鼻アレルギーとは、原因となる物質(抗原・アレルゲン)によってくしゃみ・鼻水・鼻づまりといった症状をきたす疾患です。花粉症通年性アレルギー鼻炎などが含まれます。日本国民の40%が何かしらのアレルギーをもっているともいわれるほど(北里大学メディカルセンターより)、私たちにとっては身近な疾患のひとつです。

なかでも、花粉による鼻アレルギーである花粉症は、毎年悩まされている方も多いのではないでしょうか?この記事では、『鼻アレルギー診療ガイドライン』をもとに、治療をはじめるタイミング、症状のタイプと重症度別の薬の処方について解説しています。

目次

症状にあわせた花粉症治療を

どの症状が強くでていますか?

花粉症の症状は主にくしゃみ・鼻水・鼻づまりの3つですが、人によって症状のあらわれ方はさまざまです。

治療薬にはそれぞれ得意とする症状があるので、『鼻アレルギー診療ガイドライン』では症状のあらわれ方による分類がされており、そのタイプによって治療薬を処方するよう勧められています。

症状のタイプによる分類は、次の3つです。

タイプ 症状
くしゃみ・鼻水タイプ(くしゃみ・鼻漏型) くしゃみ・鼻水の症状が主な症状であるタイプ。
鼻づまりタイプ(鼻閉型) 鼻づまりが主な症状であるタイプ。
全ての症状が出るタイプ(充全型) くしゃみ・鼻水・鼻づまりの3つの症状がまんべんなく出るタイプ。
特に鼻づまりが強くでる場合には鼻づまりタイプに分類される。

上記に加え、重症度による軽症、中等症、重症・最重症という分類があります。症状のタイプと重症度の分類は、使われる治療薬の種類とその量を決めるときののめやすになります。

治療開始のタイミングはいつですか?

花粉は飛散時期がある程度わかっています。治療薬の中には効果が出るまでに1~2週間ほどかかるものもあり、投薬を飛散予測日の少し前から開始することが有効です。そのため、花粉症は治療開始のタイミングが重要です。

治療開始のタイミングは、花粉の飛散予測日、つまり症状があらわれ始める時期を基準に、初期療法、導入療法、維持療法の3つに分けられます。

  • 初期療法:花粉飛散前、症状があらわれる前から治療を開始する。症状の発生を遅らせる、症状を軽くする、症状が現れる期間を短くすることが期待できる。
  • 導入療法:症状があらわれてから治療を開始する。ひどくなった症状を改善することが目的。
  • 維持療法:初期療法・導入療法により症状が軽快した後も、軽快した症状を保つために行う治療。

花粉症の治療を始める方の多くは導入療法にあたりますが、毎年治療をされている方のうち特に症状が重たい方(重症・最重症)の場合は初期療法が推奨されています。

花粉症に使われる薬

花粉症に使われる薬は、主に次の6種類です。

ケミカルメディエーター遊離抑制薬

点眼・噴霧用、経口用といったさまざまな種類が販売されています。

効果が穏やかであるため、十分な効果が認められるには1~2週間ほど継続して服用する必要があります。

症状が落ち着いてきた患者さんの維持療法や、眠気・口渇といった副作用がないことから初期の治療に使われることが勧められています。

ケミカルメディエーター受容体拮抗薬

ヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)、ロイコトリエン受容体拮抗薬(抗ロイコトリエン薬)、プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬(抗PGD2・TXA2薬)があります。

抗ヒスタミン薬

初期に開発された第一世代の薬と、持続時間や副作用が改善された第二世代の薬があり、現在よく使われているのは第二世代抗ヒスタミン薬です。

花粉症の症状全般に対して有効ですが、神経抑制作用による認知能力低下・眠気、抗コリン作用による口渇などの副作用があります。

基本的に、くしゃみ・鼻水・鼻づまりの3つの症状が出ており、これらの症状が中等症以上である患者さんに主に服用されることが多いです。

抗ロイコトリエン薬/抗PGD2・TXA2薬

抗ロイコトリエン薬と抗PGD2・TXA2薬は、抗ヒスタミン薬に比べて鼻づまりを改善する効果に優れており、鼻づまりが強いタイプの患者さんに処方されます。また、抗ヒスタミン薬より短い期間で効果があるとされています。

