口から物を食べることができなくなった方に、胃へ直接栄養を入れる経路として作られることがある「胃ろう」。様々なメディアで、胃ろうという言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。「いたずらに延命するだけなのではないか」など、否定的な意見を持つ方もいると思います。

本記事では、中立的な立場から胃ろうの特徴や性質を解説します。考えを深める一助にしていただければと思います。

目次

胃ろうは、お腹に作る「口」のようなもの

漢字では、胃ろうは「胃瘻」と書きます。

脳や神経などの病気では、口から飲み込む力(嚥下機能)が弱くなったり誤嚥(食べ物が気管に入ること)による肺炎を起こしやすくなったりすることがあります。こうした患者さんの胃に直接栄養を入れるための経路として作られるのが胃ろうです。

また、がんなどで胃と腸の流れが悪くなったとき、胃ろうから胃の中のものを体外に排出することもあります(胃内減圧)。

多くの場合、胃ろうは内視鏡による手術で作成されます。手術時間は医療機関や患者さんの状況によっても差がありますが、20分前後で終わることが多いようです。

「口から食べられない」とき、胃ろう以外の選択肢は?

口から十分な栄養をとれなくなったとき、人工的に栄養を補給する方法の選択肢は胃ろうだけではありません。

胃ろうを含め、どの方法にも一長一短があります。患者さんの状態によっては適用できない方法もありますが、簡単に紹介します。

経管栄養(経腸栄養)

チューブやカテーテルなどを用い、消化管に直接栄養を送り込む方法です。腸を動かすため、消化吸収・免疫といった機能を保つことができます。

胃ろうのほか、下記のような方法があります。

腸ろう

腸に穴を開けて栄養補給する方法です。手術を必要とします。

経鼻経管栄養

鼻から細いチューブを通し、胃へ栄養を起こる方法です。手術の必要はないものの、鼻やのどに違和感を与えることが多く、一時的に用いられることが多いです。

自分で簡単に抜去できてしまうため、意思疎通が困難な場合には、抜かないように手の抑制を行う必要があります。

さらに、チューブを挿入する際に気管へ挿入してしまうリスクが毎回生じます。気管に入ってしまっているのに栄養を注入してしまうと、肺炎を起こしたり死亡したりするリスクがあります。気管に入ったら苦しくて気付くだろうと思うかもしれませんが、意思疎通ができない場合や意識がない場合にはそういう事態も容易に引き起こすのです。

経静脈栄養

消化管自体に異常をきたしている場合、静脈に直接栄養を送る方法がとられます。感染症を起こしやすいなどの欠点があります。また、静脈からの投与が難しい薬剤もあります。

末梢点滴

手足の末梢静脈に針を入れ、栄養補給を行う方法です。

栄養投与に時間がかかります。また末梢の血管はもろいため、高栄養の点滴ができず、必要なカロリーを十分に入れることができません。さらに、定期的に針を刺し直す必要性があります。

他の方法と比べ、点滴の方が医療費は著しく高くなります。

中心静脈栄養

末梢静脈よりも心臓に近い、太い血管にチューブを留置する方法です。胃ろうに比べ、投与に時間がかかります。

感染症などの管理がより難しく、入浴などが非常に困難になります。

感染症のリスクを低減するためにポートを挿入する方法もあります。感染症のリスクは軽減されますが、その他のメリット・デメリットは同様です。

中心静脈栄養やポート挿入については感染症のほか、出血・死亡などの合併症があります。

胃ろうを作るメリット・デメリット

では、胃ろうのメリットとデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。それぞれ解説していきます。

メリット

  • 安定した水分と栄養の補給が可能となります。
  • 誤嚥のリスクを減らすことができます(唾液や鼻汁の誤嚥が起こりうるため、完全に防止できるわけではありません)。
  • (経鼻経管栄養と比べると)鼻やのどの不快感を軽減できます。
  • 食事介助にかかる時間を短縮することができます。

デメリット

  • 増設に際して手術を行うため、感染、出血、死亡などの合併症が起こる可能性があります。
  • 胃ろう周辺の皮膚のただれをはじめ、使用中にトラブルが生じることがあります。

なお、施設に入所する際には、胃ろうのケアに対応してもらえる施設を選ぶ必要があります。胃ろうの受け入れを行っていない施設もありますが、反対に「(経静脈栄養ではなく)胃ろうでないと入所できない」という施設も多いので、事前に調べておきましょう。

「胃ろうを作る」=「二度と口から食べることはできない」ではない

お茶を飲む高齢者

胃ろうに抵抗感を持つ方の中には、「胃ろうを作ったら、口からの食事は諦めることになるのではないか」という懸念があるかもしれません。

しかし、胃ろうを造っても、病状次第で口からものを食べることは可能です。胃ろうを設置した状態で少しずつ嚥下訓練(口から飲み込む練習)を行い、嚥下機能が回復すれば胃ろうを外すことができる患者さんもいます。また、固形物は口から食べ、誤嚥のリスクが高い水分のみ胃ろうで摂取するという方もいます。

繰り返しになりますが、「胃ろう」=「二度と口から食べられない」ではありません。安全な範囲で口からの食事を楽しむことができる場合も多いので、担当の医師とよく相談してください。

さいごに

胃ろうが担う役割は、延命ではありません。持続可能かつ簡易な方法で栄養状態を改善させるために行います。ただし、設置や管理に際するデメリットがあることも事実です。

栄養状態を改善させることにより、全身状態の改善、QOL(Quality Of Life=生活の質)の改善や嚥下機能の回復を図るのです。

胃ろうをつけるか否かの判断は、患者さん自身ではなく、周囲のご家族に委ねられることが多いです。明確な正解のある問いではなく、それぞれの生き方により異なるものです。ご自身や大切な人がそうした状況に置かれたときにどうするか、ぜひじっくりと話し合ってみてください。