2015年10月、声優の松来未祐さんが亡くなりました。「ふたりはプリキュア Splash☆Star」のチョッピをはじめ、多くの作品で様々なキャラクターを演じた松来さんは、体調不良により検査を繰り返していたといいます。ご冥福をお祈りいたします。

松来さんのブログで、「慢性活動性EBウイルス感染症」という病名が明かされました。12月15日に更新されたブログ記事には、「同じ病気の一人でも多くの人が、早期発見により助かって欲しい」という遺族の意向が記されていました。ここでは、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV:Chronic Active EB Virus Infectionとはどのような病気なのか、またどのような初期症状がみられるのかをまとめます。

目次

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)とは

CAEBVは、年間におよそ100人が発症すると考えられています(厚生労働科学研究 難治性疾政策研究事業より)。この病名はあまり一般的に知られてはいないものの、誰しも発症する可能性のある病気です。原因となるEBウイルスや、CAEBVの起こるメカニズムを解説します。

EBウイルスとは

EBウイルス(Epstein-Barr virus)は、ヘルペスウイルスの一種です。聞き慣れない名前ですが決して珍しいウイルスではなく、日本では5歳までに半数の人が、成人では9割以上が感染しています全国骨髄バンク推進連絡協議会)。日本では大多数が子供のうちに感染しますが、大人では異性間の交流などによって唾液を介してBリンパ球(※1)に感染します。基本的には何の病気も引き起こしませんが、時折「伝染性単核症」(※2)という病気を起こすことがあります。

一度Bリンパ球に感染したEBウイルスは、一生の間Bリンパ球に潜伏しつづけます。ただし人間の免疫力が働くため、基本的には再び病気を引き起こすわけではありません。ただし、Bリンパ球以外に感染した場合にCAEBVを起こすことがあります。

1:Bリンパ球とは

リンパ球とは白血球の一種で、体内に入ってきた異物に対して攻撃を行なう働きがあります。リンパ球にはBリンパ球Tリンパ球NK細胞の3種類があります。

2:伝染性単核症とは

EBウイルスがBリンパ球に感染すると、伝染性単核症という病気が起こることがあります。

主な症状としては発熱(38度以上)・首のリンパ節の腫れ・のどの痛みの3つです。

伝染性単核症になると、まずは頭痛・熱っぽさ・寒気・倦怠感といった症状が数日間続きます。その後、38度を超える高熱が1~2週間にわたって続きます。白血球(特にリンパ球)が増加するのも特徴的ですが、安静にして対症療法を行なうことで1~3ヶ月で治癒します。

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)とは

EBウイルスはほとんどの場合、Bリンパ球に感染します。しかし、稀にTリンパ球やNK細胞に感染することもあり、これがCAEBVの原因となります。

EBウイルスに感染したTリンパ球やNK細胞は増殖し、さまざまな臓器に少しずつ広がっていきます。以下のような症状が長期間にわたってみられたり、繰り返し起こったりします。

  • 発熱
  • 倦怠感
  • リンパ節の腫れ
  • 肝脾腫(肝臓や秘蔵が大きくなる)
  • 発疹
  • 口腔内アフタ
  • 貧血・血小板の減少
  • 下痢
  • 下血
  • ぶどう膜炎(目の中に起こる炎症)
  • 冠動脈瘤(血液を直接心臓に送り込む動脈にこぶができる)

また、患者さんのうちの3割が蚊刺過敏症(蚊アレルギー)を併発します。この場合、蚊に刺された箇所に水疱ができたり、壊死・潰瘍を引き起こしたり、蚊に刺された後に発熱・リンパ節絵の腫れといった症状がみられます。

症状がみられない場合や、対症療法によって改善される場合もありますが、根本的な治療を行わなければ何度も症状が現れます。結果として、心不全や腎不全などの多臓器不全を起こしたり、悪性リンパ腫白血病に至ったりすることで亡くなる方が多いです。

CAEBVかもしれないと思ったら

頭をおさえる女性

以下のうち、一つでもあてはまる場合はCAEBVの可能性がありますので医師に相談してみてください。

  • 原因不明の発熱(37.5度以上)が、3か月以上続く、もしくは繰り返す
  • 首のリンパ節がずっと腫れている
  • 蚊や虫に刺された後が水膨れになり、全身の発熱(37.5℃以上)を伴う
  • 顔や手足の日光が当たる部位に、繰り返し水膨れができる

厚生労働省 難治性疾患等克服研究事業 EBウイルス関連T/NKリンパ増殖性疾患診断チェックシートより

CAEBVの疑いがある場合、まずは抗EBウイルス抗体や、血中のEBウイルス量を調べます。この結果が異常に高かった場合、さらにTリンパ球かNK細胞にEBウイルスが感染しているかどうかを調べ、CAEBVかどうかを診断します。

CAEBVの治療法

手術

CAEBVでは、EBウイルスに感染した細胞は、腫瘍の性質を持ってしまいます。そのため、CAEBVを完治させるためには、感染した細胞を根絶やしにしなればいけません。そのために従来は抗がん剤による治療が行われてきましたが、CAEBVでは抗がん剤が効きづらいことが分かってきました。

現在、CAEBVを完治させる可能性があると考えられているのが造血幹細胞移植です。造血幹細胞とは血液の成分(赤血球・白血球・血小板)のもとになる細胞で、これを移植するのが造血幹細胞移植です。もともとはリスクの高い治療法だったものの、医療や薬剤の進歩とともに、現在では徐々に成功率の高い治療法となってきました。特に大阪府立母子保健総合医療センターの報告では、新しい移植法では最終的に95%の人が元気になっているといいます。

最後に

CAEBVは聞き慣れない病名だとは思いますが、EBウイルスにはほとんどの人が感染しています。つまり、CAEBVは誰もが発病する可能性があるのです。

上記で解説したような症状に心当たりがあれば、CAEBVにかかっているかもしれません。一度、かかりつけ医に相談をしてみてください。

松来未祐さんのご冥福を重ねてお祈りするとともに、同じ病気の方が早期発見によって1人でも多く快方に向かうことを願います。