頭痛、ふらつき、倦怠感、胸痛、悪心などの症状で医療機関にかかったものの、明らかな病気の診断をされない「不定愁訴」で悩む方は多くいます。20代、30代の女性6,355名に対し、不定愁訴の実態調査を行った民間企業の調査結果によると、PMS(月経前症候群)以外で不定愁訴に悩まされる人が5割いましたQLifeより)。ここでは、不定愁訴の意味から、症状、診断その他に関する情報を解説します。

目次

不定愁訴の意味とは

「不定愁訴(Medically Unexplained Symptoms)」という言葉は、幅広く使われています。
医学的に説明ができず、原因が特定できないけれども、漠然と何らかの症状で悩んでいる方々の状態を表します。

医療機関で適切な検査を行っていても、疾患が見いだせない場合が少なくありません。こうした背景から、不定愁訴という概念が生まれました。

不定愁訴の症状

不定愁訴の症状は、非常に多岐にわたります。よく聞かれる症状としては、以下のようなものがみられます。

これらの症状はそれぞれ、何らかの病気が原因となっている場合もあります。何らかの症状を訴えて受診した場合、医師はまず、原因となる病気の有無をしっかりと確認します。その上で異常が見つからなかったときに「不定愁訴」となるのです。

不定愁訴の診断軸

カルテ
海外の専門家達は、患者が受け入れられるような概念を作ろうとしています。複合性身体症状障害(CSSD: complex somatic symptom disorder)と身体的苦悩症候群(BDS: bodily distress syndrome)という新たな診断軸が提案されています。
以下、「不定愁訴の診断と治療」に沿って、これらの病気の診断基準をご紹介します。

複合性身体症状障害(CSSD: Complex Somatic Symptom Disorder)

以下の1~3を満たした場合、CSSDと診断されます。

1.身体症状

日常生活を阻害するような苦痛を伴う身体症状が、1つ以上存在する。

2.これらの症状健康についての過度の考え、感覚、行動

以下のうち、少なくとも2つを満たすことが必要です。

  • 健康への強い不安
  • その症状が重大な病気によるものではないか、という不適切な関心
  • これらの症状や健康状態に費やされる、過剰な時間とエネルギー

3.慢性化

どの症状も継続的に生じているわけではないのにも関わらず、症状を呈している状態が慢性化(少なくとも6ヶ月間)している。

身体的苦悩症候群(BDS: Bodily Distress Syndrome)

1.心肺症状または自律神経亢進による症状が3つ以上みられる

  • 動悸/心悸亢進
  • 全胸部不快感
  • 運動時以外の息切れ
  • 発汗や冷や汗
  • 震え
  • 口の中の乾燥
  • 胃のむかつき
  • バタフライ様発赤

2.胃腸の亢進症状が3つ以上みられる

3.筋骨格系の緊張症状が3つ以上みられる

  • 腕や下肢の痛み
  • 筋肉痛
  • 関節痛
  • 麻痺感覚や一部の筋力低下
  • 背中の痛み
  • 移動する痛み
  • 不快なしびれや刺すような痛み

4.全身の症状が3つ以上みられる

  • 集中力が落ちる
  • 記憶力が落ちる
  • 強い疲労を感じる
  • 頭痛
  • めまい

5.上記の各群の症状が4つ以上みられる

 

以上の1~5のうち、当てはまるものがいくつあるかで診断します。

  • 1~3個あてはまる場合:軽症あるいは単一臓器の身体苦悩症候群
  • 4~5個あてはまる場合:重症あるいは多臓器にわたる身体苦悩症候群

ただし国内では、不定愁訴を定義づけようという試みは学術的にはほとんどなされていません。

不定愁訴の治療法

本来、不定愁訴という症状も病名もありません。患者さんが「不定愁訴です」と訴えることはないですし、また訴えたとしてもそれだけで治療方針を立てようがありません。
不定愁訴の治療の第一歩は、医師が患者の症状を受容し経過を整頓することです。

そして次のステップは、確かに症状があるということを認めるという作業です。

医師は「医学的に説明できない」と分かると、本当は症状がないのではないか、大げさに言っているのではないか、と思ってしまうことがあります。
なので、確かに症状があると認めることが治療の前提として大切になります。

その上で不定愁訴に対する理解がある医師が責任をもって、診断や治療計画について、明確で希望のあるメッセージを伝えることが有効です。

不定愁訴は身体疾患がないことを前提にはしていますが、身体疾患に併存する形をとる場合があります。その際は、身体疾患の治療も同時にしていくことも大切です。

不定愁訴の治療は個別性が強く、一概には言えないのですが、「自己を見つめる」ということが基本です。どんな症状が、どれくらい辛いか、どんなことをすると楽になって・どんなことをすると悪化するのか、を医師だけでなく患者さん本人も確認していくことが重要です。
「症状に振り回されている」という状態から、徐々に「自分で症状をある程度コントロールする」という状態に変えていくことが治療の基本になります。

その補助として、薬物療法があります。個別に症状を聞きとり、安全なお薬で対症療法(症状を軽減するための治療)を行います。

さらに、より集中度の高い精神療法として、専門家による認知的・対人療法的技法が広まることが期待されます。

まとめ

米国においては、医学的説明の難しい「不定愁訴」の患者が医療機関を受診する理由の第5位を占めています。
患者側から言われる全ての症状をすぐに解決しようとすると、医師側の負担になってしまいます。

一度ではすぐに解決することはできないけれども、患者さんと医師の双方が歩み寄って、解決する方向で継続して関わっていくことが何より重要です。
原因不明の症状に悩まされている方は、まずはかかりつけ医に相談してみると良いでしょう。