突然ですが世界一小さい島って何だかご存じですか。実は膵臓に存在するランゲルハンス島という島です。膵臓は胃袋のちょっと下の背中側にある内臓です。膵臓というと消化酵素を作って、腸管に分泌しているイメージがありますね。もちろんそうした役割もありますが、もうひとつ大切な役割として、ホルモンを作って血液中に分泌するという内分泌器官としての面もあります。特にインスリンというホルモンは、ホルモンの代表格であり、一度は耳にしたことがあるかと思います。
今回は膵臓とホルモンの関係についてみていきましょう。
膵島って何?!
膵臓は前述のように消化酵素を作って分泌する外分泌器官ですが、その外分泌を担っている組織と組織の間に、膵島があります。ちょうど大海原の中に島があるようなイメージです。島は一つではなく、ヒトの場合は100万個以上あります。ドイツの病理学者であるランゲルハンス氏が、膵島に自身の名前を付け、ランゲルハンス島と呼ばれるようになりました。でもたくさんの島があるのであれば“ランゲルハンス諸島”にすればよかったのにと思ってしまうのは私だけでしょうか。
膵島を更に詳しく
膵臓の組織の90%以上は外分泌器官であるのに対して、内分泌器官であるランゲルハンス島は10%以下です。
ランゲルハンス島は5種類の細胞から成ります。α細胞、β細胞、δ細胞、ε細胞、PP細胞です。割合はα細胞が15~20%、β細胞が70~80%、δ細胞が5%、ε細胞が1%、PP細胞が4%程度です。分泌するホルモンはα細胞:グルカゴン、β細胞:インスリン、δ細胞:ソマトスタチン、ε細胞:グレリン、PP細胞:膵ポリペプチドです。
各ホルモンの役割
グルカゴン
低血糖にならないようにしているホルモンです。肝臓に蓄えたグリコーゲンを分解したり、アミノ酸を原料にブドウ糖を作ったり、脂肪組織を分解することによります。複雑な物質を分解することによってエネルギーを取り出す異化ホルモンの一種です。
インスリン
高血糖にならないようにしているホルモンです。組織の細胞内にブドウ糖、アミノ酸、カリウムを取り込ませたり、肝臓でグリコーゲンの合成を促したり、脂肪組織で脂肪の合成を促したりします。エネルギーを体に蓄える同化ホルモンの一種です。
ソマトスタチン
グルカゴンやインスリンの分泌、胃酸の分泌を抑えます。膵臓以外に視床下部や消化管からも分泌され、下垂体からの成長ホルモンや甲状腺刺激ホルモンの分泌を抑えます。
グレリン
成長ホルモンの放出を促します。空腹時に分泌が増え、食後に分泌が減ります。
膵ポリペプチド
脳に満腹感を伝えると考えられていますが、まだ解明されていない部分もあります。
各ホルモンの過不足と病気との関係

グルカゴン
多すぎると…
2型糖尿病:身近なものとして生活習慣病のひとつである2型糖尿病があります。ただこれだけで2型糖尿病になるというのではなく、2型糖尿病の患者さんは食後、本来抑制されるべきグルカゴン分泌が抑制されていない面があり、血糖が下がりにくい原因のひとつとなっているということです。
グルカゴノーマ:また、膵α細胞が腫瘍性に増殖したもので、血液中のグルカゴン濃度が高くなり、血糖が高くなる病気が考えられます。
少ないと…
1型糖尿病の低血糖:1型糖尿病の罹病期間が長いと、だんだんグルカゴンの分泌も適切に行われなくなってきます。1型糖尿病に不可欠なインスリン注射が効きすぎた際、重篤な低血糖にならないように、本来、グルカゴンが分泌されるのですが、罹病期間が長いと、だんだん分泌されなくなり、低血糖を起こしやすくなるのです。
インスリン
多すぎると…
インスリノーマ:膵β細胞が腫瘍性に増殖したもので、血液中のインスリン濃度が高くなり、低血糖を起こしてしまう病気です。
少ないと…
1型糖尿病:免疫などが原因で膵β細胞が破壊されてしまうことにより、インスリンがほとんど分泌されない1型糖尿病があります。常に高血糖になり、生命の危機となりますので、インスリン注射が必要です。
ソマトスタチン
多すぎると…
ソマトスタチノーマ:δ細胞が腫瘍性に増殖したもので、血液中のソマトスタチン濃度が高くなり、様々なホルモンが抑制されてしまう病気です。インスリンの分泌が抑制されると糖尿病が起き、胆のうを収縮させるコレシストキニンの分泌が抑制されると胆石ができやすくなります。
グレリンや膵ポリペプチドの過不足で起きる病気はまだ解明されていません。
おわりに
膵臓が消化酵素のみならず、栄養・代謝に関するホルモンを分泌していることがおわかり頂けましたでしょうか。次回は私たちのために頑張ってくれている膵臓をいたわった生活を送るコツについても触れてみたいと思います。