抗ロイコトリエン薬には下痢、腹痛、嘔気、肝機能障害など、抗PGD2・TXA2薬には、肝炎・肝機能障害、腹痛、頭痛、出血傾向などの副作用があげられます。

Th2サイトカイン阻害薬

単独ではなく、抗ヒスタミン薬などの他の薬と併用することで増強効果があります。

ステロイド薬

ステロイド薬には、鼻噴霧用と経口用があります。

鼻噴霧用は、鼻に噴霧することでアレルギー性鼻炎の3症状(くしゃみ・鼻水・鼻づまり)を改善してくれます。経口用のものと比べて副作用は少ないです。

一方、経口用のステロイド薬は、重症の患者さんに使用されることがあります。

 

※治療薬の商品名も含めた表記については、「花粉表の治療薬一覧表」の段落も参照してください。

花粉症の初期療法

最も花粉飛散量の多い時期の症状のあらわれ方から判断し重症型と判断された場合には、早めに治療を導入する初期療法が勧められます。

くしゃみ・鼻漏型であるか、鼻閉型または充全型であるかによって、次のように治療薬が選択されています。

くしゃみ・鼻水タイプ 鼻づまりタイプ
(1)第二世代抗ヒスタミン薬
(2)ケミカルメディエーター遊離抑制薬
(3)鼻噴霧用ステロイド薬
(1)抗ロイコトリエン薬
(2)抗PGD2・TXA2薬
(3)Th2サイトカイン阻害薬
(4)鼻噴霧用ステロイド薬

(1)~(4)のうちいずれかひとつ。

(鼻アレルギー診療ガイドラインより)

即効性のある第二世代抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、鼻噴霧用ステロイド薬は、花粉飛散予測日か症状が少しでもあらわれ始めた時点で治療を開始します。その他の薬は、飛散予測日の1週間前頃から服用開始します。

花粉症の導入療法・維持療法

症状がではじめてから治療を開始する場合は導入療法と呼ばれています。導入療法では、一段階でも重症度を下げることが治療目標です。

導入療法により症状が落ち着いた後は、維持療法によりその状態を保つよう努めます。

重症度 症状タイプ
くしゃみ・鼻水タイプ 鼻づまりタイプ
軽症 (1)第二世代抗ヒスタミン薬
(2)ケミカルメディエーター遊離抑制薬
(3)抗ロイコトリエン薬
(4)抗PGD2・TXA2薬
(5)Th2サイトカイン阻害薬
(6)鼻噴霧用ステロイド薬 

(1)~(6)のうちいずれかひとつ。
(1)~(5)の薬で治療を開始した場合、症状に応じて(6)を追加することもある。
中等症
第二世代抗ヒスタミン薬

鼻噴霧用ステロイド薬
(1)抗ロイコトリエン薬または抗PGD2・TXA2薬

鼻噴霧用ステロイド薬

第二世代抗ヒスタミン薬
(2)第二世代抗ヒスタミン薬
鼻噴霧用ステロイド薬  

(1)(2)のいずれか。
重症・最重症 第二世代抗ヒスタミン薬

鼻噴霧用ステロイド薬
(1)鼻噴霧用ステロイド薬

抗ロイコトリエン薬または抗PGD2・TXA2薬

第二世代抗ヒスタミン薬

(2)鼻噴霧用ステロイド薬

第二世代ヒスタミン薬

(1)(2)のいずれか。
必要に応じて点鼻用血管収縮薬を1~2週間投与する。

(鼻アレルギー診療ガイドラインより)

