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最初はみんな飲めないから大丈夫

―どれだけ工夫してもお子さんが薬を飲みたがらないことはありますか?

はじめは飲めないお子さんでも、色々な工夫をしていくと、3~4ヶ月後には飲めるようになる子がほとんどだと思います。子ども自身に適応能力があるのと、看護師の補助や工夫もあって、ずっと何も飲めないという子はごくわずかです。

どちらかというと、親御さんがとても心配されます。「飲まなきゃダメ」とお子さんを叱ってしまったり、「こんなに頑張ってるのに、どうしてうちの子は飲めないのか」と悩んでしまったりすることがあります。

 

―親御さんの心配に対して、どんなケアをしていくのでしょうか。

入院してすぐ、周囲のお子さんが薬を飲んでいる様子を見て「なんでうちの子だけ…」とおっしゃる親御さんがいますが、それは他の子たちが半年以上入院しているからです。ですから、心配そうな親御さんには「最初は誰でもそうですよ」と、その子だけではないことを強調します。他の親御さんから「うちの子もそうでした」と聞き、それで落ち着ける親御さんも多いです。

イライラするという副作用が出る薬もあります。そういうときは「この薬の影響で(他の薬を)飲めていないんですよ」と伝えあげれば、「終われば飲めるんですね」と肩の荷が降りている印象はあります。

最初から飲めないのは、当然のことです。親御さんが滅入ってしまうと、お子さんにも良くない影響が出ることがあるので、僕たちは「これから長い治療があるので、少しずつやっていきましょう」と話し、親御さんがあまり心配しないように心がけていますね。

 

―剤形や味を含め、様々な工夫を凝らしながら見守っているんですね。

もちろん、薬にもよります。治療のお薬は飲まないわけにいかないので、優先順位を付けていきます「これは必ず飲まなきゃいけない薬」と決めて、副作用を予防する薬などはだんだんと(飲める方法を)見つけていくようにすれば、子どもたちの負担も少し軽くなります。

 

―その他、親御さんからよく聞かれることはありますか?

よく、「(副作用が)強い薬ですか」と聞かれますね。この質問は、何をもって「強い」とするのか、回答が難しいです。

例えば抗がん剤の吐き気に関して、出やすい薬もあれば、ほとんど出ないものもあります。では、「吐き気が強く出れば副作用が強い」「吐き気が少なければ弱い」かというと、吐き気は出なくても非常に便秘になりやすく、お腹がとても痛くなってしまうものがあります。ですから、「吐き気に関してはあまり強くないですが、便秘でお腹が痛くなりやすいので注意が必要です」というように、細かく説明をします。

 

―親御さんにとっては、効果の強弱よりも、副作用の強さの方が気になるのですね。

そうですね。効果は、月単位で行うMRIやCTの検査結果を見る時に特に気にされていると思いますが、数日後から1週間後に起こるのは副作用です。そのため、治療を開始するときには「どんな副作用がありますか」というのはよく聞かれます。

 

―最後に、小児がん治療に携わる中で一般の方に伝えたいことがあればお聞きしたいです。

治療中は、5~6種類もの薬を飲むこともあります。はじめは「飲めるのかな」と思いますが、子どもたちの適応能力は本当にすごく、長期入院の間にだんだん飲めるようになっていきます。入院という大きなイベントに直面すると、はじめは「どうしよう」となりますが、そこからの子どもの適応能力はすごいと日々思っています。

あとは、(子どもたちの服薬のサポートは)やはり多職種がいてこそだと思います。それぞれの職種が独りよがりなのではなく、その子に対してどうすればいいか、みんながきちんと連携しているのでうまく行っていると思います。

編集後記

たくさんの飲み薬、副作用のつらい抗がん剤…「小児がんの治療」に伴うイメージは、あまり明るくないものが多いかもしれません。ただ、歌野さんのお話の中で何度も「子どもの適応能力はすごい」という言葉が出てきたことは印象的でした。それに加え、薬剤師に限らず様々な職種が協力し、一人ひとりのお子さんに最適な飲ませ方を見つけていくことで、子どもたちは薬を飲めるようになっていくのだといいます。

年間2,000人〜2,500人がかかる小児がんは、命を落とすお子さんもいる一方、その8割は治る病気でもあります。一連の記事を通して、闘病中の子どもたちや、闘病を終えて社会で生活している方たちがいることを知っていただければと思います。

※取材対象者の肩書・記事内容は2018年4月18日時点の情報です。