人間ドックなどで検査ができる「甲状腺機能」では、どんなことが分かるのでしょうか。
また、甲状腺機能の検査値に異常があった場合、どういう病気の可能性があるのでしょうか。
そもそも、甲状腺というと、耳にすることはあっても「どういう役割を果たしているかよく分からない」という方も多いと思います。

甲状腺の機能について確認したうえで、甲状腺機能の検査値異常の場合に考えられる原因などについて解説します。

目次

どんな検査で甲状腺機能をチェックする?

甲状腺の位置-図解

甲状腺は、首の前側、喉仏の下にある小さな臓器で、わかめや海藻類などに含まれるヨウ素を材料にして甲状腺ホルモンを作り、血液中に分泌しています。
甲状腺ホルモンには、主に次の4つの役割があります。

  • 基礎代謝の促進
  • 体温の調節
  • 心臓や胃腸の活性化
  • 脳の活性化

そして、甲状腺機能をチェックできる検査項目には下記のようなものがあります。
このほか担当の医師にもよりますが、触診で喉が腫れていないかなどを確認することもあります。

血液検査

1.甲状腺ホルモン

甲状腺ホルモンにはトリヨードサイロニン(T3サイロキシン(T4があり、T3とT4とも甲状腺で作られていますが、血液中ではT4の方が多く、主に肝臓でT4からT3に作り変えられます。

T3はT4の4倍の働きがあります。T3とT4がうまくバランスをとり、働きを調整しています。

血液中ではT3、T4のほとんどがたんぱく質と結合していますが、組織に作用するのはごく一部のたんぱく質と結合していない遊離型(FT3、FT4)です。甲状腺ホルモンの分泌が過剰な場合には数値は上がり、不足している場合には下がります。

2.甲状腺刺激ホルモン(TSH)

脳にある下垂体という臓器から分泌されるホルモンで、甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンの合成や分泌を促進しています。
甲状腺ホルモンが不足だとTSHが増加して甲状腺を刺激し、逆に甲状腺ホルモンが何らかの理由で増えすぎるとTSHの分泌は抑えられます。

T3・T4だけでなくTSHも測定することで、甲状腺そのものによる病気か、それとも下垂体に異常があるのかを診断することに役立ちます。

エコー検査

首の辺りをエコー検査で調べ、甲状腺の腫れの程度、しこりや腫瘍(しゅよう)がないかを確認します。

検査値の異常、どんな病気が疑われる?

人間ドックで甲状腺機能検査の異常を指摘された場合、どのような病気の疑いがあるのでしょうか?

下記の表に、基準値と基準値をはずれた場合に疑われる病気についてまとめました。
なお、基準値は検査を行う組合・団体・病院によって異なる場合があります。

検査項目 基準値 基準値から外れた場合
疑われる病気
FT3 2.10~
3.80pg/ml
【TSH低値、FT3・FT4高値】

甲状腺機能亢進症
バセドウ病
無痛性甲状腺炎、
亜急性甲状腺炎、
甲状腺機能結節など)

【TSH高値、FT3・FT4低値】

甲状腺機能低下症

橋本病など)

FT4 0.82~
1.63ng/dl
TSH 0.38~
4.31μU/ml

出典:東京大学医学部附属病院 検査部(PDF)を参考にいしゃまち編集部作成

甲状腺機能検査値の異常があっても、すぐにその病気だということではありません。
しかし、そのまま放置しておくと、実は甲状腺に病気が隠れていて、急な体調の悪化をきたすケースもあります。

人間ドックで「要精密検査」と指摘された場合、なるべく早めに内科もしくは内分泌内科を受診することが大切です。

病気が疑われるとき、他にどんな検査が必要?

