NICUをご存知でしょうか?聞いたことがあっても、NICUに実際にどんな赤ちゃんが入室するのか、どんな治療が行われているのか、イメージが難しいのではないでしょうか?ここではNICUが具体的にイメージできるよう、解説していきます。
NICUとは?
NICU(Neonatal Intensive Care Unit)は新生児集中治療室を指し、予定日より早く生まれた赤ちゃん、体重が小さい赤ちゃん、生まれつき病気をもっている赤ちゃんなどが入室する新生児に特化した集中治療室です。
新生児特有の疾患の対応が必要であること、生まれたばかりの赤ちゃんは臓器機能が未熟であることから、その治療に高度な専門性を要するため、成人に高度な治療を行うICU (Intensive Care Unit)と区別されています。
また、産まれたばかりの赤ちゃんにとって両親との愛着をしっかり形成するというのも忘れてはならない重要な側面です。そのため、NICUでは集中治療の必要性を担保しつつ、沐浴(赤ちゃんをお風呂にいれること)やおむつ交換、授乳など、育児練習ができる環境も同時に備えられています。
NICUは主に大学病院や小児専門病院、総合病院にあります。もしNICUのない産院で出産し、生まれてきた赤ちゃんの体調に問題があれば、赤ちゃんのみがNICUのある病院に運ばれます。NICUのある病院で出産すれば、赤ちゃんに何か問題が発生した場合すぐ対応してもらえ、同じ病院内なので面会にも行きやすいというメリットがあります。
NICUに入室する赤ちゃんは?
NICUに入室する赤ちゃんの疾患には下記のようなものがあります。
1.低出生体重児・早産児
2500g未満を低出生体重児といい、そのうち1500g未満を極低出生体重児、1000g未満を超低出生体重児とさらに細かく定義しています。
通常、妊娠37週以降に陣痛が生じお産となります(正期産)。これに対し、22週0日~妊娠36週6日までの出産を早産といいます。早産の赤ちゃんは体重も少なく、あらゆる臓器機能も未熟で胎外での生活に順応することができません。例えば、脳や肺が完成していず自力で呼吸できない、全身に血液を循環させることができない、体温を保てない、栄養を口からとれないといったケースがあり、全身管理が必要となることも非常に多いです。
早産の原因としては、多胎妊娠(例えば双胎)など胎児側にあるのみならず、その他母体側の原因として母体感染や妊娠高血圧症候群、前置胎盤(胎盤が子宮口をふさぐこと)、常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり:分娩前に胎盤が子宮の壁からはがれること)なども挙げることができます。
一般に出生時の週数が早いほど合併症が発生しやすく、生命にかかわるケースもあります。NICUでは、体温・湿度・酸素濃度を管理できる保育器に収容し、人工呼吸器や点滴によって呼吸や循環を補い、鼻から管を通してミルクを胃に注入し、成長をサポートすることも多いです。大きな合併症がない場合、体重2300g・本来の出産予定日などが胎外生活に順応できた目安と見なされ、無事退院の運びとなります(独立行政法人 国立病院機構 京都医療センターより)。
2.新生児仮死
分娩時の異常などが原因で、低酸素血症・循環不全をきたしており母体外環境に胎児がうまく適応できていない状態をいいます。仮死の程度はアプガースコア(表参考:心拍数、呼吸、筋緊張、刺激に対する反射、皮膚色で採点)で評価し、点数が低いほど重症です。
重症度に応じて、治療や成長予後も大きく幅があります。具体的には、重症なケースでは人工呼吸器管理や低体温療法などの集中管理が行われることもあります。その一方で軽症の場合には積極的な治療介入をされることなく注意深い経過観察のみになることもあります。
いずれの場合も入院経過のみでその後の長期発達予後を確実に予測することは困難であり、年齢に応じた成長発達を達成できているかを確認するために、定期的に健診を受けることが大切です。
アプガー(Apgar)スコア | |||
0 | 1 | 2 | |
様子 (Appearance) |
全身チアノーゼ | 末梢チアノーゼ | 全身ピンク |
心拍数(1分間) (Pulse) |
0 | 100回未満 | 100以上 |
刺激反応 (Grimace) |
無反応 | 顔をしかめる | 強く泣く |
筋緊張 (Activity) |
だらんとする | 四肢を軽く曲げる | 四肢を屈曲する |
呼吸 (Respiration) |
自発呼吸なし | 不十分な自発呼吸 | 十分な自発呼吸 |
3.呼吸障害
新生児呼吸窮迫症候群(RDS: Respiratory Distress Syndrome)
赤ちゃんは通常、産声をあげた際に空気を吸いこみ、肺がしっかりふくらむようになっています。そしてこのためには、妊娠32週頃から肺で作られるサーファクタントという物質が必要です。新生児呼吸窮迫症候群(RDS)では、このサーファクタントが不足するために赤ちゃんに呼吸不全が生じます。
