慢性疲労症候群とは、あらゆるストレスをきっかけに、強い疲労感微熱頭痛脱力感思考力の障害抑うつなどの症状が長期に続き、健康的な社会生活が送れなくなる病気です。現在、病気のメカニズムが少しずつ解明されていますが、いまだに充分な認知のない病気です。

単なる疲労と誤解されたり、うつ病などと誤診されたりすることで、症状が改善せず苦労している人もいます。一方で、慢性疲労症候群と診断され、治療を受けることで症状が改善しているケースもあります。

この記事では、解明されつつある慢性疲労症候群の治療予防について解説します。

目次

メカニズムが解明されつつある慢性疲労症候群とは?

慢性疲労症候群は、いくつかの原因や引き起こされる異常が複雑に重なり合って関連していることが明らかになっています。

精神的なストレスだけでなく、過労やハードな運動などによる身体的なストレス、紫外線(物理的ストレス)や化学物質(化学的ストレス)、ウイルスや細菌などの感染(生物学的ストレス)などがあります。これらのストレスが原因となって、人間の免疫力や代謝を調節する内分泌機能、神経伝達を行う脳神経機能に障害を及ぼすという考えが有力になってきました。

なお、原因や症状についての詳細は「原因不明の疲れ・疲労感、慢性疲労症候群とは…?」をご参照ください。

なかなか良くならない疲れ、慢性疲労症候群かも?

疲労感は風邪などのよく見られる病気のほか、多くの病気の症状としてもあらわれます。まずは疲労感の原因となる病気がないかを検査し、病気があればその治療をすることが原則です。

疲労感を引き起こすおもな病気(慢性疲労症候群との鑑別が必要な病気)

その他の鑑別が必要な病気

  • 線維筋痛症(原因不明の痛みやこわばりを主症状とする神経伝達の異常)
  • うつ病
  • その他の精神疾患

明らかな病気がない場合は、慢性疲労症候群が疑われます。また、線維筋痛症やうつ病などの精神疾患との誤診が多い一方、これらを合併しているケースもあり診断は容易ではありません。

最近では慢性疲労外来を開設している医療機関も増えており、心療内科で慢性疲労症候群を診療している専門医もいます。長期にわたって症状が続いており、病気の診断がつかない場合は、こうした専門機関を受診してみましょう。

また受診の際には、いつ頃からどのような症状があるのかを詳しく医師に伝え、すでに受けた検査や異常がないと言われた病気などもきちんと伝えておきましょう。

慢性疲労症候群の治療

原因の解明されていない病気であるため、確立された治療法はない状態です。医師の指導の下、適度な有酸素運動の継続や、行動療法・心理療法などが有効とされています。

ある研究では、症状の特徴によってグループ化し、そのグループごとに異なる治療を行うことが重要であると指摘しています。次の分類では、身体的症状と精神的症状のそれぞれの強さによって分類し、その特徴に応じて内科的な治療と精神科的な治療を組み合わせて治療を行っています。

  1. 発症から現在(治療開始時点)まで、疲労や痛みが中心で、抑うつや不安などの精神科的症状が全くない人
  2. 発症時は精神科的症状は見られなかったが、次第に不安、抑うつ症状が出てきた人
  3. 発症時からうつ病や不安障害などの精神疾患の診断基準も満たし、なおかつ慢性疲労症候群の診断基準も満たしている人

内科的治療、精神科的治療でそれぞれ行われている治療を紹介します。

内科的治療

内科的治療では、疲労の回復や体力をつけるため、漢方薬やビタミン剤を投与します。

  • 漢方薬・補中益気湯(ほちゅうえっきとう):虚弱体質、疲労倦怠、食欲不振の改善
  • ビタミンB12:睡眠障害の改善、脱力感、疲労感、思考力の回復
  • ビタミンC:活性酸素を抑え疲労感や微熱を改善
  • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬):全身倦怠感、筋肉痛、関節痛、脱力感を改善

※SSRIは抗うつ薬ですが、慢性疲労症候群ではセロトニン(精神の安定をもたらす働きを持つ神経伝達物質)神経系の異常を伴っていることが明らかになっており、抑うつ症状の有無に関係なく効果があると考えられています。

精神科的治療

精神的症状が強い場合には、薬物投与やカウンセリングといった精神科的治療を行います。

  • 薬物療法(抗うつ薬、抗不安薬の服用)
  • 精神療法(心理療法・カウンセリング)

慢性疲労症候群のセルフケアと予防

口を開けた犬-写真

慢性疲労症候群の予防には、疲労が重度化しないようにストレスとうまく付き合っていくことが必要です。

頑張りすぎに注意

慢性疲労症候群になりやすい人の特徴には、物事への固着性(こだわり)が非常に強く、完璧主義の傾向が強いことが上げられています。

いつも全てのことを自分でやり遂げなければ気が済まず、現代社会の中では非常にストレスを感じやすいタイプです。上手に気分転換を図るストレス対処法を身につけ、頑張りすぎないようにしましょう。

また、慢性疲労症候群の人に対する「頑張れ」は禁句です。慢性疲労症候群はもともと頑張りすぎる人が限界を超えてしまった状態です。辛い気持ちを理解し、暖かく見守りましょう。

疲労をこじらせない

疲労が重度化しないように栄養休息を適切にとることが必要です。

疲労回復などに効果のあるビタミンB群ビタミンCを効果的にとるためには、麺類などの単品の食事ではなく、副菜を多く摂る米食を中心とした食事を心がけましょう。不足になりがちな人はサプリメントを有効活用しましょう。

慢性的な睡眠時間の不足就寝や起床時間が一定しない生活は睡眠の質を低下させ、体力が低下する原因の一つです。寝室の温度や湿度、明るさなどにも注意し、ゆっくり質の良い睡眠がとれるよう工夫してみましょう。

まとめ

慢性疲労症候群はいまだ一般的には充分に認知されておらず、診断にも時間を要する病気であり、診断や治療に至っていないケースもあると思われます。

原因不明の疲労が「慢性疲労症候群」であることがわかるだけで、気持が落ち着き、治療のスタートラインに立つこともできます。まずは専門医療機関に相談してみましょう。

また、ストレスが多く疲労が溜まりつつある人は、疲れが重度化する前にしっかりと心身を労わるようにしましょう。