腎臓は、血液をろ過して血中の老廃物や余分な水分などを尿として排出するはたらきがあります。腎臓機能が低下して末期腎不全の状態になると、ろ過機能がはたらかなくなり、老廃物が蓄積して尿毒症高カリウム血症心不全などを呈するようになります。末期腎不全に至った場合、腎機能の回復は見込めず、透析治療腎臓移植により腎機能を補う必要があります。

この記事では、透析治療のなかでも「長時間透析」という選択肢についてご紹介します。

目次

長時間透析とは?

透析治療は、ダイアライザーという装置に血液を循環させることで、尿毒素やカリウムリン、不揮発性の酸といった血液中の老廃物や余分な水分を取り除く治療です。透析治療では、週12時間程度(1回4時間程度×週3日)の透析を行うことが一般的ですが、長時間透析では週18時間以上の透析治療を行います。

透析治療により補える腎機能は、健常者の腎臓のはたらきに比べるとほんの一部です。患者さんにより体格やからだの状態、社会環境などが様々なので、透析を行うのに適した時間は患者さん毎に異なりますが、一般的には透析時間を長くした方が腎臓の機能をより多く補うことができます。また、透析治療は腎不全の患者さんにとっては生きるために必要な治療ですが、一般的な4時間透析では、十分に尿毒素を取り切れないばかりか、急激な体液量の変化で少なからずからだに負担がかかります。

時間をかけて十分に透析を行う長時間透析は、無理なく水分や尿毒素を除去することができて、透析患者さんのQOL(生活の質)を高めてくれる可能性を示してくれています。

細胞内の尿毒素も体外へ排出する

透析治療-透析時間と物質の除去量-図解
腎不全で体内に尿毒素が蓄積すると尿毒症を引き起こします。尿毒症では、著しい高血圧吐き気・嘔吐、疲れやすさ、食欲低下倦怠感むくみ貧血など、全身にあらゆる症状が出ます。

1回の透析治療での尿毒素の除去量は図のように変化します。尿素などの小分子尿毒素は透析開始後4時間くらいまで急激に低下し、その後はほぼ一定の濃度で推移します。一方、β2MGなどの中分子尿毒素は最初の2時間程度は比較的多く除去されるものの、その後はほぼ一定濃度で推移します。したがって、透析により除去できる尿毒素の量は時間に依存します。

標準的な4時間の透析では、小分子尿毒素は比較的多く除去できるものの、中分子尿毒素は少ししか除去できません。この中分子尿毒素こそが、様々な合併症を引き起こす原因であるといわれています。しかし、透析治療を長時間行えば行うほど小分子尿毒はもちろんのこと、中分子尿毒素もより多く除去できることがグラフからわかります。

透析が始まると、初めは血管内にある尿毒素から体外へ除去されていきます。次に細胞間質(細胞と細胞の間を満たす組織)や細胞内の尿毒素が血管内に移動して血液から除去されていきます。しかし、細胞内に蓄積した尿毒素、特に中分子尿毒素は血管内への移動に時間がかかるため標準的な透析では十分に除去できません。そこで、長時間透析により十分な透析を行い、細胞内の尿毒素まで除去することで、尿毒症による症状の改善が期待されます。

透析後の怠さの原因である「急激な血圧低下」を避ける

腎機能が低下すると尿が出なくなり、その結果体内に水分がたまり、高血圧浮腫(むくみ)、肺水腫(肺に水が溜まる)の原因となります。

透析治療後に、からだの怠さを訴える患者さんがいますが、これは短い時間で、急激に体液量が減ったために起こります。サウナで大量の汗をかいた後、頭がふらふらしたりからだの怠さを感じたりした経験はありませんか?通常の透析治療後のからだの状態は、これと似ています。また、急激に水分量が減ることで血圧低下も招きやすくなります。

一方、長時間透析ではゆっくりと水分をからだの外へ排出することができます。同じ量の水分を除去するのであれば、よりゆっくりと水分を除去することで急激な血圧低下を避け、透析治療直後のからだの怠さを軽減することができるのです。

