スポーツ指導者向け。暑熱下での身体の生理的変化』の記事では、運動時に起こるからだの生理的変化とともに、運動時の熱中症リスクについてふれました。これに対し本稿では、こうしたからだの変化に対応するための対策をご紹介したいと思います。

これに加え、いわゆる暑さへの馴れである「熱順化」について説明します。

目次

短期的な熱中症対策

練習中あるいは練習前後に行うべき熱中症対策について確認しましょう。

熱中症対策の原則は、冷却と水分・塩分補給です。衣服を緩め、風通しの良い涼しい場所へ移動させる速やかな対応が求められます。熱中症診療ガイドラインでは深部体温が38℃台になるまで積極的に冷やすことを推奨しています[1]。水槽に入れたり大量の水を吹きかけたりすることも場合によっては必要です。

運動中の熱中症予防として、外から(冷やしたタオル、扇風機の使用、冷却ベストなど)、内から(冷たい飲み物、アイススラリー(シャーベット状の飲み物)など)適切に冷やすことが大切です。運動が長時間になる場合は、運動前にクーリングを行っておくこともパフォーマンス向上に有効とされています[9]

水分補給は塩分を適量含んだもので行いましょう。具体的には0.1~0.2%の食塩水で市販の経口補水液が推奨されます[1]

スポーツドリンクは塩分が少なく糖分が多いため注意が必要です。特に、糖尿病患者さんの水分補給の方法としては不適切です。

運動前に体重1kgあたり6mLの水分を2~3時間おきに摂取すると熱中症予防になり、運動後は塩分に加え炭水化物とタンパク質をしっかり摂ることも勧められます。チョコレートミルクなど炭水化物:タンパク質比が4:1になる飲み物が良いようです[9]

喉が渇いたときに水分補給する方法は運動パフォーマンスを向上させないようです[10]。1時間運動を続ける場合、その間に少なくとも1回は水分補給を行うようにしましょう。

長期的な熱中症対策

最後に、もしも熱中症を発症した場合の対応について確認したいと思います。

体を暑さに慣れさせ、運動パフォーマンスを高めることを「熱順化」といいます。熱順化による身体の生理的変化について表1にまとめました。

熱順化による身体の生理的変化

表1:熱順化による身体の生理的変化

暑い夏のトレーニング・競技大会に向けて熱順化の計画を立てましょう。

熱順化のためのトレーニングは1日最低60分間行い、深部体温と皮膚温を上げ、発汗を促すようにしましょう。初めの数日間は運動の負荷を徐々に上げていきます。身体の生理的変化が起こるまで1週間かかるので、できれば2週間の熱順化期間を作りましょう。

熱中症予防と同様に適切な水分・塩分補給を行い、体に疲れがたまらないように運動の強度・頻度・時間をコントロールし、休憩もしっかりとりましょう。

熱中症患者が発生した場合の対応

最後に、もしも熱中症を発症した場合の対応について確認したいと思います。

日本救急医学会では熱中症を3段階の重症度に分類しています[1](図2)。

熱中症の症状&重症度分類

Ⅱ度以上は医療機関での処置が必要になりますが、熱中症を疑う症状が見られたら、まず意識障害の有無を確認し、たとえ意識があっても受け答えが不十分であったり、おかしな言動が見られたりしたら速やかに救急要請しましょう。

重症熱中症では全身に炎症が広がり、DIC(播種性血管内凝固症候群)や多臓器障害をきたすことがあります。

次に行うのは熱中症対策の原則である、冷やすことです。風通しの良い涼しい場所に移動させ、衣服を緩め、冷やしましょう。

さらに水分補給ですが、口で水分を摂れない場合は点滴が必要ですので医療機関に連絡してください。

これらの処置を行った後、軽症であれば症状は改善しますが、なかなか良くならない場合は臓器障害や何らかの合併症を起こしている可能性があります。速やかに医療機関を受診してください。著しい高体温やショック状態が続くと脳に後遺障害を残すことがあります。熱中症は身近な病態ですが命に関わることもあるという認識をもって対応してください。

まとめ

重症化した場合には、死亡や後遺症の恐れもある熱中症。応急処置はもちろんですが、まずは発症させない・重症化させないための予防が第一です。

また、正しい水分補給や運動前のクーリングの習慣、暑い時期に向けてからだを適応させることは、熱中症の予防だけではなく暑い環境でも良いパフォーマンスを維持することに繋がります。

試合の日などに、暑さのせいで「体調が悪かった」「思うように力が発揮できなかった」では、悔しい思いをします。体調の適切な管理もスポーツの一環と捉え、取り組んでいきましょう。