慢性呼吸不全とは、呼吸不全が慢性的に続いた状態のことです。「呼吸不全」とは、「息ができない」という状態と勘違いされがちですが、「体において血液中の酸素が足りない状態」のことをいいます。

ここでは、慢性呼吸不全の症状、原因および治療法について紹介します。

目次

慢性呼吸不全とは

慢性呼吸不全とは、文字通り慢性的に呼吸不全に陥っている状態のことです。本来人間の体では、息を吸うときに空気中の酸素を取り込み、吐くときに体内で作られた二酸化炭素を排出することで、ガス交換をして呼吸が成り立っています。

このガス交換がいろいろな原因により上手くできなくなることを呼吸不全といい、この呼吸不全が1ヶ月以上続いてしまうと慢性呼吸不全と呼ばれます。色々な病気などが関係している場合もあり、放っておくととても危険な病気です。

慢性呼吸不全の症状

基本的には呼吸困難

慢性呼吸不全の症状としては、息切れなどの呼吸困難が代表的です。しかし、症状の程度には個人差があります。

例えば、顕著に呼吸困難の症状が現れず呼吸の動作が少し大きくなるような呼吸困難であっても、進行が緩やかなために息苦しさをそれほど実感しない場合もあるといわれています。
「息切れ」は以下のようにグレード分けすることができます。

MRC(Medical Research Council dyspnea scale)息切れスケール

  • グレード0:息切れを感じない
  • グレード1:強い労作で息切れを感じる
  • グレード2:平地を急ぎ足で移動する、または緩やかな坂を歩いて登る時に息切れを感じる
  • グレード3:平地歩行でも同年齢の人より歩くのが遅い、または自分のペースで平地歩行していても、息継ぎのため休む
  • グレード4:約100ヤード(4m)歩行した後息継ぎのため休む、または数分間平地歩行した後息継ぎのため休む
  • グレード5:息切れがひどくて外出が出来ない、または衣服の着脱でも息切れがする

Fletcher-Hugh-Jones分類 呼吸器疾患患者の運動機能と呼吸困難からみた重症度(I~V段階)評価基準

  • I度:同年齢の健常者とほとんど同様の労作ができ、歩行、階段昇降も健常者なみにできる
  • II度:同年齢の健常者とほとんど同様の労作ができるが、坂、階段の昇降は健常者なみにはできない
  • III度:平地でさえ健常者なみには歩けないが、自分のペースでなら1マイル(1.6km)以上歩ける
  • IV度:休みながらでなければ50ヤード(約46m)も歩けない
  • V度:会話、衣服の着脱にも息切れを自覚する。息切れのため外出できない

その他の症状

呼吸困難、息切れ以外にも次のような症状が起きる可能性があります。急性呼吸不全と似た症状も起きる可能性があるため、注意が必要です。症状が見られたら、早めに医師に相談するようにしましょう。

慢性呼吸不全を引き起こす原因

慢性呼吸不全の多くは、何らかの病気から引き起こされます。主に呼吸器の不調が原因となりますが、その中でも特に多いのが慢性閉塞性肺疾患(COPDです。

COPDは、慢性的に気道が閉塞する病気で、従来は肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれていました。現在は、それらを総称とする疾患名となっています。

COPDの最大の原因は喫煙です。そのため、COPDが原因となって慢性呼吸不全が起こっている場合、治療には禁煙が欠かせません。

その他、慢性呼吸不全は以下のような病気から引き起こされる可能性があります。

慢性呼吸不全の治療法

酸素を吸う男性-写真

慢性呼吸不全の治療としては、酸素不足を補う補助療法リハビリテーションに加え、原因疾患の治療が大切です。

酸素療法

在宅酸素療法

酸素療法は、十分に酸素を血液中に取り込むことができなくなった場合に、濃度の高い酸素を吸入し、血液中の酸素濃度を一定に保つための方法です。ただし適正な酸素量でないと、つまり吸入する酸素が高濃度すぎると、CO2ナルコーシスといって、呼吸が抑制され、酸素と二酸化炭素の換気が不十分になり、呼吸不全が悪化してしまうこともありますので注意が必要です。

現在では病院だけでなく、自宅でも行うことができるようになっており、これを在宅酸素療法と呼びます。携帯用酸素ボンベも開発されているため、外出や旅行をすることも可能です。

なお、適応基準を満たせば、在宅酸素療法は健康保険が使えます。

鼻マスク式陽圧換気法(NPPV)

二酸化炭素が増えている慢性呼吸不全の病態に対しても、この方法では対処ができます。特殊な鼻マスクを装着して、簡便な人工呼吸器で呼吸を補助します。

夜間・睡眠中などを中心に使用し、二酸化炭素が上昇しても、顔や鼻に密着したマスクから肺の中に空気を送り込むことで酸素濃度を保つことができます。

包括的呼吸リハビリテーション

慢性呼吸不全の人のQOL(生活の質)ADL(日常活動度)を改善させる目的で、リハビリテーションを行います。

主な取り組みとして、呼吸訓練、運動療法、栄養指導、日常生活の指導、肺理学療法などがあります。

原因疾患の治療

慢性呼吸不全は前述の通り、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの原因疾患が悪化することで引き起こされます。

原因疾患を放置していると、リハビリテーションや酸素療法を行っていても改善されない場合もあるため、医師と相談し原因疾患の治療もしっかり行うことが大切です。

まとめ

慢性呼吸不全という病気は、初めはあまり目立った症状はなく、徐々に進行するためとても気づきにくいのが怖いところです。

まずは、息切れなどの些細な症状でも気がついた場合には、医師に相談することを考えてみてください。またCOPDを患っている場合には、禁煙するなど生活習慣も見直して症状の悪化を防いで行きましょう。