暑い夏も、真剣にスポーツに取り組む子供たち。一生懸命に打ち込むことはもちろん良いことですが、暑い環境下のスポーツは熱中症リスクが高く、また普段どおりの力を発揮することが難しい場面もあります。指導者、見守る立場としてはしっかりと対策し、子供たちをサポートしたいものです。

この点、暑さによる健康リスクやパフォーマンス低下には、正しい知識に基づいた適切な対策が必須です。今回は2つの記事にわたり、スポーツ指導者・保護者が知っておきたい、暑熱環境における身体の生理的変化・パフォーマンス、熱中症対策について説明します。

目次

スポーツと熱中症

熱中症とは「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」と定義されます[1]。暑さのため体温が上がり、めまい、頭痛、大量の汗、筋肉痛、吐き気、倦怠感、意識障害などの症状をきたした状態です。

熱中症は毎年6~9月に多く、平成25年の入院患者数は35,571人、死亡者数は550人に上りました。また、総務省消防庁の熱中症情報によれば、平成29年5~9月には52,984 人の方が熱中症により搬送されています。

いずれも高齢者の割合が高い疾患ですが、スポーツ活動中に熱中症を発症することも少なくなく、スポーツ指導者はその病態や対応方法についてよく理解しておく必要があります。特に若い男性は屋外スポーツ中の発症頻度が高く、注意するべきです。

当然ですが、長時間連続したスポーツ活動は熱中症の発症を増やし重症化させますので、スポーツ指導者はよく観察して熱中症を未然に防がなくてはなりません。

熱中症の発症リスク

まずは、熱中症の発症リスクを確認しましょう。

熱中症の発症リスクとなる環境条件として、気温・湿度、風速、放射熱(太陽からの日射、地面での反射、建物からの輻射など)があります。気温が高い、湿度が高い、風が弱い、日射が強いといった条件は熱中症の発症リスクを増加させます[1]

熱中症のリスク指数としては、これらの環境条件を組み合わせた指標として、暑さ指数(WBGT: Wet Bulb Globe Temperatureが推奨されています。

熱中症患者が急増する暑さ指数28℃は気温31度に相当し、激しい運動や持久走は原則避けるべきとされています。さらに暑さ指数31℃以上(気温35℃以上)では運動中止です。熱中症予防のための運動指針[2](図1)では暑さ指数に合わせて運動についての注意点が記載されているので確認してください。

熱中症予防のための運動指針

図1:熱中症予防のための運動指針

熱中症は高齢者や屋外スポーツを行う若い男性に多い病態ですが、学校生活中の子供たちもしばしば熱中症を起こします。毎年のように熱中症の集団発生が報道されますが、熱中症のリスクを把握しておくことによって、少なくとも熱中症の重症化は防げると思います。

子供たちが熱中症を発症するリスク因子としては次のようなものが挙げられます[3]

  • 気温あるいは湿度が高い
  • 暑く湿気の多い環境下で運動するための「熱順化」が不十分
  • 運動の強度・時間に応じた「熱順化」、熱中症を防ぐための衣服などの準備が不十分
  • 運動の強度・時間が過剰
  • 不適切な水分補給
  • 暑い環境で運動を行うための心肺機能が十分でない
  • 睡眠や休憩が不十分
  • 練習や大会が行われる日においてトレーニング間の休憩時間が不十分
  • 肥満
  • 身体の水分量や体温調節に影響を与えるような病気あるいは薬物の存在

熱中症予防において、環境と選手(運動を行うメンバー)たちを定期的にモニタリングすることに加え、各メンバーの体力や基礎疾患の有無について把握しておくことが不可欠です。

運動時の代謝と熱中症との関係

次に、運動時の熱中症発症リスクについて考えます。多くの人は、運動時に熱中症のリスクを感じていると思いますが、からだにはどのような変化が起きているのでしょうか。

暑熱環境というストレス下で運動を行うと、生理的な負荷が高まります。具体的には、深部体温(体内部の温度)、皮膚や脳の温度が高くなり、心血管系に負荷がかかり、炭水化物の代謝によるエネルギーに対する依存度が上がります[4]

