甲状腺機能低下症は、体内で甲状腺ホルモン作用が必要よりも低下した状態のことです。
しかし、「甲状腺」という器官はイメージしづらいのではないでしょうか。
そこで本稿では、甲状腺の機能について高校・生物の授業を振り返りながら、甲状腺機能低下症について考えていきます。
ぜひ、お持ちの方は高校・生物の教科書を眺めながら、あるいは高校生のご家族と一緒にご覧ください。
体は変化が嫌い!恒常性と調節機能
私たちの体は、恒常性(ホメオスタシス)といって、体内・体外の変化に応じて、内部環境を生存に適した一定の状態に保とうとする機能があります。
この機能は、意識的にも無意識的にも行われます。
例えば暑さを感じたときには、意識的には手で仰いだり体を冷やしたりし、無意識的には汗をかきます。
こうした調節機能のうち無意識的に行われるものは、自律神経系(自律神経による調節)と内分泌系(ホルモンによる調節)の2種類があります。
いずれも、体の司令塔である脳のなかの間脳という部分に命令を受けるという点で共通しています。
甲状腺は、2つの無意識的な調節機能のうちホルモンによる調節機能を担う器官です。
調整機能の2本柱!自律神経系と内分泌系
自律神経系と内分泌系の大きな違いは、間脳から出た命令が実行されるまでの速さです。
自律神経系では、間脳の視床下部からの命令が直接自律神経に伝えられ、その先にある器官に届きます。
そのため、命令から反応までの時間がはやく、その効果が続く時間が短いという特徴があります。
- 間脳が自律神経に命令を送る
- 自律神経から器官へ命令が届けられ、命令を受けた器官が作用する
他方、内分泌系は、命令から反応までの時間が遅く、効果が長く続きます。
内分泌系による調節では、まず視床下部から分泌された視床下部ホルモンが下垂体に働きかけ、さらに下垂体から下垂体ホルモンが分泌地され内分泌腺(ホルモンを分泌する器官)に働き、内分泌腺から血液へホルモンが分泌されます。
視床下部・下垂体からは、働きかける内分泌腺により異なる種類のホルモンが分泌されます。
ホルモンは、それぞれ特定の器官や細胞(標的器官・標的細胞)に作用する特性を持っています。
これは、標的器官・標的細胞には、特定のホルモンとだけ結合する受容体(レセプター)が存在するためです。
最終的に、血液と一緒に流れてきたホルモンが標的器官・標的細胞に到達して初めて、間脳から命令が器官に届き反応します。
- 間脳の視床下部から視床下部ホルモンが分泌される
- 視床下部ホルモンが下垂体に働きかける
- 下垂体から下垂体ホルモンが分泌される
- 下垂体ホルモンが特定の内分泌腺に働きかける
- 内分泌腺が標的器官・標的細胞に働きかけるホルモンを血液中へ分泌する
- ホルモンが血液の流れにのって標的器官・標的細胞に運ばれる
- ホルモンが標的器官・標的細胞をもつ器官に作用する
それぞれの調整の仕組みの違いが、はっきりと分かりましたね。
長い道のり…甲状腺が調節機能を果たすまで
では、甲状腺はどのような働きをしているのでしょうか。
甲状腺から分泌されるホルモンは、全身の細胞の代謝促進に作用します。先に見たホルモンによる調節の仕組みに当てはめて考えてみましょう。
- 視床下部から甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(視床下部ホルモン)が分泌される
- 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンが下垂体に働きかける
- 下垂体から甲状腺刺激ホルモン(下垂体ホルモン)が分泌される
- 甲状腺刺激ホルモンが甲状腺に働きかける
- 甲状腺が甲状腺ホルモンを血液中へ分泌する
- 甲状腺ホルモンが血液の流れにのって全身の細胞に運ばれる
- 甲状腺ホルモンが全身の細胞で代謝促進に作用する
ここまでの内容は、高校・生物の授業でも学べる内容です。
仕組みから見る!甲状腺機能低下症の原因疾患
甲状腺機能低下症とはすなわち、上で見た過程のどこかが欠けることで、代謝促進に影響が出てくる症状と言い換えることができます。そして、どの過程に欠陥が生じているかによって原因となる疾患が異なります。
欠陥がある箇所 | 病名 |
視床下部・下垂体
(中枢性 |
Sheehan症候群
下垂体腺腫 TSH単独欠損症 胚芽腫 頭蓋咽頭腫 |
甲状腺
(原発性 |
橋本病
先天性甲状腺ホルモン合成障害 地方性甲状腺腫(ヨード欠乏地域) 突発性粘液水腫 先天性甲状腺無形成 異所性甲状腺腫 |
受容体(標的細胞) | 甲状腺ホルモン不応症
(Refetoff症候群) |
まとめ
病気になったとき、疑わしい症状があるとき、自分の体のことを知ることは大事なことです。
生物の授業で習った内容は、私たちにとって身近な現象や仕組みを取り扱っています。
今回の記事で見てきたように、病気や自分の体の症状に対する理解を助けてくれる場合もあります。