エイズとコミュニケーション

HIV感染症の最新治療法~治療開始前のコミュニケーションが一番重要~

HIV感染症・AIDSの治療は、医療の進歩により改善されつつある一方で、現在もなお患者さんにとっては大変負担となるものです。治療にあたっては、「日和見感染症」への注意や薬の正しい服用が必要となることはもちろんですが、その大前提として「医師と患者さんのコミュニケーション」が肝になります。

本稿は、HIV感染症・AIDSの専門医に限らず、「一般医・家庭医がHIV感染症の治療を担当していただくにあたって求められていること」という視点を中心に、日和見感染症、免疫再構築症候群、薬剤耐性ウイルスといったキーワードを読み解いていきたいと思います。

HIV感染症の治療に当たって

最新の治療法のところを読まれる方は、どのような治療方法があるのかを知りたいという次の方々ではないでしょうか。

  1. 自分や家族、知人がHIV/AIDSと診断された方。
  2. 自分や家族、知人がHIV/AIDSを診断されるかもと思っている方。
  3. 医療者として自分の患者さんがHIV/AIDSと診断された方。
  4. 医師として自分自身がHIV/AIDS診療をしよう、もしくはできるかどうかを考えている方。

治療薬が日進月歩する中、最新の情報を患者さんや医師が自ら収集し、最適な治療を受けたり、提供したりするのは容易なことではありません。一方で、一度治療が導入され、状態が安定した患者さんの治療については、プライマリケア医、家庭医、一般医で十分対応できる時代になっています。そのため、いわゆる「専門医」にかかった方がいい場合と、そうとは限らない場合をわけて考えることが重要です。

その最初の見極め点がAIDSを発症している、もしくは免疫力が低下している場合です。このような状態では絶対に専門医に紹介し、専門医が治療を行うことが不可欠です。一方で、たとえ最初の時点でAIDSを発症していたとしても、HIV感染症や日和見感染症の治療が功を奏し、免疫力がある程度回復した患者さんの場合は、それほど患者さんを診療した経験がない医師であっても、十分対応することが可能です。

このように、HIV感染症・AIDSの治療は、中長期的な視点に立って、専門医と一般医・家庭医がうまく役割分担をしながら行うことが求められています。こうした役割分担は、かかりつけ医と二人三脚で治療に取り組める点で、患者さんにとってもメリットがあります。加えて、一般医・家庭医の先生には、患者さんが先生自身のところに戻ってくることを想定して最新の治療法について勉強し、その上で最初に診断した際の患者さんへの告知に関するご配慮をぜひお願いしたいと思います。

まずは「日和見感染症」にご注意を

CD4陽性リンパ球数と発症する可能性のある日和見感染症の関係

人間の体の中には様々な病原体が住み着いています。「病原体」とは、名称からもわかるように病気の原因となる細菌、原虫、ウイルスなどです。体の免疫力が保たれているときはその「病原体」は悪さをすることなく、その病原体が住み着いている人もいわゆる「病気」の状態にはなりません。

しかし、HIVに感染することで、HIVが感染するCD4陽性リンパ球(以下:CD4)という免疫細胞が破壊され、その人の免疫力が低下し、それまで抑えられていた病原体が病気を引き起こします。それが日和見感染症、すなわち住み着いている人の免疫力の低下を見計らって病気を発症した状態となります。

HIVに感染していることが確定した場合、HIVが感染し破壊するCD4の数を調べます。正常値は700以上とされていますが、CD4の値が低下するにしたがって、様々な日和見感染症を発症する可能性が高まります(図)。そのため、予防可能な日和見感染症については積極的に予防的治療が行われています。

患者さんにとって、まだ発症もしていない日和見感染症の予防的治療の意味がピンと来なかったり、早くHIVの治療をして欲しいという思いになられるものです。しかし、実はこの予防的治療をきちんと行う間に、患者さんが冷静に病気と向き合ったり、患者さんと医療者がお互いに慣れたり、コミュニケーションが取れたりするようになることが重要です。

AIDSの時は直ちに専門医へ

HIVに感染していることが確定した人がカンジダ症(食道、気管、気管支、肺)、ニューモシスティス肺炎、活動性結核(肺結核又は肺外結核)、カポジ肉腫、原発性脳リンパ腫、HIV脳症(認知症又は亜急性脳炎)など、23の指標疾患(Indicator Disease)の1つ以上が明らかに認められる場合、AIDSと診断されます。早期に治療を開始しないと命取りになったり、重い後遺症を残すことになりますので、一刻も早く専門医のところに紹介してください。