運動に必要なエネルギーは炭水化物(ブドウ糖)や脂肪の分解(酸化)によって作り出されます。エネルギー供給のため分解されるものは、運動強度が高くなるにつれて変わります。

  • 低強度(楽な)の運動:炭水化物と脂肪が同じような割合で消費されます。
  • 中強度(ややきつい)の運動:低強度に比べて脂肪の消費がやや減り、炭水化物の消費がやや増え、さらに筋肉中に蓄積された中性脂肪がエネルギー源として多く利用されるようになります。
  • 高強度(激しく、きつい)の運動:脂肪の消費がさらに減り、炭水化物の消費が主となり、筋肉中に蓄えられたエネルギー源=グリコーゲン(糖分)の利用が最大になります[5]

高強度の運動が続くとグリコーゲンの枯渇により筋パフォーマンスが下がります。炭水化物の分解により乳酸(疲労物質)が蓄積します。暑熱環境での運動では、さらに熱ストレスが加わります。

筋肉が収縮することで熱が発生しますが、運動を長時間続けると熱量が安静時の10~15倍まで増え、体温が上昇します。

筋肉のエネルギー効率を考えると運動に伴うエネルギーの約80%が熱に変換されるのです[2]。うまく熱を逃がすことができないと体温が上昇し、生理機能の調節ができず熱中症を発症します。

また、発汗による水分喪失も注意するべき変化です。暑い中、高強度の運動を行うと、若いスポーツ選手の発汗率は1時間当たり1Lを超えます[6]。熱中症対策として水分補給は極めて重要です。

医師が高齢の患者さんに「暑い夏場はこまめに水分を摂りましょう。」と声をかけるように、スポーツ指導者も運動中の子供たちに声をかけてください。

暑熱環境下での運動パフォーマンス

運動自体が体温上昇・水分喪失を促すため、運動時は平常時に比べて熱中症のリスクが高まることがわかりました。では、運動時のからだの生理的変化は、運動パフォーマンスにどんな影響があるのでしょうか。

暑熱環境下ではまず初めに起こるのが皮膚温の上昇です。

皮膚の温度が高くなると皮膚の血流が増え、筋肉や体の中枢(深いところにある組織)から熱を運びます。皮膚で水分を蒸発させ体を冷やす働きですが、これにより体の中枢の血液量が減り、心臓が十分な血液で満たされなくなり、心拍数が増え、心拍出量が減ります。その結果、運動に必要な酸素を必要な組織に運べなくなり、運動パフォーマンスが低下します[7]

また、暑熱環境では最大酸素摂取量(1分間に取り組むことができる酸素の量)が3~27%低下し、運動継続可能な時間(疲労困憊するまでの時間)が最大30%短くなることが報告されています[7]

さらに、暑さによる脱水がパフォーマンス低下に拍車をかけることは言うまでもないでしょう。脱水が体重の2%を超えると運動パフォーマンスも著しく低下します。

また、心血管系への負荷による筋血流量の低下も運動パフォーマンスに影響を与えます。必要な血液(酸素と栄養)を確保するため、運動をすると心拍出量が増え筋肉の血管が拡張しますが、暑熱環境では心血管系に負荷がかかり確保が困難になるためです。

全身の筋肉を使う高強度のランニングやサイクリングでは1分間あたり45~60Lの心拍出量が必要とされますが、超人でもない限り不可能です。さらに、筋肉の温度が上昇するとミトコンドリアの機能障害が生じ、乳酸が蓄積しやすくなり運動パフォーマンスが下がるとも言われています[7,8]

まとめ

暑熱環境下でのからだの変化や、それにともなう熱中症リスクについて確認しました。次の記事では、具体的な熱中症対策について説明したいと思います。