先日、小児科での1カ月間の研修が終わりました。

1カ月間を振り返ってみて、一番大きな学びは「親の偉大さに触れたこと」だと思いました。「熱が出た」「咳が出る」といって午前外来に子供を連れてくるスーツ姿のお父さん、お母さんを見ていると、自分もこうして育ててもらったのだなあと頭が下がる思いでした。

さて、外来をやっていて感じたのは、子供が病気になった時の対応は、ご家族によってかなり異なるのだということでした。軽症例でも不安が強いお母さんを見て「そんなに慌てなくても…」と感じることもあれば、重症例でもあっけらかんとしたお母さんに「どうしてもっと早く連れてこなかったの!」と思うこともありました。

ご家族にとって、症状をうまく表現できない子供の病気は、自分の病気以上に受診のタイミングが難しいのでしょう。そこで、研修医目線で受診するかどうかの参考になるような情報をわかりやすく発信できないものかと思いました。

そこで今回は、子供の発熱にフォーカスを当て、見逃したくない病気の1つ「川崎病」についてご紹介したいと思います。

目次

※この記事は、執筆者が研修医の時に作成した記事です。

子供の発熱を見て、医師が考えること

小児科外来に立つ研修医への最初のアドバイス。それは「腸重積と川崎病だけは見逃すな」というものです。

医療機関にもよるでしょうが、「子供が熱を出しちゃって…」といって小児科に連れてこられる子供たちの多くは普通の風邪で、本当は薬を飲む必要すらないケースもあります。風邪だと思ってひとまず数日様子を見ていたら実は肺炎だった、というような場合もありますが(そしてそういう様子見はしばしば戦略的に行われますが)、それでも高齢者のように命にかかわるということはほとんどありません。

しかし、見逃すと大変な病気というのがいくつかあって、その代表格が腸重積と川崎病なのです。

川崎病が怖いのは、治療の遅れが致命的だから

熱で泣く子供

昔は川崎病自体が原因で命を落とすこともあったようですが、治療の進んだ今日ではほとんどの人は治るとされています。

川崎病が怖いのはその合併症のためです。早く治療を始めないと「冠動脈瘤」というものが生じてしまい、これが狭心症や心筋梗塞の原因になるのです。

冠動脈というのは心臓の筋肉に酸素や栄養を送っている大事な血管で、これが詰まってしまったものが狭心症や心筋梗塞といった病気です。

川崎病は全身の血管に炎症を起こす病気であり、その一環としてこの冠動脈にも炎症を起こすことがあります。冠動脈に炎症が起こると、血管の壁がぼこっと膨らんでこぶができたような状態になります。このこぶが「冠動脈瘤」です。これ自体は破裂したりせず、悪さをするものではありませんが、この膨らみの内側が埋められていく過程で血管の壁はでこぼこになり、狭くて詰まりやすい部分ができてしまいます。これはすなわち、心筋梗塞が起こりやすい状態ということです。

心筋梗塞といえば普通は生活習慣病のある大人に起こるものですが、川崎病にかかって冠動脈瘤のある子供は、若くして心筋梗塞を起こしてしまうことがあります

7日以内に治療開始、9日以内の終息を目指す

このような事態を防ぐためには、とにかく早く治療を始めるしかありません。日本小児循環器学会の「川崎病急性期治療のガイドライン」では、川崎病の治療目標について次のように定めています。

急性期川崎病治療のゴールは、“急性期の強い炎症反応を可能な限り早期に終息させ、結果として合併症である冠動脈瘤の発症頻度を最小限にすること”である。

治療は第7病日以前に免疫グロブリンの投与が開始されることが望ましい、特に冠動脈拡張病変が始まるとされる第9病日以前に治療が奏効することが重要であり、有熱期間の短縮、炎症反応の早期低下を目指す。

つまり、熱が出始めた日から数えて7日以内に、治療の柱である「免疫グロブリン」の投与を始めなければならず、9日目までに炎症が治まったことを確認したい、ということなのです。

治療を始めてもなかなか効いてこない可能性もありますから、現実的にはもう少し早くから治療を始めたい。施設によっても異なるかもしれませんが、僕が研修した病院では診断のリミットの目安を5日目に定めていました。

子供の検査は採血1つでも一大事ですし(大泣きするので)、レントゲン程度の被曝でもできれば避けたいので、無駄な検査はなるべく行いません。しかし、発熱5日目の子供にはある程度オーバーな検査をしても「なんでこんな検査までしたんだ!」と上級医に怒られることはありません。

パパママのための「川崎病3つのチェックリスト」

厚生労働省の川崎病研究班が作成している「川崎病診断の手引き」では、川崎病の診断基準を次のように定めています。

A 主要症状
1.5日以上続く発熱(ただし、治療により 5 日未満で解熱した場合も含む)
2.両側眼球結膜の充血
3.口唇、口腔所見:口唇の紅潮、いちご舌、口腔咽頭粘膜のびまん性発赤
4.不定形発疹
5.四肢末端の変化:
(急性期)手足の硬性浮腫、掌蹠ないしは指趾先端の紅斑
(回復期)指先からの膜様落屑
6.急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹

