようなことが大切かお聞かせください。

ALSは発症したら半分の方は呼吸器を付けなければ2~4年で亡くなるというデータがあるため、患者さんが平均余命を3年だと思うことは間違いではありません。ただ、10年以上存命の方もいます。症状・経過が多彩であることを、患者さんに理解してもらえればと思います。

取材後記

「ALSは多様な症状かつ多様な経過が表れる病気」―。特徴的な症状はあっても、それは患者さんによって異なるのは当たり前のようであって、なかなか認識されていないのかもしれません。もちろん、診断が早く確定するに越したことはありません。ただ、診断に時間がかかる理由をしっかり把握しておけば、いたずらにその疾患に振り回されることなく病気とうまく向き合っていける面もあるのではないでしょうか。

※医師の肩書・記事内容は2017年11月27日時点の情報です。