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2018年1月から2月にかけて、国立成育医療研究センター 小児がんセンター こどもサポートチームの皆さんに取材を行いました。医師や看護師をはじめ、小児がんのお子さんたちを支える多くの医療従事者にお話を伺った本連載には、SNSなどを通じて多数の反響をいただいています。

今回の記事ではその続編として、薬剤師の歌野 智之さんにお話を伺いました。
大人であっても、ちょっとした薬の服用ですら「嫌だな」と思ってしまいがちです。長期にわたって薬を飲み続けければならない子どもたちは、なおさらでしょう。そこで、子どもたちが“頑張らなくても飲める”ように、歌野さんたち薬剤師は様々な工夫を凝らしているそうです。

お話を伺った方の紹介

※写真:成育医療研究センター前の、象の親子を模した石像

正しい薬を、適切なかたちで出す

―成育の薬剤師さんは普段、どういうお仕事をしているのですか?

一番大きな仕事は、医師から処方された薬が患者さんにとって適切か処方せん上で確認し、さらにそれが正しく投与されているかを確認することです。

投与量や用法に加え、子ども特有のこととして剤形(薬のかたち)の選択があります。錠剤や粉薬、水剤(シロップ)など、年齡に合った剤形が選択されているかを確認します。確認後は、薬を適切に調剤して病棟に出します

また、実際に患者さんに会い、処方された薬について患者さん自身に分かりやすく説明する取り組みも盛んです。

例えば、肝臓に悪い薬があります。医師はよく「肝機能障害」と言いますが、そう言われてもよく分からないですよね。黄疸の症状であれば「肌が黄色っぽくなる」とか、先生たちも分かりやすく言い換えてはいるのですが、患者さんやご家族は、先生たちが話す場では緊張しがちです。説明が終わった後に「あれはどうだったかな」ということも多いので、それを僕たちがもう一度確認し、説明をしています。

 

―お子さんたちの年齡や発達によって、薬の出し方は変わるのですか?

保育士チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)、担当の看護師などとチームを組み、その子の性格や成長発達の段階を聞いて、最適な飲み方を提供しています。

特に成育の薬剤師がこだわるのは、薬の味についてです。味に関しては添付文書(薬の説明書)などにも書かれていますが、文面からは想像できない場合、実際に舐めて確認することもあります

飲み込んではいけないものは舌にだけのせ、その後水で口を濯ぎます。また、抗がん剤は舐めることさえできないので、書面での確認に加え、実際に服用した子どもたちの様子を観察しながら次の子たちに説明しています。

一般的に、抗菌薬や咳止め薬など、風邪をひいたときにも飲むような薬は甘いものが多いです。ただ、がんの領域で使う薬は苦いものが多いので、甘いシロップを加えるなど、飲みやすくなる工夫をしています。とはいえ甘いものが苦手なお子さんもいるので、そこはそれぞれの好みに合わせます。

 

―子どもの薬と大人の薬とで、処方や飲ませ方に違いはありますか?

子どもに使う薬とはいえ、大人に処方する薬と同じものなので異なる点はあまりありません。ただ、(使用する種類は)大人と比べると、だいぶ少ないと思います。昔と比べれば子どもに対してのデータも蓄積されてきてはいますが、まだまだという感じです。

また、大人の場合、特に高齢の方は「良薬は口に苦し」と、苦くても我慢してくれる場合がありますが、子どもは苦い薬だと飲みません。薬の必要性を説明しても、「そうは言っても飲みたくない」という場合があるのは大きな差です。子どもが頑張らずとも飲めるよう、あらかじめこちらで工夫をしておくというのが一番の違いだと思いますね。

 

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