食べ物からの十分なエネルギー摂取を目指す

腎機能が低下すると、血液中にカリウムやリンといった電解質がたまり、高カリウム血症・高リン血症といった状態になります。

高カリウム血症は手足の脱力麻痺が主な症状ですが、特に深刻な場合には心停止などのリスクがあります。一方、高リン血症は短期的には生命の危険を来すことはありませんが、長期的には血管の石灰化をまねき、心筋梗塞脳卒中のリスクを高めます。また、痒みの原因にもなります。

透析患者さんは、高カリウム血症や高リン血症を防ぐために吸着薬(食物中のカリウムやリンが体内に吸収されるのを防ぎ、大便といっしょに体外に出してくれる薬)を服用する必要があります。長時間透析によってカリウムやリンを十分に体外に排出することができれば、こうした吸着薬の服用も減らすことができます。

日々の生活の中で、カリウムやリンを含む食物の制限を続けるのは容易なことではなく、透析患者さんは、高カリウム血症や高リン血症を改善するために食事量そのものを減らす傾向にあります。その結果、十分なエネルギー摂取ができずにやせていきます。長時間透析では、十分に透析することで、カリウムやリンのことをそれ程気にせずに食事を摂取することができるので、十分なエネルギー摂取が可能で、栄養状態の改善も見込めます。

腎不全の患者さんが高血圧になる2つの原因

水滴のついた緑の葉-写真

高血圧となる原因は、塩分の摂りすぎ、ストレス動脈硬化などさまざまな要素が関わっています。腎不全では高血圧になることが多く、患者さんは多数の降圧薬の服用に加えて、保存期腎不全の頃から塩分制限の指導を受けます。これは透析導入後も変わらず、塩分の過剰摂取は体重増加や高血圧の原因として厳しく注意されます。

塩分を摂り過ぎると血液中の塩分濃度が高くなり、それを下げようとして体は水を欲し、血管内に水分が取り込まれます。すると血液量が増え、血管を押す圧力、つまり血圧が上がります。一般に、塩分が高血圧を引き起こす原因としては上記のようなしくみが考えられます。それに加えて、腎不全では塩分を排泄する機能も低下しているため、更に高血圧を来しやすくなります。腎不全の患者さんの塩分制限が必要になるのはこのためです。

透析導入後も患者さんは塩分制限の指導を繰り返しされますが、透析だけでは、十分に血液中の塩分が取り除けないのでしょうか。実は、塩分だけなら、通常の透析でも十分に是正できるのです。腎不全の高血圧には、塩分だけではなく尿毒素の存在が大きく影響しています。

尿毒素の中には交感神経を興奮させる物質が含まれています。交感神経には心臓の働きを活発にして心拍数を増やし、血圧をあげるはたらきがあります。こうした尿毒素は中分子領域に含まれており、通常の透析では十分に除去されません。その結果、透析患者さんは高血圧を来たし多数の降圧薬を服用しなければならないのです。長時間透析ではこうした中分子尿毒素も除去することができるので、高血圧は是正され降圧薬の数も減らすことができるのです。

まとめ

現在、国の保険制度では透析時間は4時間未満、4~5時間、5時間以上の3つの区分に分けられ、1回4時間、週12時間の透析が「標準透析」となっています。しかし、どの程度の透析が医学的に必要となるかについては、患者さんそれぞれの状態によって異なります。そのため、治療方法や方針について知り、自分にあった治療法を見つけることが大切です。

実は、長時間透析を行っても診療報酬には反映されず、水道代、電気代、人件費などは透析施設の持ち出しになっています。経営効率を度外視しても良い透析をしたいという志をもった医師が自主的に行っているのが現状であり、長時間透析を受けられる施設は限られています。しかし、この記事が、毎日を健やかに過ごすために、自分自身に適した治療法として長時間透析を一つの選択肢と考えることの一助になればと思います。