夏の気温が高い時に、屋外で作業したり遊んだりしていた人が、急に体調の悪化を訴えることがあります。時には、救急搬送される場合もあります。また、車の中に残された乳幼児が熱中症で亡くなるという痛ましいニュースは、毎年のように耳にしますよね。
これらの原因となるのが、熱中症です。熱中症の危険性について正しく理解するため、ここではそのメカニズムと原因にせまります。

熱中症とは何?
わたしたちの身体の中では、普段から様々な熱が生まれています(産熱)。運動をせずにじっとしていても、心臓や脳が休みなく動いているため、絶えず熱が発生しているのです。食事をすれば消化のために胃腸が活発に働き、これも熱を作る要因となります。
多くの熱を生み出す人間の身体ですが、体温が上がりすぎてしまった場合は自律神経の働きで末梢神経をひろげ、皮膚に多くの血液を流れ込ませることで体外へと熱を放出します(放熱)。また、汗も体温を下げるシステムの一つです。汗が蒸発するときに、身体の表面から熱が奪われます。
このように体温調節機能を持っているのが人間の身体ですが、高温の環境に長時間いるとこの機能が乱れてしまうことがあります。すると体内に熱がこもったり、急激に汗をかくことで体内の水分・塩分が奪われたりします。これが全身に影響を及ぼし、けいれん・めまい・湿疹・頭痛・吐き気など多くの症状をあらわすのが熱中症です。
総務省消防庁の資料では、2015年の5月から9月に熱中症で救急搬送された人は、全国で55,852人でした。このうち、高齢者の割合は5割を超えています。2010年以降では、高温の日が多くなったり、また気温が異常に高くなる日があったりすることで、急激に熱中症の患者が増えています。
今年の熱中症患者の搬送状況については「【随時更新】これで決まり!2016年夏の熱中症対策」で図示しているので、そちらをご覧ください。
熱中症になる原因は?

熱中症は、環境による要因と、身体的な要因、行動による要因の3つが重なった場合に起こりやすくなります。
環境による要因
- 気温が高い
- 湿度が高い
- 強い日差し
- 通気が悪い・風が弱い
- 厚着をしている
など
身体的な要因
- 体調が悪い
- 高齢者や乳幼児
- 糖尿病などの持病がある
- 病気などで体調が良くない
- 肥満
- 普段から運動をしていない
など
行動による要因
- 激しい運動
- 長時間の炎天下での労働
- 水分補給がしにくい状況
また、発生している状況を年齢別に見てみると、15歳から19歳までの10代ではスポーツ、30歳から59歳までは勤務中、65歳以上では日常生活における発生が多くなっています。特別変わったことをした訳ではなくても、注意を怠ると熱中症になってしまう場合があるということです。
さらに0歳児の場合は、車の中に閉じ込められたなど、事故により死亡したケースが、1968年から2012年までの45年間で158件もありました(環境省より)。車を止めエアコンを切った状態では、外の気温が20℃程度でも、車内は50℃にもなります。エアコンをつけていても、直射日光が当たれば温度は上がってしまうのです。後部座席には涼しい風が届かないことを知っておきましょう。
熱中症のメカニズムは?

熱中症には4つのタイプがあります。症状が軽い順に熱失神・熱けいれん・熱疲労・熱射病と名前がついており、この4つをまとめて「熱中症」と呼びます。それぞれのメカニズムを見てみましょう。
熱失神のメカニズム
暑さで皮膚の血管が広がると、血流が減るため血圧が低下します。そのため、脳に送られる血液の量も減ってしまい、熱失神の原因となります。
めまい、顔面蒼白、脈が速くて弱くなる、一時的に失神するなどの症状が出ることがあります。
通常、生理食塩水(0.9%の食塩水)を飲むことで回復に向かいます。
熱けいれんのメカニズム
汗を大量にかき、水分だけを補給した場合に起こります。
汗として排出されるのは、水分だけではありません。塩分も排出されているのです。
そのため、水分だけを摂って塩分を摂らないと血液中の塩分(ナトリウム)濃度が低下します。電解質のバランスが崩れ、足・腹部・腕の筋肉に痛みを伴うけいれんが起こります。
熱疲労のメカニズム
大量の汗をかくことで、水分、塩分共に足りなくなり重度の脱水症状を起こした状態です。暑いために血管は広がり、脱水によって血流が減るために低血圧となります。ただし体温調整機能はまだ働いており、発汗はみられます。
症状としては、全身倦怠感、悪心・嘔吐、頭痛、集中力・判断力の低下などがあります。熱けいれん同様、衣服をゆるめて風通しを良くし、涼しい場所で水分補給を行ってください。
熱射病のメカニズム
熱疲労が更に悪化した状態です。脱水症状が悪化し、体温調節機能が働かなくなるため発汗もなくなります。体温も上がり続け、40℃を超える場合もあります。
体温が41℃になるとけいれんが起こり、42℃を超えると細胞が破壊されます。中枢神経や心臓、肝臓、腎臓などの臓器に致命的な障害が起こり、死亡するケースもあります。意識障害(呼びかけへの応答が鈍い、言動がおかしい、意識がないなど)やふらつきといった症状もみられます。
この状態では命の危険があるので、ただちに救急車を呼んでください。病院へつくまでに体温を下げるため、身体に水を掛けたり、首筋や脇の下などの太い血管を冷やしたりしましょう。
「汗をかかなくなったら危険」?!
体温が上がっても汗が出せる時は、体温調節機能が働いているということです。ですが、汗が出なくなった時は、この機能が働いていません。このため、汗が出ていない場合は特に危険だといえます。これは、聞いたことがある人もいるかもしれませんね。
ただし、これは「汗が出れば大丈夫」ということではありません。汗が出るのは、体温が上がり過ぎるのを防ごうとしている時です。ですので、汗が出てきたら体温が上がってきているサインだと気付いてください。汗で確実に身体から水分が失われるのですから、脱水予防のためにも水分補給をし、暑さ対策を怠らないようにしましょう。
まとめ
繰り返しになりますが、熱中症は最悪の場合、死亡してしまうことがある病気です。「自分は大丈夫」と考えず、きちんと予防を行ってください。暑いと思ったらこまめに水分を補給し、涼しい場所に移動するなど対応することが大切です。