さらに言うと、同じ専門医でも、外来診療に精通している専門医ではなく、多くの科がある総合病院にいる専門医に紹介することが重要です。

治療開始時に要注意の「免疫再構築症候群」

抗HIV薬の進歩に伴い、CD4が低下している人でも抗HIV薬を使用することでCD4が著名に改善するようになってきました。このこと自体は患者さんにとっても、医療関係者にとっても大変うれしい事実です。しかし、抗HIV療法を導入する際には問題になっていなかった日和見感染症などの炎症が、治療を開始したところ急激に発症、悪化するということがあるということが明らかになり、免疫再構築症候群と呼ばれるようになりました。

治療開始後に免疫再構築症候群ということが起こり得ることを想定していれば速やかな対処が可能となりますが、このことを知らないで治療を開始すると思わぬトラブルになりかねません。

HIV/AIDSがコントロールできる病気になってきた、慢性疾患と言われるようになってきたからこそ、患者さんの治療を確実に行うことが重要になります。そのためにも

  1. 抗HIV療法は必ず経験を積んだ医療機関(HIV/エイズ診療拠点病院)で開始すること
  2. 免疫力が低下する前に、すなわち、HIV感染を早期発見、早期診断すること

が重要です。

すなわち免疫再構築症候群という厳しい状況にならないためには、何より早めに検査を受けることの重要性を、ぜひ最初に診断した先生から患者さんに伝えていただければ、患者さんもきちんと紹介先を受診する気持ちになります。

治療を始めるに当たって

薬とカレンダー

1.「ウイルスを抑える治療」が意味すること

抗HIV薬が進歩したとはいえ、「治療をすればHIVは抑えられ、天寿を全うできるようになりました」と安易に言えないというのが治療をしている側の正直な気持ちです。確かに治療薬は昔と比べて格段に効くようにもなり、飲みやすくもなっています。しかし、現時点では完治しない、ウイルスを完全に除去する治療ではなく、今ある治療はウイルスを抑えるだけの治療だということです。

2.薬が効かないHIVが増加中

抗HIV薬が進歩する一方で、薬が効かないウイルス(薬剤耐性ウイルス)が増えていることが大きな問題になっています。抗HIV薬がウイルスの増殖を抑える仕組みは複雑ですが、もっとも大事なことは、患者さんが服用した薬の血液中の濃度が、ウイルスの増殖を抑えるのに足りる濃度が確保されることです。

1日3回服用しなければならない薬を1日に1回飲み忘れれば、薬がウイルスを抑えるだけの薬の血液の中の濃度が保たれないため、薬の効果を発揮してウイルスを抑えることができなくなります。そのような状態になったとき、ウイルスは突然変異というのを起こし、その薬が効かないタイプのものに変わることがわかってきました。

1日3回服用しなければならない薬だと、1か月に60回服用することになりますが、皆さんだったら何回飲み忘れますか。薬剤耐性ウイルスを作らないためには、飲み忘れていいのが20回に1回といわれています。外出時に持って行くのを忘れた、友人と食事をしていて、「何の薬?」と聞かれるのがいやだったのでつい飲み損ねてしまった、ということを患者さんは話されます。それこそ、実家の家族には打ち明けていなかったため、帰省の時に飲めなかったといった状況の中で、結果的に耐性ウイルスが増加しています。

3.薬を飲み続けるための支援環境の整備が重要

何でもいいので、自分自身が継続的にし続けていることを思い浮かべてみてください。そして、何故、そのことを続けていられるのかを考えてみてください。おそらく一緒に活動をする仲間がいたり、支えてくれる先輩や家族の存在があったりと、あなたを取り巻く環境要因が大きく影響しているはずです。実はHIV感染症の治療も慢性疾患になったからこそ、長期にわたって薬を飲み続ける患者さんを支えてくれる環境が重要になります。

20歳から治療を始めれば、80歳を超え、天寿を全うするまでの60数年間飲み続けなければなりません。友達に言えない、職場に言えない、家族に言えない、それこそパートナーにも言えない…こんな人が少なくありません。そのためにも、せめて治療を受ける医療機関が定期的に尋ねたくなる居場所となり得るように努力をしているつもりです。

まとめ

HIV感染症の治療というと、どのような薬があるのか、いつから服用すればいいのか、お金はいくらかかるか、副作用はどうなのか、一日何回飲まなければならないのか、といったところに関心が集まりがちです。しかし、実際に服用を余儀なくされた人にとって最も大事なことは、きちんと飲み続けられる環境が確保されていることです。

HIVに感染していると言われた人も、AIDSと診断された人も、とにかく命は大丈夫なのだろうか。死なないのか。そんなことばかりが頭をよぎり、5年先、10年先まで薬を飲み続けている自分のことを想像する余裕はないかと思います。だからこそ、医療関係者・医療チームのみんなは、この患者さんが、継続的に治療を受け続けられる環境をどう作るかを常に考え続けています。