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様々な方面から情報収集し、飲ませ方を考える

―こどもサポートチームでの薬剤師さんの役割はどのようなものですか?

こどもサポートチームは多職種で緩和ケアを行っています。疼痛管理や鎮痛剤、オピオイドなどの医療用麻薬を使うことがあるので、主治医や緩和の余谷先生たちと話し合いながら、どのくらい使えばいいかを決めています。

薬の効能・効果や用量については、薬剤師も把握してはいますが、医師の方が経験豊富で得意な分野です。一方、「これとこれを一緒に飲むとあまり良くない」「片方の薬の効果がほとんどなくなってしまう」など、薬の相互作用や相性をチェックする部分は、僕たち薬剤師の得意分野であり、最大の仕事です。

多職種が一緒に話し合うメリットは非常に大きいです。担当看護師はその子の特徴を、保育士は保育を通してその子の特性を分かっています。CLSは成長発達のことを学んでいるので、どういう準備をさせればいいか知っています。様々な方面からその子の特徴を分かっているので、そこから情報収集ができて、実際に薬をスムーズに飲ませることができています。

 

―似たような症状であっても、お子さんの特性によって薬の種類や飲ませ方が変わってくるのでしょうか?

種類が変わることはそれほどありません。でも、飲ませ方はかなり変わってきます。

例えば、錠剤を飲めるようになる平均年齢は5~6歳と言われていますが、7~8歳になっても「粉の方が良い」というお子さんももちろんいます。また、初めに話したように甘いお薬が得意な子もいる一方、苦い方が好きな子もいます。

粉薬でも「サラサラしているものは飲めるけれど、ツブツブしているものは飲めない」などあるので、錠剤を潰してサラサラの薬にしてあげるなど、多様な飲ませ方があります。もちろん、錠剤を潰してはいけない薬もあるので、注意が必要です。

いかに苦痛なく服用してもらうかを考えたとき、サポートチーム内での情報交換はとても大事です。

 

―医師が処方した薬を薬剤師がストップしたり、見直しをかけたりすることもありますか?

あります。「この薬を加えると相互作用で別の薬が非常に効きやすくなってしまうので、もう一つの薬の投与量を減らしましょう」とか、「薬Aは今服用している薬に影響があるので、相互作用の少ない薬Bを使用しませんか」などと提案をすることがあります。

(服用を)やめるというより、影響の少ない薬に切り替えることが多いように思います。例えば花粉症の薬でも、「アレグラ」「アレジオン」など色々ありますよね。一見すると同じ効き目の薬でも、意外とそれぞれに特徴があります。そのイメージに近いです。

薬の相互作用や用法・用量に関しては、医師とのコミュニケーションがすごく大事です。病棟にいればすぐに情報が入手できるので、調剤する前に「こっちの薬に変えた方がいいんじゃないですか」とタイムリーに意見を伝えられます。薬剤師が病棟に行くことは、最近では当たり前になっています。

 

―お子さんたちに薬の説明をするとき、注意していることはありますか?

「小さい子には薬の説明をしてもあまり分からないだろう」と、親御さんだけに話しがちです。ただ、子どもたちは密かに薬のことが気になっている場合があります。治療が終わったお子さんに話を聞くと「実は、どういう薬を飲んでいるのか聞きたかった」と言われたこともあります。

そのため、薬の説明は必ず、親御さんとお子さんとが揃っているときにしています。親御さんに向けて説明するときでも、説明書は必ずお子さんにも見えるように提示しますし、お子さんが聞いていなさそうだと思ってもできるだけ大きな声で、聞こうと思えば聞こえるような形で行います。

 

多職種で考えながら、副作用を防ぐ

―副作用や晩期合併症のことなど、ご本人には言いづらい部分もあると思います。実際の現場では、どの程度まで説明しているのでしょうか?

僕の場合、目の前の良いこと・悪いことを一つずつ話していくスタンスです。例えば「飲み始めると血圧が高くなったり、気持ち悪くなったりするかも」と説明したり、「点滴を打つと腰が痛くなるかもしれないので、痛んだら教えて」と伝えたりと、2~3日先、1~2週間先、1~2ヶ月先に起こることに関して必ず話をするようにしています。

一方、晩期合併症に関しては、医師が必ず話しています(インフォームド・コンセント)。薬剤師からそこまで詳しく説明することはないですが、お子さんまたは親御さんが全く知らないということはありません。

 

―薬剤師さんは、副作用や晩期合併症に対して予防的な処置はしているのですか?

小児がんの治療は化学療法がメインになるので、吐き気止めの処方は薬剤師がとても得意としているところです。

予防薬なしでもほとんど吐き気が出ない抗がん剤もある一方、9割以上の方が気持ち悪くなってしまうような薬もあります。薬に応じて、吐き気止めの必要、あるいは不必要も含めて予防的に提案していますね。

 

―吐き気が強くなってしまうと、吐き気止めの薬を飲むことさえもできなくなってしまうのではないのでしょうか。

そうですね。なので、吐き気止めの点滴を使うこともあります。

一方、吐き気止めの服用を意識させて予防しているケースもあります。抗がん剤で気持ち悪い思いをすると、予測性嘔吐といって、抗がん剤以外であっても点滴が運ばれてきただけで気持ち悪くなってしまうことがあるのです。そういう人には気分を落ち着かせるような薬が効くこともあります。

そのほか、お子さんの希望に合わせて点滴を隠す場合もあります。「今日は化学療法の日」ということはもちろん伝えますが、点滴を見ると気持ち悪くなってしまうので、タオルで隠す工夫などもしています。

 

―薬だけを使うのではなく、点滴を隠すなどといった工夫で副作用を防ぐこともできるのですね。

そうですね。僕らは薬を使って予防を考える立場ですが、リラクゼーションなどが吐き気の予防に繋がることもあります。そのため、薬でなかなか抑えられないときは、CLSや看護師にも相談しています。

薬剤師はどうしても、「薬でどうにかしよう」と考えがちです。ですが、多職種が関わると考える幅が広がります。薬以外でも何かできないかと情報交換をすることが大事だと思います。もちろん、反対に「もう1剤加えましょう」と薬の使用を提案することもありますね。

 

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