成長ホルモンといえば子供の身長を伸ばすために必要なものとか、筋肉をつけるためにボディービルダーが意識するものといったイメージがあるかと思います。しかし実は私達にとって、とても身近なものなのです。近年、社会問題となっているメタボリック症候群にも関係しますし、美容の面からも注目されつつあります。ここではそんな成長ホルモンの働きと、日常生活において成長ホルモンを適度に増やす方法をみていきましょう。

目次

成長ホルモンとは

脳の下垂体から分泌されるホルモンのひとつです。様々な働きを持っており、その名の通り骨や内臓の成長を促します。20歳を過ぎて身長が伸びなくなっても、人間の体には必要なものです。骨や筋肉の代謝、糖・脂質・タンパク質の代謝、精神状態、皮膚や粘膜の入れ替えに関わっているのです。

成長ホルモンのはたらき

骨へのはたらき

未成年の場合には骨を伸ばすはたらきをします。大人になって身長が伸びなくなっても、骨を丈夫に保つはたらきがあります。そのため成長ホルモンが足りないと、骨がもろくなり、骨折しやすくなります。

筋肉へのはたらき

筋肉でのタンパク質合成を増やし、筋肉を大きくします。筋肉が大きければ、日常生活において活き活きと過ごすことができますし、代謝が良くなって太りにくくなります。またむくみも起きにくくなります。逆に極端に筋肉(特に足腰の筋肉)が減ってしまうと、転びやすくなってしまいます。余談ですが、高齢者の足腰が弱くなって寝たきりとなるのを予防する目的で、成長ホルモン治療が検討されつつあります。

糖脂質の代謝へのはたらき

体に蓄えられた脂肪(内臓脂肪、皮下脂肪)を分解します。脂肪が分解されてできた遊離脂肪酸がエネルギーとして使われるようになります。空腹で血糖値が下がった時に、それ以上、血糖値が下がらないように、成長ホルモンが分泌され、糖ではなく遊離脂肪酸がエネルギーとして使われるようになるのです。また悪玉コレステロールを減らし、善玉コレステロールを増やすはたらきもあります。

精神へのはたらき

ものごとへのやる気や集中力を保つはたらきがあります。成長ホルモンが低くなると、やる気がなくなったり、ものごとへ集中できなくなったり、記憶力が低下したりします。また精神状態が不安定となり、感情の起伏が激しくなることもあります。

皮膚や粘膜へのはたらき

別名、美肌ホルモン、若返りホルモンといわれています。皮膚や粘膜の修復・再生を促します。またコラーゲンを増やし、弾力を保ち、シワができにくくします。真皮層へ水分を保ち、お肌をみずみずしい状態にします。

バストへのはたらき

インターネット上には成長ホルモンにバストアップ作用があるとの情報をよく見かけます。男性に成長ホルモン治療を行うと、女性化乳房といって乳房が女性のように大きくなることが以前から知られています。では女性の場合にはどうでしょう。成長ホルモン治療を行うとバストが張るのは良くあるそうです。

一説によると乳腺にあるラクトゲン受容体に成長ホルモンが作用して乳腺を大きくするそうですが(ラクトゲン受容体がある場合のみだそうです)、著者が検索した限りでは、そうした論文は見つけることができませんでした。

成長ホルモンを減らす原因

うつ伏せの女性-写真

加齢

成長ホルモン分泌のピークは10歳代で、20歳頃から徐々に減っていきます。30~40歳代ではピークの約50%、60歳では約30%にまで減ってしまいます。

睡眠不足

「寝る子は育つ」というのは本当です。ただし質の良い睡眠が必要です。以前は22時~2時の間に成長ホルモンが良く分泌されると考えられていて、この時間帯を睡眠のゴールデンタイムとかシンデレラタイムなどといわれていました。しかし近年、この考えは訂正され、寝始めてからの3時間のあいだに最も分泌されると考えられるようになりました。

糖分の摂り過ぎ

成長ホルモンと糖・脂質代謝を考える際、成長ホルモンは空腹(飢餓)でも、ヒトが生きていくためのエネルギー源(車でいうとガソリン)である糖や脂肪酸を血液中に供給する一面があります。しかし、糖分の摂り過ぎで、常に血糖値がある程度、保たれている状態では、下垂体は成長ホルモンを分泌する必要がないと判断してしまうのです。

