強迫性障害とは、ある不快な考えにとらわれて、その不安や恐怖を打ち消すために、同じような行動を何度も繰り返してしまう心の病気です。こうした症状があるにもかかわらず、「自分の性格の問題だから」とあきらめていませんか?強迫性障害は、適切な治療をすれば回復が可能な病気です。ここでは、強迫性障害の診断や治療について説明します。

目次

強迫性障害の診断

強迫性障害では、ある考えが頭から離れず(強迫観念)、その不安や恐怖から逃れるために不合理な行動(強迫行為)を繰り返すという症状がみられます。例えば、トイレに行った後いくら手を洗っても清潔になったと思えず延々と手を洗ってしまう、鍵をかけたか気になって何度も確認する、といった行為がそれにあたります。

ほとんどの場合、病気である本人もその行為が異常であり、不合理だと自覚しています。そのため、症状を隠そうとすることが多く、専門医の受診に至るまでに、長い時間がかかる傾向にあります。

しかし、病気を放っておくと重症化し、日常生活に重大な支障をきたすため、できるだけ早く治療を開始することが大切です。以下の項目に当てはまる場合は、専門医の受診をお勧めします。

□あなたは何度も手洗いや掃除をしますか?

□あなたは何度も確認をしますか?

□追い払いたいのに追い払えなくてあなたを悩ませつづけている考えがありますか?

□毎日の活動をやり終えるのに長い時間がかかりますか?

□順序正しいことや左右対称でとらわれていますか?

(出典:OCD研究会|小さなことが気になるあなたへ|OCDの診断

こうした症状は決して恥ずかしいものではなく、適切な治療によって改善できることを理解しておきましょう。

強迫性障害の治療法

強迫性障害の場合は、精神科や心療内科を受診します。治療法としては、症状や合併している病気にもよりますが、主に薬物療法認知行動療法を組み合わせて行います。

薬物療法

薬物療法では主に、抗うつ薬としても使用されるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を用い、脳の中の神経伝達物質のセロトニンの量を調節します。基本的には、長期間にわたる服薬が必要で、最初は少量から始め、効果を確認しながら薬の量を増やしてくことになります。

SSRIは比較的副作用が軽いとされていますが、一時的に吐き気や不安増強が認められたり、長期服用によって性機能が低下する場合もありますので、その都度、医師の判断を仰ぐことが大切です。

認知行動療法

認知行動療法とは心理学を用いた治療法の総称です。強迫性障害に対しては、「曝露反応妨害法」が行われます。

暴露反応妨害法とは、本人がこれまで恐れていた状況に立ち向かい(暴露)、不安や恐怖を打ち消すために行っていた強迫行為を我慢する(反応妨害)、という行動療法です。例えば、手を洗わずに我慢する、確認したいことがあっても我慢することなどを、継続して行います。最初は強い不安を伴いますが、この療法を続けていくうちに、強迫行為をしなくても不安がなくなることを実感できるようになり、徐々に強迫行為が減ることが期待できます。

暴露反応妨害法は、不安に立ち向かう、という非常に過酷な治療となります。そのため、強迫性障害に詳しい専門家の正しい指導のもとで行われます。

強迫性障害の本人ができること

強迫性障害の本人が心がけることとしては、ストレスをなるべく軽減し、疲れをためないよう適宜休息を取ることが挙げられます。また、強迫観念に襲われたときに、すぐに強迫行為をするのではなく、ひと呼吸おいて立ち止まるよう心がけることも大切です。

そして、治療にあたっては、本人が病気を正しく理解し、医師との信頼関係のもと、あきらめずに治療にのぞむ姿勢が重要になります。具体的には、以下の点に留意します。

  • 強迫性障害は病気であり、自分の性格や弱さのせいではないと理解すること。
  • 病気はよくなることを理解し、自ら「治そう」と決意すること。
  • 医師とよく相談し、納得して治療を継続すること。
  • 就職や復学など、具体的な目標をもって治療に取り組むこと。

認知行動療法で一時的に不安感が強まったり、薬の量の多さに不安を覚えることもあると思います。しかし、自己判断で治療や服薬を中断してしまうと、回復への道が閉ざされてしまいます。心配なときは、納得のいくまで医師と話し合い、どうしてそのような治療が必要なのか、十分に理解することが大切です。

強迫性障害の家族をもつ方へ

強迫性障害_家族の支え

強迫性障害では、本人の強迫観念や強迫行為に、同居する家族が巻き込まれるケースが多く見受けられます。例えば、執拗なまでに掃除や洗濯を強要されたり、何度もものごとを確認させられるなどして、家族も疲労しきっている場合があります。

家族による支えがあれば、治療の効果がさらに高まることが期待できますので、家族の方は、以下の点を心がけるようにしましょう。

  • 病気についての理解を深めること。
  • 可能な限り通院に付き添い、本人との関わりに不安がある場合は主治医に相談すること。
  • 本人が治療を継続できるよう励ましたり、治療しやすい環境を整えること。
  • 治療には長い時間がかかることを理解し、焦らずにゆったりと構えること。

まとめ

強迫性障害では、病気の本人だけではなく家族も苦しい思いをしながら、どうすればいいか分からず対応に苦慮している場合も多いようです。しかし、強迫性障害の症状は、薬物療法や認知行動療法によって、かなり軽減することができます。可能なかぎり家族で協力しながら、「必ず治す」との決意で、あきらめることなく治療に取り組んでいきたいものです。