妊婦の方でも「周産期心筋症」という言葉を知っている方はあまりいないでしょう。周産期心筋症とは、特に心臓に持病を抱えていない女性が妊娠や出産を経ることによって発症する心臓の病気の一つです。

これまで日本ではあまり注目されてきませんでしたが、近年産婦人科医や循環器医を中心にその存在に注目が集まっています。「妊娠中に心臓が突然悪くなる」と聞くと恐ろしく感じてしまうかもしれませんが、ここではその様な周産期心筋症について基本的なところから詳しく解説します。

目次

周産期心筋症とは?

周産期心筋症とは文字通り、周産期(妊娠中から出産後にかけて)に生じる心筋症のことです。心筋症とは、心臓の筋肉に異常が起こることで心臓の機能が低下する病態を指します。

心臓の機能が低下すると、全身に血液がきちんと循環しなくなります。その結果、血液が手足の血管に滞ることで浮腫(むくみ)が起こったり、肺に滞ることで呼吸困難肺水腫)といった症状が生じたりすることもあります。

また、全身に血液や栄養分を送ることができなくなることから、倦怠感や疲労感が強くなるといった特徴もあります。循環不良が深刻化すると命に関わることもあります。

なぜ周産期に起こるのか?

周産期はそもそも心臓に大きな負担がかかる時期です。子宮の中にいる胎児は、母親から供給される血液によって酸素や栄養分を得ています。また、子宮も胎児の成長と共にサイズが大きくなっていくため、それを維持するための血液が必要となります。

これらの血液は母親の心臓一つで送り出されなければならないため、母親の心臓には大きな負担がかかることになります。

心臓は負担が増加したからといってすぐに機能が低下するということはありませんし、通常の女性の場合は負担の増加に耐えられるようになっています。しかし、何らかの原因によって心臓の筋肉が通常よりも弱体化していると、負担に耐え切れずに心筋症を発症してしまうのです。この原因については現在のところ詳しくは分かっていません。

どのくらいの妊婦さんがなるのか?

周産期心筋症は比較的稀な病気です。2009年に厚生労働省の研究チームが実施した全国的な調査によると、発症率は2万出産中に1といった頻度でした。

しかし、出産年齢が上昇するにつれて発症率も上昇していき、35~39歳の妊婦に限定すると発症率は約1万出産に1人まで頻度は上昇します。近年わが国では、高齢出産が増加しているため、周産期心筋症の発症数も増加していくことが予想されています。

治療はどうするの?

心臓

治療としては、心臓の負担の取り除くための薬物治療がメインとなります。ただし、心臓に作用する薬のなかにはお腹の胎児に悪影響を及ぼすものもあるため、薬選びには注意が必要です。

また、心臓のポンプ機能をサポートするために風船状の補助装置(IABP)を血管内に挿入したり、症状が重い場合は補助循環装置(PCPS)を用いたりすることもあります。

まとめ

周産期心筋症という病気自体は今後数が増加していくことは予想されるものの、今後も比較的稀な病気であり続けることでしょう。ですが、「妊婦さんの心臓には負担がかかっている」ということは揺るぎのない事実です。その事実に対して、妊婦さんがきちんと注意し、周りの方がしっかりとサポートしてあげることが重要でしょう。