人工股関節置換術(人工関節を股関節に入れる手術)について患者さんに説明していると、「人工関節は20年で駄目になってしまいますか?」「再手術(再置換術)はすごく大変なのでしょうか?」といった質問をたびたび受けます。最近の人工関節は材質も進歩しており、より長持ちさせるための手術手技も向上しています。ですから、すぐに再置換術が必要になるわけではありません。

しかし、人工関節は一度手術をしたらおしまいではなく、その後自分の股関節として一生使っていくものです。再手術をしないためにも、そしてもし再手術が必要となったときのためにも、正しい知識を持って不安のない生活を送りましょう。また、不具合や痛みを我慢したり、(改善するのを)諦めたりする必要はありません。一般に、再置換術が必要な患者さんが手術を受けないでいると、歩行が困難になったり寝たきりになったりするリスクが高まります。

目次

再置換の原因

人工股関節がもつ期間について、手術後20年で再置換に至らない確率は約95~97%だといわれています。この確率は20年前に使われていたタイプのもので、現在はより改良された人工関節を入れています。そのため、この数字よりもよい成績が期待されています。

繰り返しになりますが、『人工股関節を入れたらいずれ必ず再置換術を行わなくてはならない』というわけではありません。また、再置換が必要な方でも、早期発見、早期治療により、より小さな手術で済ませられるケースもあります。

手術して何年もたった後に人工股関節が再置換となる理由は、様々です。細菌感染や頻回脱臼(繰り返し脱臼すること)のほか、人工股関節が骨とくっついておらずぐらぐらとゆるんでしまうことなどが挙げられます。

細菌感染

肺炎や腎炎などからだの他の部分の感染症や、水虫や虫歯など皮膚の状態のよくない場所から血液中に細菌が入り関節に回ってきてしまうことがあります。このようなことは、手術をしていない関節や脊椎でも時々起こることです。ただ、人工関節が入っていると、ときには治りが悪かったり、人工関節が緩んでしまったりすることがあります。そのようなときには再置換が必要になります。

脱臼

手術してから何年も経過した後、転んでしまって脱臼することもあります。一度脱臼すると、その後繰り返してしまう方もいます。年齢とともに筋力が弱っていたり、骨粗鬆症が進み腰椎圧迫骨折などで背中が丸くなってしまったりしても起こります。常日頃の運動や骨粗鬆症治療が脱臼予防にも重要となってきます。

人工股関節のゆるみ

再置換が必要になる最大の理由は、人工関節の摩耗などにより、人工股関節がゆるむケースです。

人工股関節で軟骨の役割をする高分子ポリエチレンのライナーと、大腿骨頭の代わりのボールは、接触しながら動きます。ポリエチレンは徐々にすり減ることが分かっていて、削りカス(摩耗粉)が発生します。その摩耗粉に免疫系が反応し、周りの骨を溶かしてしまうことがあります(骨溶解)。そうすると、しっかり固定していたはずの人工股関節周辺に隙間ができてしまいます。これが、ゆるみの原因です。

骨を溶かす反応には個人差があり、反応が強い人は人工股関節が少し摩耗しただけで骨溶解が進む場合もありますが、逆にかなり摩耗していても全く反応が現れない人もいます。症状は人それぞれで、一律ではありません。早い段階でゆるみなどの変化に気づいてすぐに対応できれば、ライナーの交換だけで済んだり、骨があまりなくならないうちに手術を再度行ったりすることができます。

気を付けること・必要な事

術後の定期受診

人工股関節置換術後、定期的にチェックしていれば、どんな状態になっているのか早めに分かります。実は痛みや不具合が起こる前から、レントゲンで診てみるとポリエチレンの摩耗や骨溶解、インプラントのずれなどが起こっていることも多くあります。定期的なレントゲン撮影・必要時の血液検査などによるチェックといった、専門家によるフォローが欠かせません。

ただ、患者さんの転居や手術した医師の転籍、病院そのものの移転などによって定期的な受診をしなくなった・できなくなっ方もいます。再置換するタイミングがずれてしまうと、一部だけの交換では済まなかったり、手術の難易度が上がってより大がかりになったりすることもあります。