一般的に32週未満の早産では、サーファクタントがまだ産生されていないため肺に空気を満たすことができず、呼吸障害がおこり低酸素血症に陥りやすいといわれています。また、糖尿病を持つお母さんから生まれた赤ちゃんの場合、32週を超えていてもサーファクタントが不足しているケースがあるため注意が必要です。
治療は、保育器に収容のうえ人工的なサーファクタントを肺に投与し、人工呼吸器によって呼吸を補助します。
胎便吸引症候群(MAS: Meconium Aspiration Syndrome)
胎児は分娩時におきる酸素欠乏などのストレスに反応して羊水の中で胎便(胎児が生まれる前に作る便)を排泄することがあります。その胎便を肺に吸いこみ呼吸障害をおこすことがあり、胎便吸引症候群(MAS)といいます。過期産の赤ちゃんに見られることが多い合併症です。
軽症例においては保育器内で酸素投与を行いながら、気道内の分泌物を吸引することで回復しますが、重症例では肺洗浄や人工呼吸器による呼吸補助が必要なケースもあります。
新生児一過性多呼吸(TTN: Transient Tachypnea of the Newborn)
出生後、肺の中に羊水が残り一時的に呼吸障害が起きることです。本来であれば、産道を通って外に出る際に、赤ちゃんは産道から圧迫をうけて肺の中の水は自然に排出されます。しかし、帝王切開ではそういった経過をたどらないため、この新生児一過性多呼吸が発生しやすくなります。先に挙げた胎便吸引症候群などでもそうですが、呼吸が速く、息を吸いこむ際に胸がくぼむといった症状をきたします。
NICUでは保育器で酸素投与と気道内分泌物の吸引が行われます。多くは2~3日以内に軽快します。
4.新生児黄疸
赤ちゃんは肝臓でビリルビンを処理・排泄する能力が成人と比べると未熟であることに加えて、ビリルビンのもととなる物質を含む赤血球も成人のものとは大きく異なり、生理的黄疸を発症しやすいですが、通常は自然に消失していきます。しかし、生理的な範囲をこえる場合には治療が必要です。
生理的黄疸は生後2~3日から出現し、出生体重が小さいほど発症しやすく黄疸が持続します。症状は皮膚や眼球が黄色くなり、黄疸の程度が強い場合には赤ちゃんの哺乳力が低下したり眠りがちになったりすることもあります。
日齢に応じて程度が強い高ビリルビン血症がみられた場合には、何かしらの治療介入が行われます。代表的には光線療法といい、皮膚に光を当ててビリルビンをこわし、便と一緒に排泄を促す治療が行われます。多くの場合、この治療のみで黄疸は軽快します。光による目に対する障害を防ぐため、光線治療中はアイマスクで眼をおおう必要があります。
生理的黄疸の多くは光線療法のみで黄疸は改善し、一般的に2~3日程度でNICUを退院できますが、原因や程度によってはそれ以外の治療介入も必要になり入院が長期化する場合もあります。
5.先天性疾患
先天性心疾患やダウン症などの染色体異常、口唇・口蓋裂(こうがいれつ)など、生まれつきの病気がある赤ちゃんの場合、疾患による症状の重症度によってはNICUへ入室し、精密検査及び治療が必要となることもあります。
両親がNICUに入室することは可能?祖父母の面会は?

1.両親の面会
病院の定める面会時間内で自由に面会できるケースが多いですが、入室時には手洗いをし、マスクやガウンをつけて入室しなければなりません。
赤ちゃんの体調にもよりますが、肌と肌を合わせて抱っこするカンガルーケアや、授乳、沐浴、おむつ交換などの育児練習を行えます。写真や動画撮影もでき、成長記録を残すことも可能です。面会の際にしぼって冷凍した母乳を持参すれば、優先的に母乳で授乳してくれます。
NICUに入室中のお子さんの多くは免疫力が特に弱く、ミルクでは補え切れない余りあるメリットを持つ母乳を必要とするお子さんがほとんどです。母児愛着形成という意味からも、できる範囲で構いませんので、ぜひ母乳を持っていってあげるようにしてください。
退院前に、退院後の生活を体験できるよう、NICUを退院した赤ちゃんと一緒に1~2泊程度でお泊り入院ができる病院もあります。退院後家庭で医療処置が必要なケースでは、1日の流れがイメージしやすくなります。
2.両親以外の面会
NICUには大勢の面会者は入室できません。両親以外の面会は、面会用の窓越しに面会するか、入室できても人数が制限されることが多いでしょう。面会に予約が必要な場合もあるため、病院に確認してみましょう。
NICUでは、感染予防の観点から赤ちゃんのお兄ちゃん・お姉ちゃんの入室は難しいケースがほとんどです。心待ちにしていた赤ちゃんに直接会えないのは残念ですが、窓越しでの面会を促したり、入室のできるお父さん・お母さんが写真を見せたりすることで、赤ちゃんが家族の一員に加わったんだということをご兄弟が少しでも実感できるようにしてあげると良いですね。
まとめ
NICUのある病院でお産をするメリットを知っておくと、産院選びの際に役立ちますね。NICUに赤ちゃんが入室するのは不安なことですが、NICUでは赤ちゃんの治療だけではなく、家族へのサポート体制も充実していますので、不安なことは相談してみましょう。