特に怪我した記憶がないのに、急に足の付け根が痛くなり、歩くと足を引きずっていることはありませんか?このような症状を招く原因の一つに、大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)という疾患があります。大腿骨頭壊死症はなかなか進行に気づかない疾患で、原因がはっきりせずに発症するケースも多くあります。今回は歩行に影響を与える大腿骨頭壊死症の原因や症状、治療について解説いたします。

目次

大腿骨頭壊死症とは?原因は?

大腿骨頭壊死症とは、大腿骨頭部(太ももの骨の最上部、骨盤に収まっている箇所)に血流障害が起きて血圧が低下し骨が壊死してしまった状態です。

骨も他の細胞と同様に血液循環を必要としますが、他と比べると血流障害を起こしやすい場所です。壊死してさらに病気が進行していくと、壊死した箇所が自分の体重を支えきれずに潰れてしまいます(圧潰、あっかい)

原因は未だはっきりとはしませんが、ステロイドやアルコール多飲が一因と考えられています。ただ、明らかな原因の無いものは多く、それらを特発性大腿骨頭壊死症といい、難病に指定されています。男性では日常的なアルコールの過剰摂取、女性では全身性エリテマトーデス(SLE)の治療などで使われるステロイドの長期服用が関連するものが多いと言われていますが、なぜ大腿骨頭壊死を引き起こすかまでは解明できていません。

この他に大腿骨頭の骨折や股関節の脱臼、減圧症を発症したことがある人、放射線治療の経験がある人も大腿骨頭壊死が起こる可能性があります。

1年間の新規発生数は約2000~3000人です(難病情報センターより)。かかりやすい年齢は30歳~50歳代、ステロイド関連に限ると30歳代です。年代別だと男性は40歳代、女性は30歳代にみられます。

新患における男女比は、全体では1.8:1です。なおステロイド関連のものに限ってみると0.8:1といわれています(難病情報センターより)。男性の方が比較的多い疾患です。

大腿骨頭壊死症の症状は?

急に現れる足の付け根(股関節)の痛みが特徴的です。股関節よりも前にお尻や腰、膝に痛みが出てくる場合もあります。痛みは2~3週間程度で治まることがあります。その後進行していくと股関節の可動域が狭まったり、足を引きずって歩くようになったりします(跛行)。

ただこれらの症状は圧潰が起きてから感じることが多く、骨頭が壊死した段階では自覚症状を感じにくいです。骨頭壊死が起きてから潰れて痛みが出現するまでに、数か月~数年かかるケースも珍しくありません。

大腿骨頭壊死の診断

診断には単純X線や、MRI、骨シンチグラフィー(放射性同位元素を注射して全身骨格を撮影する検査法)が用いられます。

発症後早期では単純X線で変化が見えないため、疑われたらMRIを撮ります。MRIで骨頭に帯状の低信号域などの特徴的な所見があれば、診断が確定します。他の部位に壊死が起きているか同時に診断したい場合には、骨シンチグラフィーが使用されます。

単純X線やMRIでは骨頭壊死の診断だけではなく、進行の程度や壊死の範囲を知れるため、治療方針の参考にします。

大腿骨頭壊死症の治療法とは?

大腿骨頭壊死症の治療には、保存療法と手術の2種類があります。

保存療法

壊死した部位が周囲に広がることはありません。逆に範囲が小さい場合は修復され、時間の経過とともに縮小することがあります。そのため、壊死の状態、もしくは潰れている部分が少ないときに発見できた場合は、杖を使用して大腿骨頭にかかる重さを減らしたり、患部を安静にしたりします

また、医師から生活指導も行われます。具体的には体重維持や長距離歩行の制限、重量物の運搬禁止などです。

疼痛への対処には鎮痛消炎剤が投与されます。また、ビスホスホネートといわれる骨粗鬆症に使われる薬が壊死した部位の圧潰を防ぐ効果があると報告されています。リウマチやSLEなどでステロイドを使用している方でも、ステロイドの継続によって壊死の範囲が大きくなることはないので、必要に応じてステロイドを継続投与することは可能です。

手術療法

進行が予測されたり、潰れている部位が広範囲に及んでいたりする場合には、手術が必要になります。

手術は3種類あり、自分の骨を利用する大腿骨頭回転骨切り術大腿骨内反骨切り術、そして人工の関節に入れ替える人工股関節置換術があります。

骨切り術とは大腿骨頭の根元を切ってずらすことで、体重のかかる部分(荷重部)から壊死部を外す手術です。比較的若年で、壊死範囲の狭い人に行える手術です。

大腿骨頭回転骨切り術

大腿骨頚部(大腿骨頭と大腿骨をつなぐ箇所)で骨を切り、大腿骨頭を前方あるいは後方に回転させます。そうすることで壊死部を荷重部から外し、代わりに健常部(問題のない箇所)を新しい荷重部にする方法です。

この時に寛骨臼(骨盤側の窪み、臼蓋)荷重部に対する健常部の占める割合をさらに増やすため、大腿骨頭を内側に傾ける(内反させる)こともあります。

大腿骨内反骨切り術

内反骨切り術は大腿骨の転子間部(大腿骨と大腿骨頚部をつなぐ箇所)で大腿骨頭及び頸部を内反させ、壊死部が内側へ移動し荷重部からはずれさせます。

自分の骨を利用する場合、壊死や圧潰の範囲、年齢の他、健常に残っている場所を考慮して選びます。

人工股関節置換術

人工股関節置換術は壊死の範囲が非常に広い場合や骨頭の圧潰が進んでしまった場合に選択されます。また骨切り術に比較して術後の痛みが少なく回復が早いため高齢の方にもよく用いられる手術です。

人工股関節置換術については「手術法によって術後の生活に違いが。人工股関節の手術を医師が解説」をご覧ください。

まとめ

大腿骨頭壊死症は壊死した段階では痛みなどが現れにくく、発見するまでに時間がかかる場合があります。発見が遅くなって骨頭が広範囲で潰れていたりすると、手術しなければならないかもしれません。疾患の治療でステロイドを服用している人、また日頃から飲酒する機会が非常に多い人は大腿骨頭壊死症を発症するリスクがあることを意識しておくと良いかもしれません。