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大きな病気にかかったとき、健康面と同じくらい心配になるのは生活面のことです。小児がんをはじめとする子どもの病気は、お子さん本人はもちろん、家族の生活にも大きな影響を及ぼします。医療費、学校…治療と並行して考えるのは、とても大変です。

そんな時に頼りになるのが、ソーシャルワーカー(社会福祉士)の存在です。病気に伴って起こる問題について、入院中から退院後の生活まで継続してサポートするのがソーシャルワーカーの役割だといいます。国立成育医療研究センター こどもサポートチームの取材連載、8回目となる今回は、ソーシャルワーカーの鈴木 彩さんにお話を伺いました。

お話を伺った方の紹介

※写真:国立成育医療研究センター 総合受付

病院と地域、病院と学校をつなぐ役割

―小児がんのサポートにおいて、ソーシャルワーカーが果たす役割はどのようなものでしょうか?

病気になると、それに伴ってご本人にもご家族にも心配なことや不安が起こってきます。そんなときに、患者さんやご家族のご相談にのりながら、どのようにしていけば良いのかを一緒に考えていくのがソーシャルワーカーの役割です。

特に小児がんに関して言うと、例えば診断されたばかりの時、親御さんは医療費のことを心配されます。ですから、医療費に関しては早めにご案内をするようにしています。

国立成育医療研究センターのこどもサポートチームでは、看護師が最初にご家族から聞き取りをして、その後に私たちソーシャルワーカーが関わります。ご家族の状況、ご兄弟の有無や年齢、通っている学校などの情報が事前に共有されるので、その中からこれからの生活に支障が出そうなところをさらに聞いていきます。

小さなご兄弟をお持ちのご家族の中には、(親御さんが患者さんの面会をしている間の)預け先がない方もいらっしゃいます。その場合、地域の保育サービスなどを紹介します。学齢期の患者さんには院内学級をご案内することもあります。

このほか、生活上の相談にのり、地域の様々なサービスと繋いでいくこともソーシャルワーカーの役割です。お子さんがもともと通っていた学校ももちろんその一つです。お子さんががんになったことで、生活自体がうまく回らなくなってしまうこともあるので、できるだけご家族の負担を少なくできるような関わりもしています。

それから、退院後の生活についても、訪問看護、訪問診療、福祉サービスとの連携も取っています。

診断時や入院時、また退院後の生活に戻るところの支援が多いですね。また、小児がん相談支援センターには治療が終わって数年後、あるいは成人になった方からも相談がきます。

ご本人やご家族が今、困っていること、不安に思っていることともに、大切にしていることを伺いながら、これからの生活を一緒に考えていくのがソーシャルワーカーの役割です。

診断直後は「とりあえず、これだけやってください」

―がんと診断されてすぐのご家族は、まずはその事実を受け止めるだけで精一杯だという方も多いと思います。そういった方々に対して、まずはどのように説明をしていくのでしょうか。

診断されたばかりは、頭が真っ白な方が多いです。ただ、それでも「とりあえず今すぐやらなければいけないこと」はあります。

すぐに手続きをしないと、医療費の支払いが大変になってしまう場合もあるので、「とりあえず、今はこれだけやってください」「後でできることは、後でしましょう」とできるだけシンプルに伝えます。ご家族がすぐに動けそうにない場合は、例えば私たちが代理で役所へ問い合わせるなど、できる限りのサポートはしています。

「がん」と診断された時点で、18歳未満のお子さんであれば国の医療費助成を受けることができるので、そのご案内を最初にします。申請一つ行うにしてもかなり大変なので、その負担を減らすために、申請窓口を調べて「市役所のここへ行けば良いです」とご案内したり、書類の確認を一緒にしたり、どこに行って何をすればいいのかをできるだけシンプルに伝えるようにしています。

一方、面談時にすでにご自分で調べられている親御さんもいて、「これを申請すればいいんですよね」と書類を持っているご家族もいらっしゃいます。様々なご家族がいらっしゃるので、それに合わせてお話を進めていきます。

 

―入院時、ご家族の方からはどのような質問を受けることが多いですか?

医療費のことやご兄弟、学校のことはもちろんですが、「周りにどう話せばいいのか」についてもよく聞かれます。「他の方はどうされているんですか」ということですね。

診断されたばかりでこれからの状況をはっきり分かっていない方もいれば、ある程度入院の期間を聞いている方もいて、ご家族によって状況が異なります。それぞれのご様子に合わせて、どのように対応するかを一緒に考えていきます。

(医療従事者以外にも)おじいちゃんやおばあちゃんなどの親戚、お友達など、そのご家族がもともと持っている様々な人とのつながりがあると思うので、身近な方や、よく助けてくれるお友達には、少し詳しく話しておいた方が良いかもしれないなどと話します。

 

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