6つの主要症状のうち5つ以上の症状を伴うものを本症とする。

なじみのない方にはあまりピンとこないと思いますので、ここではもっと簡単に、ご家庭でチェックできるポイントをご紹介したいと思います。

1.熱が長引く

子供の場合、風邪くらいならすぐに解熱してしまいますし、熱が出ている間も元気なことが多いです。しかし、38℃以上の熱が数日間続いている場合、治療が必要な病気の可能性があります。これは川崎病に限ったことではありませんが、様子を見ていても一向に38℃を切らないようなら、一度小児科に連れていきましょう。

2.全体的に「赤い」

川崎病は全身の血管の炎症です。この炎症によって、充血による赤みが体中に出ます。

一番分かりやすいのが白目の充血唇・舌の充血です(「眼瞼結膜の充血」「口唇の紅潮、いちご舌」)。特に「いちご舌」は特徴的な所見で、苺のように真っ赤でぶつぶつした舌になります。また、その他にも手足の先がクリームパンのように赤くぱんぱんに腫れ上がったり(硬性浮腫)、お腹や背中に赤い発疹が出たりします(不定形発疹)。

上の主要症状には挙がっていませんが、「BCG注射を打った痕の周りが赤くなる」というのも川崎病の診断を支持する有名な所見です。

グーグルで「川崎病」と検索すると沢山の写真が出てきますので、一度見ておくといざというときに参考になるでしょう。

3.やたらグズる、機嫌が悪い

川崎病の子は、他の熱を出す病気に比べてやたらと機嫌が悪いのが特徴です。診断基準にはありませんが、現場ではよく言われる話のようです。

僕も小児科研修が始まったころ、看護師さんに「教科書には書いてないけど、川崎病の子ってみんなすごく機嫌悪いんですよ」と教えてもらいました。学生時代にそんなことは習わなかったのであまりピンときませんでしたが、川崎病で入院した子を見ているうちにその意味がわかりました。彼等ははじめのうちは常にむすっとしていていて、我々が近づこうものなら大泣きして抵抗するのですが、治療を始めて2,3日もすると人が変わったようにニコニコしていることが多いです。

その他、診断基準では頸部リンパ節の腫脹が挙げられています。これは慣れないと見つけるのは難しいと思いますが、首の周り、特に後ろ側で、コリコリと腫れた複数のリンパ節を触れることがあります。

症状は記録して、写真を撮ろう

カメラ

気をつけなければならないのは、どんなに熟練した小児科医であっても、1回の診察で川崎病の診断をつけられるとは限らない、ということです。

上で引用した診断基準の6つの症状のうち、5つを満たせば診断確定です。しかし、これらは全て出ることもあれば、5つに満たないこともあります。実際には約10%の症例でこの基準を満たせないとも言われています(ちなみにそういう例では、医師の判断で「川崎病疑い」として治療をすることがあります。また、残念ながら心臓超音波検査で冠動脈瘤が見つかって診断されるケースもあります)。

また、これらの症状は熱と同時に出てくるものもあれば、少し遅れて出てくることもあります。このため、1回目の診察では「熱」と「発疹」のみで様子見の判断になった子が、数日後に再び受診したときには診断基準を満たす、ということがあります。

さらに、症状が出たり消えたりすることも知られています。こういう場合、一度でも出現した症状は「あり」とカウントします。このため、例えば医師が診察したときに発疹がなくても、ご家族が「昨日はお腹にぽつぽつが出ていて…」と言えば診断をつけられることがあります。

ここで世のお母さん、お父さんに覚えておいてほしいのは、お子さんが熱を出したときに「何かおかしいな」と思ったら症状などの記録をつけてあげるとよいということです。これはあらゆる病気について言えることですが、特に川崎病では診断の手掛かりになることがあります。

発疹が出たり、手足の指先が赤く腫れていたら、写真を撮っておきましょう。また熱についても、いつから熱が出ているのか、平熱に戻った日があったか、など記録しておくと診察の時にスムーズです。また、熱が出始めた頃にかかった病院と違う病院に再度かかる際には、前の病院でどんな検査をして、どんな評価をされ、どんな薬をもらったのかを把握しておいていただけると参考になります。

時々、不安が強くて「今朝は38.2℃で、お昼に37.5℃に下がったのに、夕方にはまた38℃を越えてて…」と事細かに教えてくださるご家族がいますが、ここまで詳細な時系列でなくても大丈夫で、「38℃前後の熱が○日間続いている」「夕方に熱が上がる傾向がある」というぐらいの情報で必要十分です。

今回は川崎病の基本的な考え方とチェックポイントについて、研修医目線で噛み砕いてご紹介しました。いかがでしたでしょうか。

川崎病は怖い病気ですが、早期に治療を始めれば大事には至りません。お子さんが熱を出したとき、ご家族から見て「いつもの熱と違う」と思ったら、ぜひ今回の内容を参考にしてみてください。