体調を崩したときなどは、体を安静にして回復を待ちます。ただ長期間体を十分に動かしていないと、体の機能はドンドン低下していきます。これを「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」といい、進行していくと日常生活に支障をきたすようになります。今回は廃用症候群の原因や症状、そして予防について解説します。

目次

廃用症候群が起きやすい人や状況は?

病気や体調不良で横になる時間が長い人、またうつ病などで体を動かすことに消極的になっている人が当てはまります。身体の機能は歳をとっていくにつれて変化し、また低下するので特に高齢者は注意が必要です。驚くほどのスピードで動けなくなっていき、ベッドの上で安静にする期間が2週間ほどでも筋力の低下がみられます。

体の機能が低下してさらに動くのに消極的になってしまうと、より体が弱ってしまう悪循環に陥ってしまいます。

どんな症状が出るの?

杖をついて歩く高齢者

筋萎縮

日常的な生活動作があれば筋肉量は維持されますが、寝ている時間が長くなると筋肉量と持久力が低下し、筋萎縮を起こします。特に足は「歩行」しないと、みるみるうちに筋力の低下し、歩けない状態になっていきます。

関節拘縮(かんせつこうしゅく)

長い間関節を動かさないと、関節が硬くなって動きが悪くなります。筋萎縮同様に、手よりも足に起きやすくなります。

骨萎縮

骨密度を一定の量保つには、日常生活では手足が使われて体重がかかっていなければなりません。寝ている時間が長くなると体重の負荷が減っていき、特に脊椎と大腿骨(だいたいこつ:太ももの部分の骨)に影響を与えて骨が脆くなります。

起立性低血圧

寝ている時間が長くなって筋萎縮や筋量の低下が起こると、立った時に十分に収縮して血液を押し戻すことができなくなります。血圧が低くなることでめまいやふらつき・脱力を起こしたりします。

静脈血栓

廃用症候群で動かずにいると、下肢の静脈に血栓が形成される場合があります。血栓が肺に向かって流れてしまうと、エコノミークラス症候群を引き起こすことに繋がるので注意が必要です。

全身の機能低下

<心機能低下>

心臓から全身に送られる血液量が減少することで、全身の臓器に栄養と酸素が不足します。

<肺機能低下>

を排出する力が弱まったり、物を飲み込む力が低下します。肺炎などになる危険性が高まります。

<泌尿器系の症状>

腎臓機能低下による尿量の減少や尿閉(尿が出なくなること)がみられます。

また、私たちの骨は運動により適度な負荷をかけることで、カルシウムを蓄えて強さを保っていますが、体を動かす機会が減ると、骨の中のカルシウムが血液中に放出されていまします。

血液中のカルシウムの濃度が高くなることで腎臓、尿管、膀胱に結石ができる原因に、結石によりこれらの組織が傷つけられると感染症(尿路感染症など)の原因になります。

<精神機能の低下>

病気や怪我からくる不安感や自己へのあきらめ、閉ざされた空間や慣れない環境などで意欲の低下・うつ状態などが現れます。

廃用症候群は予防が大切!

一度廃用症候群になってしまうと元の状態まで改善することは難しくなります。例えば筋力は1週間動かさず安静にしていると、取り戻すのに1カ月ほど運動することが求められます。そのため予防が重要になります。普段から食事や運動には気をつけ、生活習慣病(動脈硬化・糖尿病・高血圧・脂質異常・肥満など)の予防を心掛けます。

それでももし長期的に入院が必要になった場合には、できるだけ横になっている時間を減らすことを心掛けます。病院や施設の職員とともにリハビリテーションにしっかり取り組むことはもちろん、一人でも意識して体を動かして機能低下を防ぎましょう。一人でできることを数点紹介します。

※なお、入院中であったり他に病気を抱えていたりする場合、ここで紹介する予防法をとることができない方や、とらない方が良い方もいます。どのような予防を行うかについては、主治医とよく相談するようにしましょう。

  • 食事は椅子に座って食べる
  • ベッド上にいる場合でも、できるだけ起きている、もしくは座っている状態を保つ
  • 人との会話を多くする
  • 横になっている時には、足首をグルグル回したり、膝を曲げたり伸ばしたりする
  • 可能な限り、自分のことは自分でする
  • 時間がかかっても、トイレに行く

まとめ

廃用症候群は誰にでも起こりえますが、安静にし過ぎなければ悪循環に陥ることを防ぐことができます。またもし周囲の人が長期入院を強いられたときには「本人ができること」までやってあげずに、見守っていくことも求められます。本人と周囲の知識や心構えでずいぶんと違ってくるので、「病気だから」と大事にしすぎないようにしましょう。

また、上記で紹介した予防法は、入院中の方や病気を抱えている方にとっては無理なことや、かえって良くないこともあります。主治医ともしっかり相談するようにしてください。