骨粗鬆症

骨粗鬆症が進行すると、人工股関節に早くからゆるみがでるなどの、様々なトラブルが起きやすくなります。

例えば、転倒した際に人工股関節周囲骨折を引き起こしやすくなります。大腿骨側で起こることが多く、痛みのために立つ・歩くといった動作ができないことが多いです。このような際には、骨同士をつなげる手術や、場合によっては人工股関節を入れ替える手術を行わなくてはいけません。しかし、手術をしても多くの場合では骨折した脚にすぐに体重をかけられるわけではありません。そのため、入院期間が非常に長くなったり、最終的に以前のようには歩けなくなってしまったりします。

また、再置換の原因として紹介した股関節の脱臼とも関係しています。骨粗鬆症の進行に伴って腰椎圧迫骨折などが起こると、背中が丸くなります。そうすると、骨盤が後ろに傾いてしまうため(骨盤後傾)、いままでちょうどいい向きにあったカップが、前に強く向いてしまい、前方に脱臼することがあります。このような場合は、人工股関節を入れなおす必要が出てきます。

骨粗鬆症のある方に再置換をしようとすると、カップやステムを止める骨がもろかったり、なかったりして手術が困難になることも少なくありません。日頃から、骨密度をチェックして、骨粗鬆症になった場合には病院で適切な治療を受けた方が良いです。

 

他にも、リウマチ、糖尿病、喫煙習慣がある人や肥満の人なども、再置換術が必要になる確率が高いことが分かっています。体の健康維持は人工股関節を長持ちさせるためにも重要です。

運動

人工股関節に置き換えることで痛みが楽になり、それまで行えなかった様々な運動ができるようになります。体の健康、そして骨粗鬆症予防のためにも運動は非常に良いことです。ただ、人工股関節を長持ちさせる上で、行ってもよい運動と、適さない運動があります。

ここで、人工股関節置換術を受けた後「行ってもよい」など3つの項目にスポーツの種目を分類した図を下記に示します。

人工股関節とスポーツ

一般的には、水泳やテニス、ゴルフなどは勧められるスポーツと言われています。

人工股関節置換後の運動において、気をつけたい点は摩耗と脱臼の二つです。です。1999年に米国の学会から推奨されるスポーツが報告されましたが、この中身は、摩耗を中心に考えられたものです。摩耗が大きいのは、マラソンやトライアスロンなどの股関節への衝撃が大きいスポーツです。

脱臼は、手術の方法によって許容される動きが大きく変わります。後方アプローチでは、股関節屈曲や内側に捻る動作で脱臼を起こしやすくなります。そのため、スキーのような股関節を深く曲げるスポーツや、ゴルフなどによる捻りでも生じることがあります。前方系のアプローチでは、股関節屈曲ではほとんどなく、むしろ過度に股関節を後ろに伸ばす動作で危険があります。ヨガなどの一部の姿勢で問題になることがあるかもしれません。

また、両者のアプローチで共通しているのは、ラグビーや格闘技など、体を激しくぶつけたり予期しない力が急激にかかったりするようなスポーツは避けたほうがいいでしょう。手術法については「手術法によって術後の生活に違いが。人工股関節の手術を医師が解説」をご覧ください。

最終的には、ご本人の人生観に照らし合わせて主治医とよく相談することが大切です。

最後に

人工股関節を長持ちさせるには、適正体重、筋力維持、骨粗鬆症の予防が重要です。

体重が増えることは、入れた人工股関節にかかる負荷の増大につながります。また、筋力維持や骨粗しょう症予防は転倒などによる人工股関節周囲骨折の予防にも重要です。また、日常生活動作としては、和式よりも洋式の生活が良いとされています。和式の生活は比較的関節の屈曲が強めで、床からの立ち上がりなど股関節への負荷の強い動作が多いためです。

運動はマラソンやジョギングなどのような衝撃負荷を繰り返すものや、サッカーやバスケットやラグビーなどの接触の多いスポーツを避けることが良いとされています

しかし、人工股関節がどれだけ持つのかは、個人差も大きいので大切にすれば必ず長持ちしますというわけではないです。大切なのは、自分の生活スタイルや、人生観に合わせて人生の楽しみを損なうことなく、人工股関節と付き合っていくことが重要です。