ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、運動神経細胞が障害され、筋肉が萎縮していく進行性の病気で、現在国内では約9,200人の患者さんがいます(難病情報センターより)

病気の原因はいまだ不明で、根治する治療法はありませんが、症状の進行を抑えるための治療やリハビリ、障害に応じた対症療法などにより、QOLを維持・向上していくことが必要です。そのようなALSの治療とケアについて、詳しく解説します。

目次

ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは?

ALSとは脳や脊髄からの命令を筋肉に伝える運動神経細胞(運動ニューロン)が侵され、手、足、口などからほぼ全身の運動障害と筋萎縮が進行していく病気です。

病気の進行は比較的早く、末期には呼吸筋が障害され自力での呼吸が困難になります。

病気の原因はいまだ不明ですが、遺伝子異常や特異的な分子異常が関与していると考えられています。

症状について詳しくはこちらの記事、「【10万人に2、3人の難病】ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは」をご参照ください。

ALSの治療とケアの目標はQOLの向上

現在、ALSは完治できる病気ではありません。一方で、病気によって多くの機能が失われていきますが、支援があれば在宅で生活し続けることも可能な病気です。その中でできるだけ良い状態を維持し、生活の質(QOL)を高めていくことがALSの治療とケアの目標になります。

1.医療面でのサポート

専門医は神経内科医

ALSは、「文字が書きにくい」「箸が持ちにくい」「よくつまづくようになった」「呂律がまわらない」といった、手や足、口の脱力感という初期症状からはじまります。

ほかの疾患でも同様の症状があることから、ALSと確実に診断するためには、神経内科専門医の診察を受けることが必要です。診断の確定と病気の告知、そこから長期に渡り継続的に行われる治療においては、医師との信頼関係が不可欠となります。

ALSの症状の進行を遅らせる治療薬

薬剤

現在、リルゾール(商品名:リルテック)とエダラボン(商品名:ラジカット)という薬がALSの治療薬として認可されています。この薬の使用により症状の進行を遅らせる効果があることが証明されていますが、根治的な治療ではなく、また効果には個人差もあります。

また新たな治療法の開発に向けて、ほかの薬剤による治験も行われています。

症状に応じた対症療法

ALSは病状の進行に伴って様々な症状があらわれます。

■筋肉の痛みや痺れ

ALSで障害されるのは運動神経ですが、様々な原因で痛みや痺れといった感覚的な症状を自覚されることも稀ではありません。筋肉の痛みや痺れに対して、鎮痛剤や鎮痙薬を使用する場合があります。しかし、むやみな使用は脱力症状の悪化につながるため、医師の判断のもとに使用されます。

また、筋力の保持や関節の拘縮予防のためにリハビリが行われます。これも、病状に応じて医師の指示のもとに行われます。過度な運動や不適切な運動は筋肉疲労を引き起こし、病状を悪化させるため、指示されたプログラムに沿ってリハビリを行うことが必要です。

■不安や不眠

身体が動かなくなることへの不安や不眠に対しては、精神安定剤や睡眠薬を使用することがあります。呼吸抑制などの副作用に注意しながら、医師の指示によって使用します。

■呼吸困難

病状が進行すると呼吸筋が弱くなり、呼吸困難症状が現れます。酸素投与、NPPV(非侵襲的陽圧換気)という機械による補助呼吸から、やがては気管切開が必要になります。

※気管切開とは:肺に空気を送ったり痰を吸引したりするための穴を、のどぼとけの下に開けること。
気管切開を行うと、定期的な痰の吸引が必要となり、医療者または指導を受けた家族や介護者が痰の吸引を行います。さらに自力での呼吸が困難になると、人工呼吸器をつけます。人工呼吸器をつけての在宅療養も可能ですが、その管理や取り扱いについても家族や介護者が指導を受けることが必要です。

■嚥下困難

ALSは発症初期から食べ物を飲み込みにくい、むせやすいといった症状がみられることがあります。柔らかくとろみのついた食事にしたり、自力での食事が困難になった場合は、介助も必要となります。

食事介助のポイントについてはこちらの記事「介護のために覚えておきたい!食事を食べさせるときはどうすればいいの?」をご参照ください。

また、病状が進行し食事が食べられなくなった場合は、経鼻胃管あるいは胃ろう(PEG)造設による経管栄養や点滴による栄養補給が必要となります。

2.精神的なサポート

ALSは、がんやほかの内臓疾患と異なり、あらゆる身体機能の障害を生じ、最終的にはすべてに介助が必要となる病気です。この先どうなっていくのか分からないという不安や、病状が進行して障害者となることを受け止められないこともあります

また、身体の機能が失われていく一方、知覚や感覚、知能や意識は正常にあり、状況が分かるが故の苦しさを自覚することになります。(ただし、認知症を伴うALSの場合は、認知機能が障害されます)

そのため、心理面でのサポートが不可欠とされています。家族や周囲の人が病気や障害の特徴を理解するとともに、心理療法や同じ病気の人たちが定期的に集うサポートグループによる支援などが行われています。

3.福祉面でのサポート

ALSで障害された機能を補いQOLを維持向上するために、様々な福祉支援を受けることができます。

支援に関する相談窓口

ALSの療養に必要な様々な支援に関しては、主治医または保健師、各都道府県の難病医療連絡協議会、日本ALS協会・同支部などの相談事業などに相談することができます。

適切な生活環境の整備

ALSの患者さんの生活には、その障害に応じて環境を整えることが必要です。

トイレや浴室、寝室のベッドの配置などの住環境、衣服や食器、電話やパソコンなどの生活用具、車いすなどの移動手段の整備が必要になりますが、患者さんができることを最大限に生かし、自立性を損なわないようにすることが重要です。

コミュニケーション手段としての意思伝達装置

障害により言葉が発せなくなり、手足を動かすことができなくなると、自分の意思を伝える手段が必要になります。こうした障害があっても操作可能な意思伝達装置が古くから開発、使用されています。

ALSにおいては眼球の運動障害は損なわれにくいとされており、目の動きでマウスを操作したりキーボードを打ったりして、会話をすることができます。但し療養が長期になると、目の動きにも徐々に制限が出てくる傾向がありますので、その時々に合ったコミュニケーション方法を評価する必要があります。

経済的な支援

QOLの維持向上に必要な経済面での支援には、特定疾患医療費の利用や障害者自立支援法における各種支援を受けることができます(参照:厚生労働省 障害者福祉 サービスの体系)。

まとめ

ALSは運動神経障害により身体の多くの機能が失われていく難病です。現在はまだ、治療法は確立されていませんが、病気によって失われた機能を補いつつ、残された機能を最大に生かしながらQOLを高めていくための多くの支援が行われていることを知っておきましょう。