内臓脂肪過多

内臓脂肪が多い、いわゆるメタボの状態だと、食事をしてから数時間して、本来であれば空腹となるタイミングでも、血液中にまだ十分にエネルギー源である遊離脂肪酸が存在します。そうすると下垂体は成長ホルモンを分泌する必要がないと判断してしまうのです。

ストレス

ストレスの種類によります。空腹や筋トレといったストレスには、むしろ成長ホルモンの分泌は増える反応をします。しかし精神的ストレスに対しては、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増えることを介して、成長ホルモンの分泌は減ってしまいます。

病気によるもの

成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)といって、病的に成長ホルモンの分泌が少ない状態のことをいいます。診断には病院でのホルモン分泌刺激試験が必要です。原因は脳腫瘍や下垂体の手術後や放射線照射後、外傷などです。

成長ホルモンを増やすには

ポニーテールの女性-写真

AGHDである場合には、医師の管理の下、成長ホルモン製剤を皮下に自己注射する必要があります。

AGHDでなくとも、20歳を過ぎた方は全員、ピーク時よりも成長ホルモンが減っている訳ですから、いつまでも元気に若々しくいるためには、成長ホルモンが分泌されやすい生活を送った方がよいでしょう。どのような点に気を付ければよいかみていきましょう。

食事の量

食事の前には空腹感を感じていますか。もし空腹感を感じていないようでしたら、食事の量が多いのかもしれません。成長ホルモンは空腹時に分泌されるため、空腹感を感じるように食事の量を調節しましょう。

食事の質

成長ホルモンはアミノ酸から作られています。食事で摂ったタンパク質は消化管でアミノ酸に分解されてから吸収されます。成長ホルモンの材料であるアミノ酸を供給するためにはタンパク質が不足しないようにしっかり摂ることが必要です。またアミノ酸の一種であるアルギニンは、下垂体に働きかけ、成長ホルモン分泌を刺激する作用があります。アルギニンを多く含む食品は、鶏肉、海老、大豆製品、落花生、アーモンド、ゴマなどです。これらを意識して摂ると良いでしょう。

睡眠の質

成長ホルモンの約7割は睡眠中、約3割は空腹時と運動中に分泌されるといわれています。それ程、成長ホルモンと睡眠は関係が深いのです。前述のとおり、寝始めてからの3時間のあいだに最も分泌されます。寝始めてから最初に訪れるノンレム睡眠、その中でも特に深い眠りである徐波睡眠の時に多く分泌されます。眠りが浅いと分泌量も減ってしまいます。

眠りが深くなるように、寝る直前のカフェインの摂取は止める、スマートフォンやパソコンは枕元に置かない、部屋の明かりを消すようにする必要があります。また寝る直前に食事をしてしまうと、血糖値が高いままになってしまい、本来、タイミング的に、たくさん分泌すされるはずの成長ホルモンが、分泌されにくくなってしまいます。

食事と就寝の間隔は2~3時間は空けましょう。仕事が忙しくていつも帰りが遅いという方も多いでしょう。そうした場合、夕方に軽く食べ、帰宅してからあまりたくさん食べなくても済むようにしましょう。

運動

筋トレ(無酸素運動)をすると、筋肉で乳酸が発生します。乳酸は血液の流れに乗って、下垂体に届きます。すると成長ホルモン分泌を刺激してくれるのです。別に筋肉ムキムキのマッチョになりたい訳でなくても、筋トレをした方が良いのは、若返りホルモンである成長ホルモンを増やしてくれるからなのです。

そして成長ホルモンは脂肪組織を分解して、血液中の遊離脂肪酸を増やします。しかし血液中の遊離脂肪酸が増えると、成長ホルモンの分泌は減ってしまいます。この血液中に増えた遊離脂肪酸を消費するには、ウォーキングやジョギングなど有酸素運動を行うとよいでしょう。

ただし空腹時に無理に行うと、めまいがしたり、ふらついて転びそうになったりしますので、あまり空腹でないときがよいです。

さいごに

いかがでしょうか。成長ホルモンを増やすように意識することは、健康的な生活を送ることとほぼイコールになることがおわかり頂けたかと思います。食生活や運動に気を配っている人は、実際の年齢より外見も若く見え、仕事やプライベートでも活き活きしています。あなたも今日から、成長ホルモンを増やしてみませんか。