高校理科から考える!~からだの調節機能と甲状腺機能低下症~」では、甲状腺による体内環境の調整のしくみから、甲状腺機能低下症を考えました。本稿では、甲状腺機能の低下が体に与える影響を、「代謝」という点から考えます。

目次

体が生きるための仕組み「代謝」

私たちの体は、生命活動をするためのエネルギーが必要です。

エネルギーのもとは、体の外から主に食べ物として取り入れられ、体の中で分解されて簡単な物質(※)である「体物質」に作りかえられていきます。この作用を異化といいます。たとえば、炭水化物はグルコースに、脂質はグリセリンと脂肪酸に、たんぱく質はアミノ酸に変化します。そして最終的に、細胞の「呼吸」により二酸化炭素、そしてエネルギーになります。

また、「体物質」が余ると、もう一度体の中で複雑な物質(※)に合成され、体内に蓄えられます。この作用を同化といい、たとえば骨や筋肉はこの同化作用により作られています。こうした、体内で行われる物質を作りかえる働きを代謝といいます。生命活動のためのエネルギーは代謝により作られているのです。

「簡単な物質」「複雑な物質」ってなに…?

理科の授業で、世の中の物質をどんどん細かく分割していくと、分子や原子といった小さい単位に分解できることを学んだと思います。例外もありますが、原子が複数組み合わさって分子を構成し、さらに分子が組み合わさって化合物を作ります。そして、組み合わせの内容や数によって、様々な化合物が作られます。

体内で行われる異化は、食べ物という化合物を小さい単位である分子、つまり構造が簡単な物質に作りかえていく作用です。同化はその逆で、簡単な物質を組み合わせて構造が複雑な物質に作りかえます。そして、こうした物質の作りかえは全て化学反応です。

エネルギーを生む!呼吸という化学反応

先に述べたように、体の外から取り入れられた物質は、最終的に呼吸によって二酸化炭素と水に分解され、このとき熱エネルギーが発生します。そしてこの熱エネルギーで、ATPと呼ばれる高いエネルギーを蓄えた物質が作られます。

ATPは、いくつかの物質が結合された物質です。具体的には、塩基アデニンと糖リボースとが結合したアデノシンに、リン酸3分子が結合しています。イメージとしては、こんな状態です。

塩基アデニン+糖リボース+リン酸+リン酸+リン酸(=ATP)

このうち、2つめと3つめのリン酸結との結合が切れると、ATPはリン酸とADPという物質に分解します。この分解のときに沢山のエネルギーが放出され、このエネルギーが生命活動に利用されます。

このように、体内では絶えず化学反応が起きています。少し難しい物質名が出てきたので、ここでは物質は化学反応により結びつくときにエネルギーを蓄え、分解するときにエネルギーを放出するということだけとめておいていただければと思います。

ホルモンは、体内で行われる作用を応援しています!

藤の花-写真
では、とりあえず化学反応に必要な物質を隣どうしに置いておけば、勝手に化学反応が起こるのでしょうか。10円玉が錆びるように緩やかな化学反応が起こることを考えれば、勝手に化学反応は起きるでしょう。しかし、私たちの体は生命活動をするためには、そんな悠長なことは言っていられません。そこで登場するのがホルモンです。

ホルモンの役割は、体で行われる化学反応などの作用を応援することです。体はホルモンの応援により、「もっとはやく!もっと沢山作用させよう!」と頑張ります。そして、甲状腺ホルモンの応援の相手が「代謝」なのです。

甲状腺の機能低下に伴う症状

甲状腺ホルモンが代謝に働きかけることで、体内のエネルギー生成が促され生成されたエネルギーは体内のさまざまな場所で使われます。そのため、甲状腺機能が低下すると、体内でエネルギー不足が起こります。エネルギー不足は、疲労感・倦怠感・無気力を起こします。また、代謝の際にはエネルギーと一緒にに水が排出されますが、代謝が落ちると水がうまく排出されずむくみの原因になります。

これらの症状は、認知症うつと誤診されることもあるため、注意が必要です。

甲状腺機能低下症による症状

  • むくみ、発汗減少、便秘
  • 髪が抜ける
  • 肌が乾燥する
  • 倦怠感、疲労感
  • 体重増加
  • 低体温、寒さに弱くなる
  • 無気力、記憶力低下、動作が緩慢になる
  • 食欲低下
  • 生理が不規則になる、不妊・流産しやすい

治療法は、「助っ人を呼ぶ」こと!

観覧車と空-写真
甲状腺機能低下症の治療は、症状が起きている原因によって異なります。

原発性甲状腺機能低下症

合成甲状腺ホルモン剤というホルモン剤を投与します。投与する際には、副作用を避けるため少量から投与を始めていき、徐々に維持量まで増加させます。

中枢性甲状腺機能低下症

甲状腺だけではなく他の内分泌腺にも影響が出ていることが通常です。特に、甲状腺機能低下症と同時に副腎皮質ホルモン低下症を発症している場合には、先に甲状腺ホルモンを投与すると副腎不全を誘発することがあるため、先に副腎機能低下症の治療を行います。

甲状腺ホルモン不応症

甲状腺ホルモン不応症では、体がホルモンの量が足りていないものと勘違いするため、甲状腺ホルモンがたくさん分泌され、甲状腺ホルモンが不足することによる症状は出ません。しかし、血中には沢山の甲状腺ホルモンが分泌されるので、ホルモンに対する感受性が比較的高い心臓に影響が出ます。増えすぎた甲状腺ホルモンのせいで脈拍数が増えることがあるので、これを抑える薬を飲むようにします。

まとめ

このように、甲状腺は私たちが元気に過ごすために必要なエネルギーと深い関わりがあります。だるさや無気力を訴えて病院を受診した場合、他の内臓などの疾患と間違えやすい病気でもあるようなので、「こんな病気もあるんだな」ということを覚えておいていただければ幸いです。