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2017年5月にALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療薬開発と疾患啓発を目的としたチャリティプロジェクト「せりか基金」が立ち上げられ、丸1年が経過しました。プロジェクトは多くの方々の協力を得て、既に集まった寄付金から550万円が研究者2名(300万円と250万円)の元に届けられています。

せりか基金は漫画「宇宙兄弟」にALSが登場したことをきっかけとしていますが、宇宙兄弟やALSの関係者だけでは、集められる寄付金にも限界があります。プロジェクト責任者の黒川久里子さん(株式会社コルク)が「(ALSを治せる病気にするという)気持ちの総量を増やしていくのが大事なんです」と語るように、より多くの寄付金を募るためには、関係者以外にも協力を呼びかけていく必要があります。

そのため、せりか基金は立ち上げ以降、多くの企業や団体などの賛同を得て、活動を共にしてきました。

今回は、せりか基金が活動を広げていくために取り組んでいる、他企業・団体などとのコラボについて取材しました。

情報を届けられなかった層に発信できるメリット

コラボは、プロジェクトのオンラインショップ(せりか基金STORE)で取り扱うチャリティグッズの販売スペースの提供、商品の売上から一部をせりか基金に寄付、イベントでのALSやせりか基金の周知といった形で行われてきました。

相手とコラボする際はどんな企業や団体でも良いわけではなく、応援してくれている方々への責任も踏まえ「自分たちの思いにどれだけ賛同してくれるか」(黒川さん)という点を重視しています。

これまで取り組んできた事例を紹介すると、Jリーグに所属する川崎フロンターレとスタジアムでのチャリティグッズ販売や電光掲示板での啓発、ALSを発症した元アメフト選手を追ったドキュメンタリー映画「ギフト 僕がきみに残せるもの」の前売り券・DVDの売上の一部寄付などがあります。

他の企業や団体とのコラボは、宇宙兄弟を知らなかったり、読まなかったりする、日ごろプロジェクト側からでは情報が届けにくい層に発信できるメリットがあります。また、既にせりか基金を応援してくれている方々にも、映画やお酒を楽しみながら寄付してもらえるという手軽さや楽しさも提供できます。黒川さんは「自分の楽しい時間が、結果的に寄付につながっている点も良いと思います」と話します。

コラボ相手にも伝わる熱い想い

こうしたプロジェクトへの熱い想いは、コラボ相手にも伝わっています。

せりか基金とコラボした企業のうち、「よなよなエール」などを手掛けるクラフトビールメーカー「ヤッホーブルーイング」(長野県軽井沢町)は18年5~6月にかけて、売上の一部を寄付する「父の日ギフト」や、オリジナルのチャリティバンドが付いた特別セットの販売に取り組みました。

同社は17年にアメリカの約50の醸造所で展開するグローバルチャリティ活動「Ales for ALS」(※1)に、日本から唯一参加した実績がありました。ただ、同社によると、この取り組みは限定的なものだったため、多くの方が知っているという状況ではありませんでした。

18年4月、同社の家住泰裕さんは別企業の紹介で黒川さんと会った際、黒川さんがこの活動を知っていたこと、そして店舗に足を運んでいたことを聞いて驚いたと言います。家住さん自身は14年に話題になった「アイス・バケツ・チャレンジ」でALSのことを認知していましたが、せりか基金のレポートなどを読む中でALSのことをさらに学び、また誠心誠意ALSと向き合っていることを感じました。

社会貢献は同社のテーマの一つでもあり、コラボは実現。商品を販売し、SNS上で様々な反響があった中で家住さんは「購入された方が自分の環境と照らし合わせながら、せりか基金に込められた思いに共感しているのを見て、皆さんのコメントの深さが印象に残りました(※2)」と振り返ります。また「会社にもしっかり目を向けてもらえました」と、取り組みが企業にも良い影響を与えたという実感を持ちました。

※1…参加したメーカーは、活動のために特別にブレンドされたホップを使って醸造したビールを提供。1パイント(473ml)ごとに1ドルが、ALSの治療薬開発や認知向上のために寄付される仕組みです。ヤッホーブルーイングでは17年に公式ビアレストラン「YONAYONA BEER WORKS」でこのビールを販売。18年も8月13日(歌舞伎町店のみ12日)から提供中です(数量限定のため、提供を終了している場合もあります)。

※2…Facebookでは「筋萎縮性側索硬化症(ALS)だけが難病で苦しんでいるわけではないのですが、、、それでも、目を向けて下さるだけで素晴らしいことです!その道に居た者より」、Twitterでは「飲んで支援を少しだけお手伝いできるっていいですね!よなよなエールのヤッホーブルーイングさんで知った、せりか基金(読んだ人にしか分からないけど)にわかですが協力させていただきました。」といった声が寄せられました。
コメントはヤッホーブルーイングさんよりご紹介いただいたきました。

活動の広がりとしての役割を期待

黒川さんは「自分たちが(別のコミュニティに)いきなりせりか基金のことを伝えても、よくわからない部分は正直あると思います。そうした中で協力してくださる方々がファンや顧客の方々に思いを込めて紹介してもらうと、伝わり方の“熱”はやはり違います」とコラボの意義を感じています。

チャリティへの取り組みは年数を経るにつれ、どうしても注目度が下がっていくという課題があります。また、難病の治療薬開発はすぐに目に見えた成果が出るものではないため、継続して寄付してもらうハードルが高い面もあります。しかし、ALSは誰でも発症する可能性がある病気です。黒川さんは「治療薬開発のためにみんなが関心を持って動いてほしい」と訴えます。

「治せる病気にするためのムーブメントを大きく後押ししてくれる企業・団体によって、活動が広がっていくのが重要です」(黒川さん)。今後も思いを理解してくれる企業などとのコラボを予定しているといい、活動の広がりに期待を寄せています。

取材後記

宇宙兄弟・シャロン博士

「宇宙兄弟」に登場する天文学者シャロン博士(株式会社コルク提供)

せりか基金はプロジェクト2年目のスローガンとして「個人の願いが集まって…”みんなの夢”って呼べるようになったらそれはきっと叶うわ」(※3)を掲げています。個人の願いを集めるためには、地道な活動はもちろんですが、協力してくれる企業や団体の存在は研究のために安定した寄付金を確保するためには欠かせません。

社会貢献を検討している側にとっても、「治療薬開発」と「疾患啓発」が明確に掲げられた活動は支援しやすい存在と言えます。ただ、紹介したように、「自分たちの思いにどれだけ賛同してくれるか」という譲れない思いがこの活動にはあります。その中でせりか基金、そしてALSを伝える身として、より理解が進むよう、自分もサポートしていければと思います。

※3…「宇宙兄弟」に登場する天文学者シャロン博士の言葉。作中でALSを発症しています。

※肩書・記事内容は2018年8月21日時点の情報です。