人間ドックで甲状腺機能の異常を指摘された場合、医療機関ではまず問診を行います。

妊娠出産で一時的に甲状腺機能が低下することがあり、そういった背景がないか、家族に甲状腺の病気の人がいないか確認します。

甲状腺の病気では、自分の甲状腺を刺激もしくは攻撃する抗体が産生されている場合があり、そのような抗体の有無を確認する血液検査を行います。
腫れやしこりを精密に検査するには、超音波エコー検査CT検査MRI検査などが行われます。

さらに、アイソトープ(放射線ヨウ素)検査を行うケースもあります。
これは、ヨウ素が甲状腺に集まりやすい性質を利用したもので、アイソトープを服用して甲状腺の画像を撮影し、ヨウ素の集まり具合から異常の有無を確認することができます。

人間ドックで発見されることのある甲状腺の病気には下記のようなものがあります。

1.バセドウ病

甲状腺ホルモンの分泌が過剰になっている甲状腺機能亢進症のなかで代表的な病気がバセドウ病です。
甲状腺ホルモンの産生を刺激する自己抗体が認められ、これが病気の原因と考えられています。

2030歳代の若い女性に多くみられます。

食べているのに体重が減る汗をかきやすい微熱動悸指先の震えイライラする落ち着かない足に力が入らない便がゆるくなる、眼球が出るなどの症状が出現します。

甲状腺機能の亢進が長期間続くと、生理が停止して不妊の原因となるほか、流産早産の原因となるケースもあります。

治療は、甲状腺ホルモンの産生を抑える薬の服用アイソトープ(放射線ヨウ素)の服用手術、のいずれかを病気の状況によって選択します。

2.橋本病

甲状腺ホルモンの分泌が不足している甲状腺機能低下症のなかで代表的な病気が橋本病です。
自己免疫の異常によってリンパ球が甲状腺組織を攻撃し、甲状腺に炎症が起きる病気です。

20歳代以降の女性に多くみられます。

顔などのむくみ寒がりになる便秘がひどくなる肌の乾燥手のひらが黄色い甲状腺が腫れる、などの症状が現れます。

自分では症状に気付かないことが多く、甲状腺のはれを人間ドックなどで偶然に指摘されて見つかるケースもあります。
甲状腺ホルモンの不足が長期間続くと、動脈硬化が進行して狭心症心筋梗塞を起こしやすくなるため、症状がないからと放置しておくと危険です。

また、橋本病も不妊流産の原因となります。

治療は甲状腺ホルモンを服用して不足分を補います。

治療するほどではないと言われたけれど…日常生活での注意点

海藻-写真
精密検査の結果、治療の必要はなくても、今後も引き続き経過観察が必要なケースがあります。

人間ドック受検者の4.7に甲状腺ホルモンの分泌は正常だが、TSHが高値である「潜在(せんざい)性甲状腺機能低下症」の人がおり(同友会グループより)、甲状腺機能低下症の前段階であるといわれています。

甲状腺からの危険信号を人間ドックで早めにキャッチできた、と前向きに考えることも大切です。

できるだけ甲状腺に負担をかけず、病気を早期発見するには、

  • ヨードを含む食品(海藻、ヨード卵など)をとり過ぎない、ヨードを含むうがい剤、造影剤の使用にも注意する
  • 食品添加物などの化学物質を避け、アルコールやカフェインを控える
  • バランスのよい規則的な食生活を心がける
  • 甲状腺の腫れが気になる、長引く体調の変化がある、など気がかりな症状があれば医療機関を受診する
  • 定期的な経過観察を勧められている場合、妊娠を希望している女性では、医師の指示に従い定期受診を続ける

まとめ

甲状腺は体の機能を調節するために不可欠な臓器です。
甲状腺の病気は女性に多く、妊娠への影響もあるため、関心の高い方もいるのではないでしょうか?気になる方は人間ドックを活用してチェックしてみると良いですね。

甲状腺機能の項目はオプションとなっている場合も多いので、確認してみてください。
人間ドックに興味がある方は、こちらのリンクから予約することも可能です(人間ドックのここカラダのページが開きます)。

また、甲状腺は専門のクリニックや病院があります。
異常を指摘された時には、できるだけ専門の医療機関で診てもらうと良いでしょう。