多発性硬化症は、厚生労働省の特定疾患に認定される指定難病であり、治療が長期にわたる病気です。はっきりした原因が解明されていないため、根治療法(病気の原因を取り除き、根本から治すことを目指した治療法)は確立されていません。そのため、症状のあらわれ方や患者さんの体質などを見ながら、点滴薬注射薬内服薬を用いた治療が選択されます。ここ数年、新薬の国内認可によって、患者さんの回復促進に望みがでています。

多発性硬化症がどのような病気か知りたい方は、「神経難病「多発性硬化症」の原因、症状と検査」もご覧ください。

目次

症状などで異なる3つの治療

多発性硬化症は、中枢神経(脳と脊髄)の神経線維(神経の線)の表面をおおう髄鞘が破損する病気です。患者さんのほとんどは、症状の再発と寛解(症状が落ち着いて安定した状態)をくり返し、長期にわたる治療を受けています。

原因が特定されていない、症状には個人差があるなどの理由で、決定的な治療法が確立されていません。発病の時期や症状によって、治療法は次の3つに分かれます。

  • 急性期治療
  • 再発や進行の予防
  • 症状の緩和

急性期は、短期のステロイド治療

症状が急にあらわれる時期や病気になりはじめの時期を急性期といいます。急性期には、脱髄(神経線維の髄鞘が壊れた状態)の部分に炎症が起きます。炎症を早く鎮めるために副腎皮質ステロイドを短期間で大量に使います。

メチルプレドニゾロン(副腎ステロイド薬)500~1000mgを2〜3時間かけて点滴静注します。これを3~5日間連続して行います。「ステロイドパルス」と呼ばれる療法です。1週間ほど様子を見て、症状が改善しない場合は、ステロイドパルス療法を再び行います。短期間の投与とはいえ、ステロイド薬による副作用(動悸、不眠、頭痛など)があらわれることがあります。

また、ステロイドパルス療法の効果が出ない、あるいはステロイド薬の副作用がひどい患者さんには「血液化療法」を行います。これは、人工透析の一種で、透析機を使って血液を体の外に採り出し、髄鞘を攻撃する免疫物質などを除去したあとに体に戻します。

再発を防ぐ5つの薬

点滴-写真

多発性硬化症は、再発を不定期にくり返すのが特徴です。発症後5〜10年は、再発と寛解のくり返しが多く、次第に後遺症が蓄積すると杖を使うほどの歩行困難が起こります。また多発性硬化症は高温の環境で症状が悪化することが知られています(ウートフ徴候)。その為再発を予防するには、まず熱いお風呂、サウナなど高温の場所、運動や仕事などによる疲労は避けましょう。薬は世界で10種類以上ありますが、現在日本では次の再発予防薬が認可されています。専門医に相談して実施します。

注射薬

  • インターフェロンβ-1b(2000年9月承認)2日に1回、皮下注射します。
  • インターフェロンβ-1a(2006年7月承認):週に1回、筋肉注射します。
  • グラチラマー酢酸塩(2015年9月承認):1日に1回、皮下注射します。

内服薬

  • フィンゴリモド(2011年9月承認):経口薬1錠を1日に1回、長期に服用します。インターフェロンの約2倍の効果があるとされています。

点滴薬

  • ナタリズマブ(2014年3月承認):月に1回、1時間ほど点滴投与します。現在、最も強力に再発と進行を抑える治療薬とされています。

症状の緩和とリハビリテーション

多発性硬化症の経過には個人差があります。治療のあとでも、手足の痛み・痺れ・つっぱり、疲労、排尿障害などの症状が残ることがあります。これらの症状の多くは、薬で軽減させることが期待できます。我慢せずに専門医に相談するとよいでしょう。

ろれつが回らない、まっすぐ歩けないなどの後遺症が残った場合は、リハビリテーションの開始をおすすめします。歩行や手足の動きを改善する「理学療法」、日常生活に必要な動作を訓練する「作業療法」、発音練習などの「言語療法」を実施します。医師やリハビリスタッフと相談しながら、週2〜3回を目安に行うのが一般的です。

まとめ

多発性硬化症は、再発をくり返しながら、長期にわたり治療が必要な病気です。再発や進行を予防するには、治療薬の投与のほかに、体を疲労させない、ストレスを溜めこまない、熱いお風呂に入らないなど日常の暮らし方が大事です。多発性硬化症の研究は、国内外で盛んに行われています。 原因を探る基礎研究、再発や進行の防止薬の開発などに期待が寄せられています。