糖尿病には細い血管が侵される、神経障害網膜症腎症の三つの合併症と太い血管が侵される心筋梗塞、脳梗塞の二つの合併症があります。

今回は太い血管が侵される合併症、心筋梗塞脳梗塞についてお話します。心筋梗塞、脳梗塞は糖尿病の死因の30%近くを占める恐ろしい疾患です(糖尿病学会誌、2007、No1、p47-61、アンケート調査による日本人糖尿病死因1991-2000)。命が助かっても日常生活に支障をきたすような障害を残すことがあり、できるだけ避けたい合併症です。

目次

「血糖スパイク」に要注意

心臓を取り巻く冠動脈や脳細胞を栄養する脳動脈などの太い血管の動脈硬化は、糖尿病単独での悪化というより高血圧高脂血症喫煙肥満などの動脈硬化の危険因子がいくつか重なり合って相加相乗的に進行し、20~30年後、年齢にして60~70歳代頃に心筋梗塞、脳梗塞として発症する印象があります。

糖尿病での太い血管の動脈硬化は、血糖値が正常と糖尿病の間にある境界型糖尿病の時期から始まっており、“血糖スパイク”が血管を傷つけ硬化させると考えられています。

血糖スパイクとは、食事を摂ると急激に上昇する血糖値(食後高血糖)のことを言います。食前の血糖値と食後の最高血糖値との差があればあるほど、動脈硬化が進むと考えられています。ですから最近の糖尿病治療ではよく“血糖の質”が問われています。HbA1c<7.0%に保ちつつ1日の血糖値のアップダウン(変動)をできるだけ少なくする治療(内服薬食後の運動と、後述する食事をとるときの順番など)が動脈硬化を抑制するとされています。また、質の良い血糖コントロールとともに、禁煙、血圧や脂質のコントロールも合わせて必要です。

心筋梗塞、脳梗塞の発病のサイン

胸を抑える

心筋梗塞では、通常は冷や汗と恐怖感を伴う左胸の圧迫されるような、締め付けられるような痛みが15分以上続くことがサインとなります。糖尿病の心筋梗塞は無症状のことも多く、いきなり心不全になって足が浮腫んで呼吸が苦しくなったりもします。

脳梗塞では物が二重に見えたり、呂律が回らなくなったり、体の右側か左側のどちらかの手足が動きづらくなったりします。

どちらも生死に関わる緊急の事態ですから、ためらわずに救急受診してください。

まとめ~動脈硬化を防ぐために

生死に関わり日常生活に支障をきたし得る動脈硬化性の合併症を防ぐためにも、HbA1c<7.0%に維持するとともに、質の良い血糖コントロールを保つことが必要です。そのためには食後の血糖スパイクを抑えるため、食事療法では、食べる順番を考えて野菜→おかず→主食の順で食べることで糖の吸収速度を抑えることができます。また、血糖スパイクを抑えるお薬も数種類(α-GI、グリニド薬、DPP-4阻害剤、SGLT-2阻害剤など)あり、これらをうまく組み合わせて使うことも重要です。お薬に関しては主治医に相談してみてください。