その年の花粉飛散量も考慮しつつ、重症度に応じて治療薬が処方されます。症状が改善されると上記の表にしたがって治療内容を一段階下げていきます。

3症状のほか、喉の痛み・かゆみ、咳の症状があり特に症状が重たい場合には、経口ステロイド薬が処方されることもあります。

治療薬の副作用は患者さんによって個人差が大きいので、治療を行う中で患者さん一人ひとりにあった治療薬の組み合わせを見つけていきます。薬によって何らかの反応があった場合にはしっかりと医師に伝え、患者さんと医師が協力することが必要です。

花粉症の治療薬一覧表

治療薬の薬品名、商品名の一覧表です。

分類 くすり 作用
ケミカルメディエーター遊離抑制薬
(マスト細胞安定薬)
クロモグリク酸ナトリウム(インタール®)
トラニラスト(リザベン®)
アンレキサノクス(ソルファ®)
ペミロラストカリウム(アレギサール®、ペミラストン®)
ヒスタミンやロイコトリエン、トロンボキサンといった
ケミカルメディエーター(アレルギーを引き起こす伝達物質)を、
肥満細胞から放出させないようにする(遊離を抑制する)ことで、症状を改善する。
ケミカルメディエーター
受容体拮抗薬
  
ヒスタミンH1受容体拮抗薬
(抗ヒスタミン薬)
※第一世代
 d-クロルフェニラミンマレイン酸塩(ポララミン®)
クレマスチンフマル酸塩(タベジール®)
肥満細胞から放出されたケミカルメディエーターが受容体に結合する前に、
受容体に先に結合する(ケミカルメディエーターと拮抗する)ことで、症状を改善する。
ヒスタミンH1受容体拮抗薬
(抗ヒスタミン薬)
※第二世代
 ケトチフェンフマル酸塩(ザジテン®)
アゼラスチン塩酸塩(アゼプチン®)
オキサトミド(セルテクト®)
メキタジン(ゼスラン®、ニポラジン®)
エメダスチンフマル酸塩(ダレン®、レミカット®)
エピナスチン塩酸塩(アレジオン®)
エバスチン(エバステル®)
セチリジン塩酸塩(ジルテック®)
レボカバスチン塩酸塩(リボスチン®)
ベポタスチン(アレロック®)
ロラタジン(クラリチン®)
レボセチリジン塩酸塩(ザイザル®)
フェキソフェナジン塩酸塩(ディレグラ®)
 ロイコトリエン受容体拮抗薬
(抗ロイコトリエン薬)
 プランルカスト水和物(オノン®)
モンテルカストナトリウム(シングレア®、キプレス®)
プロスタグランジンD2・
トロンボキサンA2受容体拮抗薬
(抗PGD2・TXA2薬)
ラマトロバン(バイナス®)
Th2サイトカイン阻害薬   スプラタストトシル酸塩(アイピーティ®) アレルギー反応の原因となる物質(サイトカイン)が
免疫細胞から産生されるのを抑えることで、症状を改善する。
 ステロイド薬  鼻噴霧用  ベクロメタゾンプロピオン酸エステル(リノコート®)
フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルナーゼ®)
モメタゾンフランカルボン酸エステル水和物(ナゾネックス®)
フルチカゾンフランカルボン酸エステル(アラミスト®)
デキサメタゾンシペ知る酸エステル(エリザス®)
抗炎症作用により、症状を改善する。
経口用 ベタメタゾン
dークロルフェニラミンマレイン酸塩配合剤(セレスタミン®)

(鼻アレルギー診療ガイドラインより)

まとめ

処方された薬を医師の指示に従って服用することはもちろん、花粉飛散情報に注意して行動し抗原との接触をできる限り避け、薬による副作用に注意しましょう。

「治療は病院・医師に任せればいいや」ではなく、患者さん自身も治療への理解を示し、主体的に治療に参加し継続することが求められます。