眠っている間にコンタクトレンズを装着するだけで、朝起きたときの視力を矯正するオルソケラトロジーという治療法があります。「眼鏡やコンタクトレンズなしの生活が叶うのならぜひとも受けたい」と思う方もいるでしょう。ただ、誰でも受けられる治療ではありません。メリットとデメリットもあります。今回はオルソケラトロジーについて詳しくみていきましょう。
オルソケラトロジーとは
近視や乱視がある場合、眼鏡やコンタクトレンズで視力の矯正を行うのが一般的です。当たり前ですが、これらの方法は装着している間だけ矯正します。一方でオルソケラトロジーは、オルソケラトロジーレンズを寝ているときにつけて裸眼の視力矯正を図り、朝起きてから外します。そうして裸眼の状態で日中の視力改善を促すものです。
オルソケラトロジーは健康保険適用外です。また、レンズのみの販売は認められておらず、あくまで治療の一環として医師から処方されます。処方する医師は日本眼科学会の眼科専門医かつ、オルソケラトロジー講習会に出席して受講証を取得した人に限られています。
オルソケラトロジーレンズの仕組み
物からの光を網膜の一点にぴったり焦点を合わせることによって物をみることができます。近視では遠くから来た光が網膜よりも手前に焦点が結ばれてしまい、像がぼけて見えます。
オルソケラトロジーレンズはハードコンタクトレンズですが、通常のタイプよりも大きく、特殊なカーブをしています。レンズを着けて角膜前面の中央をやや平坦に矯正して、遠くからの光の焦点を網膜に合わせます。
朝起きてからレンズを外した後も、しばらくは矯正された角膜の形状が一定期間維持されます。そのため日中の裸眼視力が改善します。手術によって角膜を削って、角膜の形状を変えるレーシックと同じ原理です。
レンズを外して視力の矯正が持続する時間は、一般的に一日ないし二日程度といわれていますが、個人差があります。数日間レンズの装用を中止すれば、視力は元に戻ります。
近視・近視性乱視の誰でも治療を受けられるわけではありません。軽度から中等度の近視(-4D程度まで)の方は適応ですが、平坦させた角膜の形状を維持するにも限界があり、近視が強い方や乱視の強い方は十分に矯正することができません。
オルソケラトロジーのメリット・デメリット
メリット
裸眼で過ごすことができる
水泳などスポーツやお仕事でコンタクトレンズ装用が難しい方は裸眼で過ごすことができます。
また、車の運転免許をお持ちの方で免許証に「眼鏡等」の条件が付されている方は、オルソケラトロジー治療中に裸眼で車を運転することがありますが、警察官に申し出て、基準以上の視力があることが確認できれば、免許の条件違反にはなりません。
手術ではないこと
原理はレーシックと同じですが、オルソケラトロジーは手術ではないため、手術による合併症はありません。
いずれも裸眼で遠くが見えるようになりますが、加齢により、老眼が出現すると近くが見えにくく感じることがあります。レーシックではこれが原因で訴訟が起こりましたが、オルソケラトロジーではレンズを中止すれば元の近視に戻すことができます。また、経過により、近視度数が変わることがありますが、オルソケラトロジーではレンズ度数を変更することが可能です。
近視の進行抑制
近視の進行抑制があります。オルソケラトロジーを行っている日本の眼科専門医の多くは近視抑制を考え、小中学生に処方しています。アメリカや中国などの海外でも成人も子供も適応であり、多くは子供が装用しています。
しかし、日本ではオルソケラトロジー治療法に否定的な眼科専門医もおり、以前の日本眼科学会のガイドラインでは装着できる年齢は20歳以上となっていました。実際に処方されている状況を考慮し、2017年に改訂されたガイドライン(第2版)では「原則20歳以上、未成年は慎重処方」となっています。
子供の近視の進行抑制については、「子供の近視は回復できるの?近視を予防したり遅らせたりする方法は?」をご覧ください。
デメリット
コンタクトレンズ装用による合併症
睡眠中は眼を閉じているため、昼間に装用する場合に比べると、角膜への負担は軽度だとされていますが、通常のコンタクト装用者で起こりうる合併症である、角膜上皮障害、角膜感染症、アレルギー性結膜炎、角膜浮腫、角膜血管新生、角膜内皮障害などが起こることがあります。
この起こりうる合併症が、装用できる年齢は「原則20歳以上、未成年は慎重処方」とされる根拠です。
定期検査が必要
通常のコンタクトレンズ装用者と同様に定期検査が必要です。オルソケラトロジーは健康保険外であるため、費用がかかります。
まとめ
オルソケラトロジーは、日中裸眼で過ごしたい人にとっては夢のような治療法かもしれません。また、近視進行抑制を目的に、小中学生が使用しています。しかし、就寝時だけとはいえ眼にコンタクトを入れていることに変わりなく、また高額な治療費、治療中に合併症を発症するリスクなどデメリットを考慮する必要もあります。
ただ、開始した後でも元の角膜の状態に戻すことができるため、取り入れやすい近視矯正方法だともいえます。もし治療に取り組む場合は、信頼のおける眼科医の指示に従って、正しい使用方法を守って臨みましょう。