今、薬局や薬店、そしてインターネットで手軽に手に入る「頭痛薬」。頭痛持ちの人にとっては、欠かせない存在になっているのではないでしょうか?
しかし、頭痛薬の服用の頻度が多すぎると、逆に頭痛の頻度が増えてしまうことがあります。このように、頭痛薬の使用過多に伴う頭痛は「薬物乱用頭痛」とよばれています。
今回は、そんな「薬物乱用頭痛」について紹介し、頭痛薬を飲み過ぎることによるリスクについて考えたいと思います。
薬物乱用頭痛ってなに?
薬物乱用頭痛とは、頭痛薬を頻繁に使用しすぎることで生じる頭痛です。
典型的には片頭痛や緊張型頭痛で慢性的に頭痛薬を使用している方に起こりやすく、特に中年女性に生じやすい傾向にあります。頭痛を訴えて神経内科の外来を受診する5-10%が薬物乱用頭痛だという報告もあります(エーザイより)。
こんな症状に覚えはありませんか?
次のような症状が当てはまる人は、薬物乱用頭痛の可能性があります。
- 月に15日以上頭痛がある
- 以前より頭痛の頻度が増えている
- 頭痛薬を月に10日以上内服する状態が数ヶ月以上続いている
- 朝起きたときから頭痛がする
- 以前はよく効いていた頭痛薬が効かなくなっている
- 片頭痛と診断されたことがある
このような症状がある場合、薬物乱用頭痛の可能性があるので、病院で相談してみるとよいでしょう。
飲み過ぎると効かなくなるって本当?
薬物乱用頭痛のメカニズムは複雑ですが、脳が痛みに敏感になるためと考えられています。
頭痛薬の服用量が増えると、脳の過敏性が上昇し、今まで痛みとして感じなかった感覚も痛み(頭痛)として感じるようになってしまいます。すると、さらに頭痛薬を服用する回数が増える→脳の過敏性がさらに上昇する→頭痛薬の服用回数がさらに増える…という悪循環に陥ってしまいます。
そのような過程を経て起こる頭痛には頭痛薬の効果もありません。むしろ頭痛薬の内服を続けることでさらに頭痛が悪化してしまいます。
注意が必要な頭痛薬は?

市販されている鎮痛薬の飲み過ぎによることが多いですが、病院で処方された薬でも限度を超えて内服しすぎれば薬物乱用頭痛が起こる可能性はあります。
市販で購入できる頭痛薬は非ステロイド性抗炎症薬のみですが、他に医療現場で使用されている頭痛薬を含めると、次の3種類が薬物乱用頭痛を起こしやすいと考えられています。
- 非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)
- エルゴタミン製剤
- トリプタン製剤
このうち、非ステロイド性抗炎症剤は、市販でも数多くの種類があり、風邪薬にも含まれています。市販薬には、ロキソニン、バファリン、イブ、ノーシンなどがあります。
エルゴタミン製剤とトリプタン製剤は、病院での処方が必要な片頭痛の治療薬です。
どのくらいの量を使用したら薬物乱用頭痛になるの?
日本頭痛学会『国際頭痛分類第3版β版』では、薬物乱用頭痛の診断基準として、薬物の摂取頻度の目安を下記のように記載しています。
- エルゴタミン:3ヶ月を超えて、1ヶ月に10日以上
- トリプタン:3ヶ月を超えて、1ヶ月に10日以上
- アセトアミノフェン:3ヶ月を超えて、1ヶ月に15日以上
- アセチルサリチル酸(アスピリン):3ヶ月を超えて、1ヶ月に15日以上
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):3ヶ月を超えて、1ヶ月に15日以上
- オピオイド:3ヶ月を超えて、1ヶ月に15日以上
- 複合鎮痛薬(鎮痛作用をもつ薬剤を2つ以上含む薬):3ヶ月を超えて、1ヶ月に10日以上
薬物乱用頭痛の発症に至るまでの使用量・期間については、国内で行われた研究に基づく報告はありません。しかし、上記の診断基準に当てはまるほど頻繁に頭痛薬を使用している場合には、薬物乱用頭痛を発症する恐れがあると考えてもよいかもしれません。
どう治療するの?
薬物乱用頭痛の治療の原則は主に次の3点です。
- 原因薬物の中止
- 薬物中止後に起こる頭痛への対応
- 頭痛の頻度を減らすための予防薬の投与
まずは原因となっている薬を中止します。
最初の1~2週間は辛いですが、毎日のように起こっていた頭痛が減り、徐々に脳の過敏性がとれ、純粋な片頭痛や緊張型頭痛の状態に戻ります。その状態から、元来の頭痛に対して適切な薬剤での治療を行います。また、例えば片頭痛の頻度が多くトリプタン製剤の使用が多くなってしまう場合は、片頭痛の回数を減らすための予防薬を使用して、頭痛薬の使用回数を減らします。
治療は医師の指示のもとに行うのが大原則です。
まとめ
薬物乱用頭痛では、頭痛薬を使用し過ぎないことが大切です。市販薬に頼り過ぎるのではなく、専門外来を尋ねましょう。頭痛外来や神経内科の外来では、服薬の指導や頭痛に対する正しい治療を受けることができます。