音や声が聞こえにくくなる難聴。自動車の接近に気付かなかったり、会話が成り立たずに孤立したりと、日常生活に支障が出て困っている方も多いと思います。でも、老化だからとあきらめたり、いずれ良くなると思って放っておいたりすると、重症化するケースもあり早めの対応が必要です。ここでは難聴の治療について、原因となる病気別にまとめました。どのような病気が原因となるかについては、「耳が聞こえづらい…?!考えられる原因と病気は何?」の記事をご覧ください。

目次

難聴の原因によって治療の効果は様々

耳の構造-図解
私たちが「聞こえる」と感じるまでには、いくつかのプロセスがあります。まず、外耳から入った音が中耳を通って内耳へと伝えられ、そこで電気的信号に変えられ、神経を介して脳に伝わることで、やっと「聞こえる」と感じられるのです。この過程のどこかに障害があると難聴となるため、その原因となる病気は実に様々です。

難聴治療の効果については、外耳や中耳の病気であれば、適切な治療によって改善されるのが普通です。しかし、なかには治療しても難聴が改善されない場合もあり、その際は補聴器などを使用することになります。

難聴の原因となる病気別の治療法

ヘッドフォンをつけた男性-写真

耳管狭窄症の治療

鼻と中耳を繋ぐ耳管の機能が低下する耳管狭窄症では、原因となる疾患(喉や鼻の炎症など)を治療することが第一です。耳管狭窄症自体の直接的な治療法としては、鼻から耳管にカテーテルを入れて、中耳に向かって空気を入れる耳管通気療法を行うことがあります。 加えて、耳管の粘膜に炎症がある場合には、炎症を軽減する薬を処方します。中耳や耳管に鼻水のような粘液が溜まっているときは、粘液を取り除く効果のある薬が用いられます。

中耳に液が溜まると「滲出性中耳炎」という病名になります(後述)。

急性中耳炎の治療

細菌などに感染して中耳に炎症が起きる急性中耳炎では、病気の原因となっている菌に効果のある抗菌薬が投与されます。痛みが激しく、中耳に液体が溜まって鼓膜を圧迫している場合は鼓膜切開により中耳の液体を外に排出する治療を行うこともあります。

滲出性中耳炎の治療

中耳に溜まった液体によって炎症が起こる滲出性中耳炎では、原因となっている疾患を治療します。具体的には、アレルギー性鼻炎急性鼻炎副鼻腔炎、などを治療することで、滲出性中耳炎も改善していきます。成人では上咽頭の腫瘍が原因となることがあり、注意が必要です。

鼻腔粘膜と耳管粘膜は繋がっています。そのため、これらの粘膜が腫れている場合は、粘膜の腫れが耳管の通りを悪くしているので、粘膜の腫れを鎮めるために抗炎症薬抗ヒスタミン薬などを投与します。耳と鼻を繋ぐ耳管の開口部が塞がっている場合は、原因となるアデノイドや上咽頭腫瘍を除去するような治療が行われます。

慢性中耳炎の治療

鼓膜に穴が開いたままの状態で細菌感染を繰り返す慢性中耳炎の場合は、抗菌薬によって細菌の除去し、炎症を抑える治療が行われます。音を伝える耳の骨(耳小骨)に障害がある場合は、同時に耳小骨を形成する手術を行います。

真珠腫性中耳炎の治療

鼓膜の一部に真珠のような塊が形成される真珠腫性中耳炎の治療では、基本的には真珠腫を摘出する手術が行われます。放置すると、重度の難聴や顔面神経麻痺、めまいなど神経障害を起こし、真珠腫を取り除いても改善しないことがあるので、早めの処置が必要です。

耳硬化症の治療

耳硬化症は、中耳や内耳の骨(主にアブミ骨)に異常が生じ、音の振動が内耳に伝わらなくなる疾患です。治療としては、主に固まったアブミ骨を摘出し、人工のアブミ骨と取り替える手術を行います。補聴器の効果も大きく、状況に応じて手術か補聴器を選択します。

メニエール病の治療

内耳のリンパ液の異常によって起こるメニエール病の場合、吐き気が強く服薬が難しいときは、安静にしてめまい止めの点滴を行います。内服が可能であれば、めまい止めや利尿剤を中心に、抗不安薬や循環改善薬、ビタミン剤などを組み合わせて処方します。

発作の初期にめまい止めや抗不安薬などを用いると、症状が軽くなり、大きな発作を予防することができます。日常生活においては、過労やストレスを避け、適度な運動をすることなどが症状の改善に効果的です。

突発性難聴の治療

突然、片方の耳に激しい耳鳴りと難聴が起こる突発性難聴は、発症の原因としてストレスや疲労が関わっているとされ、安静が最も重要になります。安静にしていて自然によくなる場合もありますが、症状が重い場合は入院治療が必要になります。主な投薬としては、循環改善薬、血管拡張薬、ビタミンB12製剤、副腎皮質ステロイドなどが用いられます。早期に治療を開始するほど聴力が改善しやすいため、遅くても発症から2週間以内に治療を開始することが望ましいとされています。

騒音性難聴老人性難聴の治療

長年騒音の中にいるために起こる騒音性難聴や、内耳や神経の老化によって起こる老人性難聴に対しては、補聴器人工内耳などで弱くなった聴力を補う方法が一般的です。最近は、あらゆるタイプの難聴に対応できるデジタル型補聴器が開発され、雑音をおさえて言葉だけを聞き取りやすくするなどの工夫がされています。全く耳が聞こえない重度の難聴に対しては補聴器は効果がありませんが、人工内耳を埋め込むことで聞こえるようになる可能性があります。

聴神経腫瘍の治療

脳と耳を繋ぐ聴神経に腫瘍ができる聴神経腫瘍の場合は、腫瘍を摘出する手術と放射線治療の2つの治療法があります。聴神経腫瘍は放射線治療の効果が高く、少ない放射線でも大きくなることを防ぐことが可能です。ただし、聴神経腫瘍のほとんどが良性であり、大きくなる速度もゆっくりであることから、腫瘍が小さい場合はしばらく経過を見ることもあります。

耳鼻咽喉科を受診する際のポイント

難聴の場合は、早めに耳鼻咽喉科などを受診して治療を開始することが大切です。耳鼻咽喉科では問診や聴力検査など、様々な検査が行われますが、無理をして聞こえるふりをしたりすると、正確な診断が得られないので、ありのまま検査にのぞむよう心がけましょう。

また、補聴器については、自分に適したもの選ぶのは大変に難しいので、補聴器取扱店に直接行くのではなく、最初に耳鼻咽喉科や補聴器外来のある病院に行くようにします。そこで十分に検査をし、信頼できる補聴器取扱店を紹介してもらうようにします。日本耳鼻科学会で「補聴器相談医」を認定していますので、病院を選ぶ際の参考にしてください。

まとめ

難聴は原因となっている病気が多様なため、しっかりと原因を特定し、適切な治療を受けることが重要です。治療法も、服薬のみで治るものから、入院や手術が必要なものまでさまざま。「難聴かな?」と思ったら自己判断で放置せず、きちんと医師の診断を仰ぎ、治療に取り組むようにしましょう。