交通事故や病気などで脳にダメージを受けると、日常生活にさまざまな支障を来たすことがあります。それらを高次脳機能障害といい、そのうちの一つに記憶障害があります。記憶障害では「覚えられない」「思い出せない」といった症状が出てきます。また記憶について全て忘れる訳ではなく、症状にもさまざまな特徴があります。今回は記憶障害について、症状、検査、リハビリまで紹介していきます。

目次

記憶障害とは

記憶はいくつかの過程から成り立っており、「情報を覚える記銘(符号化)」「記銘した情報を蓄える保持(貯蔵)」「保持した情報を思い出す想起(検索)」の3つの段階があります。それらの役割は大脳にある側頭葉や前頭葉が担っています。

新しい経験・情報を選択しながら取り込むことを符号化と言います。そして必要なときに記憶を取り出せるよう長期間保存することを貯蔵、記憶を必要なときに取り出すことを検索と言います。

脳外傷や脳卒中脳梗塞、脳炎などによって脳にダメージを受けると、これら記憶に関する3つの段階に障害が現れます。またダメージを受けた脳の箇所によってどの症状が現れるか変わってきます。

日常生活での現れ方

  • 記銘障害(前向性健忘):発症後の経験した新しい情報の獲得が困難になります。
  • 想起障害(逆行性健忘):以前(健常時)に経験して獲得した知識や事柄、出来事がうまく思い出せなくなります。
  • 記憶の管理障害(展望記憶障害):将来実行すべき事柄を適切な時点で思い出せなくなります。

認知症と記憶障害

認知症でも記憶障害は代表的な症状です。

認知症では健忘症と同様に新しいことをなかなか覚えられず、また以前のこともうまく思い出せず、さらに時間や場所などの見当識が低下します。さらに記憶だけでなく、言語や種々の認知機能も低下し、日常生活において適応的で自立した活動が困難になります。

記憶障害の症状

主な症状は「思い出せない」「覚えられない」です。代表的な症状を紹介します。

  • 今日の日付や曜日、自分がいる場所が分からない
  • 何度も同じ話や質問を繰り返す
  • 自分のしたことを忘れてしまう
  • 新しいことが覚えられない、1日の予定を覚えていられない
  • 作業の途中で話しかけられると、自分が何をしていたか思い出せない

このほか以下の特徴が知られています。

  • 数秒前の短い記憶であればすぐに忘れてしまうということは少ない
  • 得意なことや長い年月をかけて繰り返し覚えたことは、忘れずに身体で覚えている
  • 記憶障害の程度は、意識や注意力、興味、感情などの影響を受けることがある
  • 記憶障害の穴を埋めるために、会話中つじつまを合わせて取り繕うことがある(作話)

記憶障害の検査

記憶の働きを調べるための検査は数種類あります。一部を紹介します。

三宅式記銘力検査

検査する人が関連のある対の単語(海・船、男・ひげ)を10回読み上げた後、片方の言葉を伝えて残りを思い出して答えてもらいます。関連のない対の単語(ほたる・切符、頭・秋)でもやってみます。

簡単にできる方法で、日本では昔から取り入れられています。

WMS-R(ウェクスラー記憶検査)

言語や図形を使った問題を通して、言語性記憶、視覚性記憶、注意・集中力などの能力を測定する検査です。数字を逆から唱える(逆唱)、物語や図形の記憶と再現などが含まれます。

RBMT(リバーミード行動記憶検査)

写真を見せて名前を記憶させて時間が経ってから答えさせるなど、日常生活に関わりのある状況を作って記憶力を評価する検査です。

リハビリや対策

メモを取る女性-写真

心理的配慮

記憶障害への病識が低い場合には、自分の記憶状態を理解してもらうことが大切です。記憶障害の状態について、本人や家族への十分な説明が必要になります。その際、記憶障害に無理に対峙させて説得するように説明するのではなく、自分の記憶状態について自覚し納得できるように受容的にまた根気よく説明することが求められます。

反復練習

単語や絵カードなどの記憶材料を記銘して、後に想起する記憶課題を反復して練習します。即時想起(記銘直後の想起)と遅延想起(時間経過後に想起)、再生(記銘内容と同一の内容を想起)と再認(記銘内容が以前に経験した内容かを判断)などを適宜使い分けて練習します。

能力補填型介入法

何らかの外的補助手段を利用して、患者と環境間の適切な関係を確保することを目的とします。具体的には、メモ帳、日記、ICレコーダーなどによって出来事を記録します。また、タイマー機能が付いた電子手帳やスマートフォン、腕時計などによって、行動予定の記憶と適切な時間での参照を促します。

また日常的に記憶障害を対策していく以下のような方法もあります。物を覚えなくても行動ができるようにしたり、日々のパターンを決めておいたりしましょう。

  • メモを目立つところに貼っておく
  • 1日の予定はリストを作っておく
  • 部屋や私物にはをつける
  • 外出するときは分かりやすい道順書を準備しておく

周囲の支援

記憶障害になった人は出てくる障害が一人一人異なります。周囲の人たちはまずその特性を理解しましょう。そして障害を抱える人への対応をみんなで揃えたり、できることを認めてあげたりします。小さくてもいいので成功体験を重ねていくことは大切です。

本人は覚えていられないこと、思い出せないことに対して強い不安を抱えています。それを理由に社会との関わりが希薄になってしまわないようにしてあげましょう。

まとめ

記憶障害は「思い出せない」「覚えられない」などの症状が現れるため、日常生活への不安や苦労が大きくなります。まず専門家のサポートを受けながら、障害を持っていることに気づいてもらいましょう。そしてリハビリを根気良く、なおかつ楽しく続けてうまく付き合っていけるよう周囲が理解と支援に努めていきましょう。