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「みんな、普通の子なんです」

―お子さんとのコミュニケーションについてお聞きします。日頃、お子さんたちとはどんな話をするのですか?

子どもたちとは、病気とは全く関係のない話をすることの方が多いような気がします。みんな、普通の子なんです。病気でなかったら、そこら辺で遊んでいるような子たちです。違いと言ったら、点滴がついていることと、髪の毛が少ないことくらいですね。

子どもと話すときには、その子が嫌なことをあまり喋らないように気をつけています。長く付き合っていると分かるんですが、話題によっては「スイッチが入ってしまう」ことがあるので、そういう嫌なことは言わないようにしています。そこも、普通のお子さんと全然変わらないです。

 

―病棟のお子さんの、1日の生活の流れはどのようになっているのでしょうか。

午前中は色々な検査が入ったり、治療が入ったりします。学校に行く子は行くし、勉強する子はちゃんと1日、勉強していますね。受験勉強をしている子もいます。院内学級には朝9時に出ていって、お昼に1回戻ってくるけれど、3時くらいに帰ってきます。そこも、普通の子と変わりません。

成育では、院内に小中高と揃っているので、そういう意味では学校の先生のサポートがあるというのは大きいです。

親御さんへのサポートも欠かせない

―ご家族の方々とは、どのようなお話をされるのでしょうか?

いつも、よもやま話しかしていません(笑)。その中で「こういうことに困ってるのかな」というのを察知して、悩みを探り出すようにしています。私たちは医師だけでなく、チームで(患者さんやご家族を)見ているので、カンファレンス(会議)でその気付きを共有するのがすごく大事なことです。

親御さんたちは本当に我慢をしているので、それをなんとかしてあげたいなと思っています。ただ、入院している間はまだ良いんです。問題は、(退院して)外来に出た後や、通院が年に1回とかになった時に、困ったことを相談できる人が身近にいなくなることです。その時に活躍するのが、小児がん医療相談ホットラインです。

親御さんからの相談は、私たちに対してはやはり、医療的な問題が多いです。退院する前で一番多いのは、「家でこういうことが起こったらどうしよう」「学校ではどうしよう」などですね。もちろん、病気そのものの予後の話もたくさん聞かれます。

 

―小児がんは治る病気とはいえ、亡くなるお子さんもいらっしゃると思います。お子さんが亡くなった際のケア(グリーフケア)についてもお聞きしたいです。

お子さんが亡くなった後、落ち着かれたら、病院に来てもらってお話をしてもらうようなことはしています。でも、子どもを亡くされたお母さんは、しばらくは病院に来られないことが多いです。病院に行くと辛いという方が多くて、長い方だと、1年くらい経たないと来られない方もいます。来た時に、「あのときは大変だったね」という話をすることで、少しずつ癒えていくことはありますね。

基本は話を聞くこと、あとはその子の話をすることです。お母さんたちは多分、その子の話をしたくても、家の方ではできなくて、病院に来ないと話せないということがあります。時間があったら聞いてあげる、というのはすごく大事なことのような気がします。その時期を一緒に過ごした者として、いろんな話が共有できますし。

後ろ向きになっている人はそんなに多くないような気はします。もちろん、治療の選択や経過について、あとで悩んでいる人もそれなりにいますが、私たちが支えになれればと思います。それから、次の子が生まれると、その子を見せに来てくれるということもありますね。

 

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