「口が渇く」「水を飲み過ぎる」「トイレの回数が多い」などの症状は、病気のサインとしてあらわれることがあります。「夏で暑いから」「年のせい」などで片付けて放置をしていたら、病気の発見を見逃すことがあります。
この記事では「口渇(口が乾く)」「多飲(水を飲み過ぎる)」「多尿(尿の量が多い)」の3つの症状がみられる病気を2つ紹介しています。尿崩症と心因性多飲症という病気です。あまり聞き慣れない病気かもしれませんが、どちらも放置しておくと死の危険もある病気です。
病気の基礎知識、メカニズムについてまとめています。
尿崩症とは?
尿崩症とは、極度の多尿と喉の渇きによる多飲を引き起こす病気です。原因によって、中枢性尿崩症と腎性尿崩症に分かれます。どちらも、国の難病(難治性疾患)に指定されている病気です。
中枢性尿崩症
中枢性尿崩症は、脳の下垂体のはたらきが低下することで発症します。下垂体性ADH分泌異常症ともよばれています。
脳の下垂体では、抗利尿ホルモンとよばれる、体内の水分量を調節するホルモンを分泌しています。抗利尿ホルモンは、腎臓で水を体内に再吸収するはたらきをしています。この「抗利尿ホルモン」が不足することで、体内の水分が再吸収できなくなり、過剰に尿になって排出されます。
日本国内の患者さんは、5,000~10,000人程度と考えられています(難病情報センターより)。下垂体の機能低下は、脳腫瘍などで脳の視床下部や下垂体に障害が発生することが原因となります。
腎性尿崩症
腎性尿崩症は、抗利尿ホルモンは正常に分泌されているものの、抗利尿ホルモンを受け取る腎臓が原因となって発症します。正常な腎臓では、抗利尿ホルモンを受け取ることで水分を体内に再吸収し、体内の水分量をコントロールしています。しかし、腎性尿崩症では、腎尿細管細胞が抗利尿ホルモンを感知できなくなります。その結果、腎臓で水分が再吸収できなくなり、水分が尿として過剰に排泄されます。
遺伝性の疾患で、腎性尿崩症の明確な患者数は不明ですが、日本国内に約400人いると考えられています(難病情報センターより)。
尿崩症の症状は?
尿崩症では、多尿(尿量が多くなる)、口渇感(喉の渇き)、多飲(水分を過剰に飲む)が主な症状です。
正常な尿の量は、1日あたり1.5Lですが、尿崩症では1日で3L以上の尿を排泄します。そのほか、以下のような症状がみられます。
- 冷水をほしがる
- 脱水により、汗の量が少なくなる
- 尿の回数が多くなる
- 夜間に何度も尿意で目が覚める
- 尿の色が薄くなる(透明~薄い黄色)
- 脱水によって、高熱やけいれんを引き起こすことがある
- 食欲が低下する
腎性尿崩症では、乳児期のけいれんや原因不明の高熱によって発見されることも多くあります。
心因性多飲症って?
尿崩症と同様に、多飲・口渇・多尿がみられる病気が、心因性多飲症です。不安やストレスによって、脳の口渇中枢が刺激され口渇感を感じることで、水を大量に摂取にします。また、ストレスが原因で砂糖を大量に含んだ炭酸飲料や、カフェイン飲料に依存することもあります。
尿崩症との症状の違いは?
尿崩症は「尿量が増えるため、水分を摂らずにはいられない」のに対して、心因性多飲症は「たくさん飲んでしまうので、尿量が増えてしまう」のが特徴です。
多飲症によって引き起こされる水中毒とは?
多飲症が悪化すると、水中毒とよばれる症状が引き起こされることがあります。水中毒では、体内に多量の水分が溜まることで、体内のナトリウム濃度が低下し、低ナトリウム血症という状態を引き起こします。低ナトリウム血症は、悪化すると意識障害やけいれんなどの症状を引き起こし、最悪の場合死に至ることもあります。
まとめ
このように、尿崩症と心因性多飲症は症状がよく似ているものの、まったく違ったメカニズムを持つ病気であることがわかりました。実際の診断では見分けずらさが大変な問題となるため、なるべく症状が出るまでの過程を詳しく医師に伝えるようにしましょう。